魔術狂い
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学院の外に出ると、明らかに街では見ない類の衣装に身を包んだ一団がいた。
目深にフードを被った白いローブ姿の者達が二十人以上集まっているのだ。その内、半数以上が武器を所持している。
周りの人々もその集団を警戒し、距離を置いているようだ。
「……失礼します。メイプルリーフ聖皇国の方々でお間違いないでしょうか?」
そっと一番先頭の人に声を掛けてみる。するとローブの裾を揺らして、先頭の男がこちらに振り向く。
「おや、ようやく面会の準備が出来たのか。いや、長かった。まさか、この目と鼻の先の距離でこれだけ待たされるとは思わなかった」
と、男が半笑いでそう言いながら、顔を上げた。だが、随分と上背があるせいか、視線は私の頭上を通り過ぎた。
「……ん?」
一瞬、周囲を見回すように首を振り、最後に視線を落とし、私を見つける。
「ああ、こんなところに」
その一言で私の脳はこの長身の男を敵と認識した。敵意を込めて無言で見上げていると、男はフードを脱いで素顔を露出させた。
目立つ、薄緑色の長い髪の男だ。思いの外整った顔立ちだが、どこか普通ではない雰囲気が漂っている。目立つ武器などは持っていないようだが、魔術師特有の気配は隠せていない。
「……黒い髪の、学院の女教師……」
男は私の頭を穴が開くほど見つめながら、小さく何か呟いた。そして、口の端を吊り上げる。
「……君、もしかして、アオイという魔術師じゃないか?」
男がそう尋ねると、私が答える前に周囲に立つ他のローブ姿の者達が口を開いた。
「……まさか、この少女が?」
「嘘でしょう」
「魔女と聞いてきたからてっきり恐ろしい風貌の婆さんか、妖艶な雰囲気の美熟女を想像してたのに……」
そんな言葉が聞こえてきたので、最後の言葉を発したであろう男を睨みつけておく。
本当にこの失礼な奴らを案内しなくてはいけないのだろうか。
疑問が頭の中に浮かんだが、こんな奴らでも一国の正式な使者達である。流石に腹が立つからと蹴散らすわけにもいかないだろう。
僅かな間に自らの葛藤を胸の内に押し込み、私は顔を上げた。
「……グレン学長がお待ちです。どうぞ、こちらへ」
そう言って学院内へ向かおうとすると、薄緑色の髪の男が声をかけてきた。
「ちょっと待ってくれ。私はクラウン・ウィンザー! 君がアオイ・コーノミナトなんだろう? 頼む! 魔術師としての力を見せてくれ! 私はそのために此処に来たんだ!」
「……それは後でも良いのでは?」
振り返って確認するが、クラウンを名乗った男は引かない。こちらに詰め寄るように一歩踏み出し、片手を顔の前に掲げてみせた。
「これを見てほしい。私が独自に作った魔術を発現するための媒介だ」
そう言ったクラウンの手には、不思議な手袋が装着されていた。手袋は白い皮っぽい素材で、中指に銀色の幅の広いリングがあり、手の甲に線を描くように銀色の紋様があった。
「……魔力の循環と、指向性を持たせる為の品ですね。属性は氷、ですか。よく出来ていると思います」
一応、感想を伝えてみる。すると、クラウンは目を軽く見開いて頷いた。
「そ、そうだ! まさか、一目で看破されるとは思わなかった。いや、同じ視点から研究をしているとしたら納得出来るか! 君も同じような研究をしているのだろう? 私も得意の魔術を見せよう。だから、君も二、三魔術を披露してくれ!」
そう告げて、クラウンは私の返事も待たずに魔力を込め始める。
詠唱が始まると、周囲の者達がようやく魔術を使う気配に気が付き、一気に騒然となる。
だが、避難も対策も間に合わない。クラウンの魔術は、僅か二小節の詠唱だったからだ。詠唱内容も上級相当と思われる。もしかするとグレンと同等のレベルなのかもしれない。
とはいえ、この街中で魔術など危険極まりない。
私は静かに魔力を集中させた。
「凍てつけ、氷の断崖」
クラウンがそう口にした瞬間、私とクラウンの間に氷の山のようなものが出来上がり始めた。周囲の観衆が魔術の発動を察知して驚愕する表情を見せる。
それを横目に見ながら、こちらも魔術を発動させた。
「霜柱」
呟くと、大きくなりつつあった氷山に巨大な亀裂が入った。次の瞬間、クラウンが作り出そうとした氷の塊が粉々に砕け散る。
代わりに現れたのは、私が作り出した氷の塔だ。実際には氷柱のつもりだったのだが、あまりに巨大過ぎて建築物にしか見えない。
クラウンの魔術は見事に消え去り、周囲の者達も一様に目を剥いて驚愕していたのだが、当のクラウンは違った。
「お、おぉ……!? なんと、これは……!」
声を震わせて、狂気の笑みを浮かべている。その姿に眉根を寄せつつ、私は口を開いた。
「……それでは、皆さま。今度こそ大人しく付いてきてください。なお、許可なく魔術を使うことは認めません。次は、私の独断で罰を与えます。良いですね?」
声を少し低くしてそう告げると、白いローブの者達が小刻みに頭を上下に振った。そして、クラウン本人も含みのある笑みを浮かべて頷いた。
その奥で、これまで黙っていた一際大柄な男が口を開く。
「……うぅむ、これは一筋縄ではいかんな」
その言葉は、内容に反して妙に楽しそうだった。
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