質問タイム
薄暗い室内に、およそ十人ほどの男達が並んで座っている。硬い床に正座してジッとしている様は、何処か修行僧のようにも見えた。
そして、その十人の前に椅子に座り、ロープで拘束された女が一人。あの暗殺技術を有する身長の高い女である。
女は歯を噛み締めるように閉じて、顎を引いた状態でこちらを睨んでいた。
一部治療の必要な者たちは学院の医療施設とやらに連れて行ってもらったが、残りは全て私の研究室に連れてきている。
ロックスには私が必要な情報は聞き出すからと無理を言って身柄を預からせてもらった。
ロックスが青白い顔色で見送っていたのが気になるが、ひとまずは事件の主犯らしき者たちと話すことができたので良かった。
全員の顔が頭上からの光の関係で暗く沈んでいるが、私は努めて普通通りの声で尋ねる。
「それでは質問します。あなた方はネヴィス一家で間違いないですね?」
「……ああ、まぁな」
女が答えた。意外にも素直である。
「それでは、立場とお名前を」
そう聞くと、縛られたまま脚を組み顔を上げてこちらを睨む。
「カリラ・ネヴィス……ネヴィス一家のボスだ」
「嘘を吐いたら、どうなるか……あまり愉快なことにはなりませんよ?」
組織のトップということは無いだろう。そう思って一言脅したのだが、カリラを名乗る女は不満そうに眉根を寄せる。
「嘘だってのか?」
ドスの利いた声で聞き返された。溜め息を吐きつつ、肩を竦める。
「こういった大きな街に巣食う巨悪の首魁ともなれば、もっと年齢や実力も高いものかと」
そう指摘すると、カリラと後ろの男達は肩を落として俯いた。
「……俺らは少数精鋭でやってきたんだよ。この街の顔役の中では実力もある方だぞ……」
「え?」
聞き間違いかと思って首を傾げると、カリラが顔を真っ赤にして口を開いた。
「お前がおかしいんだよ! 魔術を素手で防ぐ奴なんて初めて見たぞ!?」
「身体強化の魔術を使っています」
「そういう話じゃない!? それならうちの奴らは皆素手で魔術を防げる筈だろうが!」
と、怒鳴り散らして肩で息をするカリラ。
「頑張れば出来ますよ。要は鍛錬です」
応援も込めてそれだけ言ってみたが、カリラはがっくりと肩を落とすだけだった。
「……もういい。お前が異常なのは理解した。俺達を衛兵に突き出さなかった理由を言え。後ろの奴らを殺さないなら、なんでも協力してやる」
諦観を滲ませて、カリラは疲れたようにそう呟く。案外仲間意識が強いのか、部下を庇うカリラ。
ふむ。そこまで言わせればこっちのもの。計画通りだ。
私は優しく微笑み、カリラに一歩歩み寄る。
すると、カリラが首を竦めて息を呑んだ。
「な、な、なんだ!? 何を企んでいる!? 残虐な笑みを浮かべて……!?」
「……残虐とは失礼な。いえ、みなまで言いません。捕まっているから怖い思いをしていますよね」
「いや、怖いのはお前の……」
何か言いたそうだったので顔を見たら、カリラは口を噤んで視線を逸らした。
その横顔を半眼で観察しつつ、本題へと移行する。
「……話を戻します。では、貴女をネヴィス一家のボスと仮定しましょう。根城を持ち、あれだけの集客力がある組織のトップならば、他の組織の情報や居場所も知っていますよね?」
「……他のって、別に俺達は横の繋がりなんて」
目を泳がせながら言い淀むカリラに、私は眉間に皺を作って威圧してみた。
「嘘、偽りは許しません。もし、嘘を吐いた場合、どうなるか……」
段々と声を低くしながらそう告げる。
すると、カリラは台詞の途中で奇怪な声を上げ、首を左右に何度も振った。
「あ、ああっ! 思い出した! そういやぁ、つい何ヶ月か前に顔役が集まって縄張りについて話し合ったんだった!」
「ぼ、ボス! その話は……!」
カリラが急に素直に話し出すと、後ろに居並ぶ部下の男達が悲鳴のような声をあげる。カリラはそれに顔を顰めつつ、横顔を向けて怒鳴った。
「テメェらの命が掛かってんだ! 黙ってろ!」
「う……」
自分たちの為にやっている、とカリラが口にし、男達は何も言えなくなって俯いた。
それに頷き、カリラと男達を順番に見る。
「賢明な判断です。さぁ、どうぞ。続きを」
私の言葉に、カリラは深刻な表情で首肯した。
「……この街は金の成る木だ。やろうと思えば、各国と近隣の小国に手を出す切っ掛けを得ることが出来る。だが、今は同じことを考えている輩が多くてな。牽制し合う形になっちまって思ったより儲けられていない。まぁ、それでも他の街に比べたら天国みたいなもんだけどな」
鼻を鳴らして笑いながら、そう前置きをする。
そして、カリラは僅かに顎を引いて口を開いた。
「……この街は、各国のでかい組織がちょっかいをかけてるのさ。その中でも影響力が大きいのが……」
そう言って、順番に組織の名を明かす。
大国から来た組織はやはり構成する人数が多いらしい。そして、やはりと言うべきか、どの組織も大なり小なり賭博や違法奴隷、盗品などを使って荒稼ぎしているようだ。
その中で、学院の生徒に悪影響を与えているのは賭博だけだろうか。
「その違法奴隷というものはどういう商売でしょうか」
「……単純に孤児だったり誘拐してきた奴だったりを無理矢理奴隷にして売るだけだ。ガリガリの貧乏人はいつ死ぬか分からないから、商人の子や貴族の子なんてのが一番儲かる。この街には他国からの貴族が多いからな。すぐに売っぱらっちまえば意外とバレないようだな」
「……他国からの貴族というのは、うちの学院に通う……」
「お、俺達はやってねぇぞ!? そういうのをやるのは自国に販路を持つ隣国の奴らだ! 違う国に売られるからバレづらいって話なんだよ!」
慌てて言い訳を始めるカリラを睨みつつ、思案する。
他国に行っていた我が子が誘拐されたとなれば、普通は騎士団でも引き連れて乗り込んできそうなものだが、そんな話はまだ聞いたことが無い。
後で、ロックスに聞いてみよう。
「……分かりました。では、後はその組織の居場所ですね」
「い、いや、そればっかりは本当に分からねぇよ。決められているのは縄張りだけだ。商売の内容も不干渉が基本だからな。金のネタは有り余ってんだ。だから、その会合で話し合うのは縄張りの確認と揉め事の解決、騎士団やら衛兵の情報、くらいだな」
と、カリラは溜め息混じりに答える。流石にここまで話しておいて最後に嘘を吐くこともないだろう。
「成る程」
そう言って微笑むと、カリラは身震いして首を竦めた。
「な、な、なんだ!? 俺は協力したぞ! 約束は守ってくれよ、頼む!」
泣きそうな顔で訴えられ、私は眉根を寄せて目を細める。
「失礼な。約束は守りますよ? ただ、貴女の言った言葉が、真実か確認をしてから、ですが」
そう告げると、カリラは目に涙を浮かべながら息を呑んだのだった。
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