望まぬ客
9月15日にアース・スターノベル ルナ様から書籍化させていただきます!
もうちょっとでカバーデザインも公開です!
鈴ノ様の超美麗なイラストを是非チェックしてみてください!
授業も順調に進行し始め、街の表面だけでなく裏の面にもそれなりに詳しくなった。
我ながら順風満帆だと喜んでいたのだが、ある日、グレン学長に呼ばれて不穏な陰が舞い降りる。
「……ふぅ」
溜め息を吐いて、グレンから預かった書状に目を落とす。面倒なことになりそうだ。
学院の中庭で椅子に座り、そんなことを思っていると、こちらに歩いてくる人影に気づいた。ストラスと、エライザ、シェンリーの三人だ。
「あ、アオイ先生がいました!」
シェンリーが輝くような笑顔で私の名を呼ぶ。すると、ストラスとエライザの目もこちらに向いた。
「おはようございます」
椅子から立ち上がり、一礼する。それにシェンリーは慌てて自分の両足に手を付けて深く頭を下げた。
「おはようございます!」
「おはよう」
「おはようございます、アオイさん」
三人は私の前に立ち、挨拶を返す。
「何かありましたか?」
尋ねると、ストラスが私の手に握られた書状を見た。
「……噂だが、この街にメイプルリーフ聖皇国の要人が現れたらしい。それも、悪い意味で名の売れた宮廷魔術師を連れて、だ」
「悪い噂?」
私の疑問に、今度はエライザが眉根を寄せて答える。
「その……通称、魔術狂いと呼ばれるクラウン・ウィンザーという魔術師です。三十代半ば程度の年齢ながら、すでに十もの新たな魔術を生み出した天才魔術師……しかし、その新たな魔術の為に、裏では無数の奴隷が人体実験により犠牲になったと言われています。その、クラウン・ウィンザーがこの学院に来る、と……」
「メイプルリーフ聖皇国の魔術師……成る程」
ストラスとエライザの説明に納得しながら、手に持っていた書状を広げる。
「何故、私なのかと思っていましたが、納得できましたね」
そう言って、ストラス達に広げた書状の内容が見えるように掲げた。三人は顔を寄せ合うようにして書状に近付く。
「……聖皇国へ招致? 新しい魔術学院の立ち上げ……」
「そんな話、聞いたこともありませんでしたが……」
「え? アオイ先生、メイプルリーフに行くんですか……?」
と、三人それぞれ戸惑いを見せた。内容は三人が口にした通りである。ただ、招致の書状にはメイプルリーフ聖皇国の国王である。つまり、聖皇国のトップからの要請ということだ。
これは、グレン学長といえども容易には断れないだろう。
それを理解してか、ストラスは険しい顔でこちらを見た。
「学長は?」
「書状には、聖皇国より迎えが来るとありました。なので、グレン学長が直接使者の方と話し、説得するとのことでした。私が、この学院に残れるように」
答えると、ストラスとエライザが顔を見合わせた。そして、シェンリーが難しい表情で俯く。
「……私の生まれ育った国のことを悪く言いたくはないのですが、今の、国王は……」
言いづらそうにシェンリーが何か呟き、口籠る。それに首を傾げると、代わりにエライザが口を開く。
「その、先代のメイプルリーフの国王は穏健派で、内政に重点を置く方針だったようですが……その嫡男である現国王は強行的な手段をとってでも、国内の魔術のレベルを高めようとしています。だから、クラウンのような魔術師が宮廷魔術師の地位に……」
と、他国の批判となる為か、歯切れが悪そうに語った。それらの意見に頷き、考える。それらの情報が真実ならばあの書状の内容にも頷けるし、そう簡単に引かないであろうことも予想できた。
そこまで考えて書状を仕舞い込み、溜め息を吐く。
「……まぁ、今はまだ行きませんが」
せっかくフィディック学院にも慣れてきたのだ。まずは、この学院に無詠唱と魔法陣の普及をしなくてはならない。
学生や教員の魔術への知識と理解を底上げすれば、いずれ私やオーウェンでも考えつかなかった魔術の理論が生まれるに違いない。
それを達成した後ならば要請に従っても良いと思う。
そんな考えのもと呟いた言葉だったが、三人は「え」という顔をした。
「……いずれ行くのか?」
「学院を捨てるんですか!?」
「わ、私はアオイ先生に付いていきますから」
三人に一斉に言われて、首を左右に振る。
「この学院の状況が変わったなら他の学院にも足を運んでみたいですね。ただ、今すぐという話ではありませんから」
私の言葉にあまり納得した様子ではなかったが、ひとまず三人も落ち着いた。
「グレン学長は恐らく明日にも学院に来ると予想していました。なので、一度帰って準備をしておこうと思います」
「準備?」
「着替えですか?」
私の言葉に、三人が首を傾げる。それに微笑み返し、首肯する。
「メイプルリーフ聖皇国の魔術師が来るのならば、その方がどれほどの魔術を使えるのか、確認をしておきたいと思いまして」
そう口にすると、三人は揃って顔を引き攣らせたのだった。何故だろうか。
次の日、準備した品物を鞄に詰めた私は学院長の執務室へ顔を出していた。
「お呼びですか?」
「おぉ、よく来てくれたの」
扉を開けてすぐグレンと目が合い、言葉を交わす。
「昨日、早馬により知らせを受け取ったわけじゃが、こちらに来るという御仁の性格を考えると、もしかしたら早馬並みの速度で向かっているかもしれん。そう思って早ければ明日にも来るかも、と言ったのじゃ」
「……? はい、分かっています」
妙な言い方に首を捻りながら頷いておくと、グレンは急に嫌そうに顔を顰めて首を左右に振った。
「まさか、本当に知らせを受け取った翌日に来るとは思わんかった」
「……もう来られたのですか?」
まさかの発言に、思わず聞き返す。それにグレンは顔を顰めたまま頷いた。
「……うむ。もう学院の外で面会の許可を待っておるそうだ。はぁ……面倒じゃのぅ。どうしようかのぅ」
「どうするも何も、会わないなんてこと出来るのですか?」
「無理」
「じゃあ、お呼びするしかないですね」
渋るグレンにそう助言すると、嫌いな食べ物を前にした子供のような顔になってしまった。
「嫌じゃー! 面倒なんじゃもん! しかも、来たのが魔術狂いじゃぞ? 話なんか聞いてくれないに違いないぞい! あー、もう帰りたいぞい……」
と、グレンはすっかり心が折れてしまった。
「……では、私が迎えに行ってきましょう。その間に覚悟を決めておいてください」
「お、おぉ……かたじけない」
そんなやり取りをして、私は執務室を後にする。
グレンがあれだけ嫌そうにするということは、クラウン・ウィンザーという魔術師はよほど面倒な性格なのだろう。
これは、私自身も覚悟しておかねばならない。
気を引き締め直して、私は廊下を歩いたのだった。
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ページ下部の☆を押して評価をお願い致します!
作者の励みになります!




