グレンの説得
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「な、何かあったようじゃが、とりあえず、良くぞ来てくれたの」
戸惑いや不安など、さまざまな感情を無理やり押さえ込んだような複雑な表情でグレンがそう挨拶をした。
対して、ソファーに座った白いローブ姿の二人はそれぞれ笑みを浮かべて頷く。
「いや、こちらこそ。かの大魔術師、グレン殿にお会いできて感無量ですぞ! 私はアラバータ・ドメク! メイプルリーフ聖皇国近衛騎士団副団長をしております! 以後、よろしくお願いする!」
巨体に見合うような腹に響く大声を発し、アラバータと名乗る獣人の男は頭を下げた。魔除けか何かの銅像のような顔をしているのだが、耳や尻尾はふさふさでとても触り心地が良さそうだ。
アラバータが挨拶を終えると、続いて隣に座る明るい薄緑色の髪の男、クラウンが口を開いた。
「メイプルリーフ聖皇国宮廷魔術師団所属、クラウン・ウィンザーです。今回は勅命もありますが、それを抜きにして世界に名だたるフィディック学院をじっくり見学します。是非、グレン様とも魔術について語り合いたいのですが」
目を輝かせてというか、ギラつかせてクラウンが挨拶をする。それにはグレンも若干引きながら苦笑いをした。
「は、はっはっは……いやいや、魔術大国であるメイプルリーフ聖皇国の宮廷魔術師殿に見せるほどの魔術など大してありませんぞ。むしろ、噂に聞くクラウン殿の魔術をこそ是非拝見したいと……」
と、相手を持ち上げつつやんわり断ろうとするグレン。クラウンの性格を考えると中々伝わりづらい遠回しな表現だが、アラバータのほうはどうだろうか。
三人が顔を突き合わせているのを立って眺めていたら、そのアラバータがこちらをチラリと見た。
「ご謙遜なさるな、グレン殿。我が国が誇る魔術師のフォア・ペルノ・ローゼズも、そちらのアオイ・コーノミナト殿に魔術対決をして敗れたと聞いております。フォアは我が国において宮廷魔術師長に並ぶとされる一流の魔術師として知られていますからな。我が国の魔術師達は大騒ぎですぞ」
笑いながらだが、探るような気配を匂わせる。それは若く入って間もない新人に負けたというフォアの今後に対してでもあり、フォアに勝ったという私の実力に対しての探りであろう。
それを察してか、グレンは困ったように笑う。
「はっはっは……いやいや、そんな公式の勝負などしておりませんぞ。ただ、フォア君は上級教員としての確固たる実力と誇りを持っており、いきなり上級教員として招かれたアオイ君の実力に疑問を持っただけ、といったところでしょうな。ただ、アオイ君の講義を実際に見聞きしていく内に、自然とフォア君もアオイ君の実力を認めていってくれたのです。いや、素晴らしいことじゃと思いますぞ」
「成る程。つまり、アオイ殿はフォアと同等以上の実力である、と。これは是非その実力を拝見したくなりましたな」
グレンの言葉に納得するようにアラバータが頷く。言い方は柔らかいが、絶対に引かないであろうと理解出来る圧力があった。
それはグレンにも伝わったのか、オーバーアクションで頷き、私に向かって手のひらを上に向けて指し出した。
「いや、それはそうでしょうな。お気持ちは分かりますぞ。しかし、アオイ君はまだ新人でしてな。アラバータ殿やクラウン殿のような他国の要人の前で魔術を披露するのは緊張するでしょうし、とりあえず今回は会食を供にするということで……」
グレンが色々と言い訳を口にし始めたが、アラバータは片方の眉を上げて首を捻る。
「むむ? そうですかな。先程会った時はそれはそれは威風堂々とした様子でしたぞ。迷惑を掛けるところでしたが、クラウンが氷の魔術を街中で見せようとしたところ、見事な氷の魔術を披露して打ち砕いてみせたものですが」
「こ、氷の魔術……!? アオイ君の氷の魔術……じゃと?」
アラバータのセリフに、急にグレンの矛先まで私に向いてしまった。目をギラつかせるグレンに溜め息を吐き、仕方なく口を開いた。
「……私が魔術を見せるのは構いません。ただし、そちらのクラウンさんの魔術を披露していただきます。また、メイプルリーフ聖皇国の最新の魔術及び研究中の魔術についてもご教授ください」
そう答えると、アラバータが眉根を寄せた。
「……それは待っていただきたい。今言った内容は国の重要機密にあたる部分ですぞ。それを簡単に話せなどと……」
「そんなことで良いのか!? もちろん構わないとも! 私がどんな質問にも答えよう!」
と、アラバータが否定的な返答をしようとしたところにクラウンの声が勢いよく被さってくる。それにはアラバータが思いきり顔を顰めた。
「ちょ、ちょっと待て、クラウン! そんな重要なことを簡単に決めるものでは……!」
「さぁ、どこで見せたら良い? 先程良さそうな場所があったが、学院内にもあるだろうか? 出来たらグレン殿の魔術も拝見したいが……!」
「ま、待て! お二方も、今の言葉は聞かなかったことに……! い、一旦、二人で相談させてもらいたい……!」
前のめりで私とグレンを見回すクラウンと、ひどく焦った様子で立ち上がるアラバータ。
その様子を見て、クラウンが魔術狂いと呼ばれる理由を察した。
とはいえ、その姿は新たな魔術を見た時のオーウェンやグレンとひどく似ていた為、私は何となくクラウンのことを他人とは思えない気持ちで眺めたのだった。
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