生徒達に広がる遊び
申し訳ありませんが、さらにタイトル変更です。。。
三度目の正直、なるか……!
思ったより生徒が増えなかった。
その後、すぐの授業で二人。更にその後の授業では一人。新しく授業に来た人は合計でその三名だけである。
「何故でしょう?」
尋ねると、エライザは首を左右にぶんぶんと音が鳴るほど振った。
「わ、分かりません……! ただ、最近はどの授業も人数が減っていると……!」
その言葉に、ストラスも口の中に入っていたパンを咀嚼し終えて頷く。
「確かに。俺の授業もいつもより数人減っているな」
同意するストラスに、エライザが振り向く。
「やっぱり! ほら、皆もそうなんですよ! むしろ、この状況下で少しでも増えてるなんて凄いですよ!?」
「……そうでしょうか?」
むぅ……乗せられてしまった気がする。まぁ、良いか。
「しかし、何故そんな生徒達が減るようなことに?」
尋ねると二人は揃って腕を組み、首を傾げた。
「分からん」
「何ででしょうねぇ?」
二人がそんな返事をする中、深い溜め息が左手側から聞こえてきた。
顔を向けると、こちらに向けて歩いて来るスペイサイドの姿がある。絵になる男だ。不思議と食堂にいる人々の目もそちらに向いたような気がする。
スペイサイドは端正な顔を歪め、もう一度溜め息を吐いてみせた。
「生徒達の動向にも興味を持ってほしいものですね。教師たるもの、魔術のことだけ考えていて良いわけではないと思いますが」
嫌味をチクリ。
それにエライザが歯を剥いて威嚇しているが、私は気にせずに聞き返す。
「何か情報を?」
尋ねると、スペイサイドは軽く肩を竦めて口を開いた。
「とりあえず、一部グループが街で遊び歩いている、という話は聞いています。また、それについてロックス君が単独で調査をしているようですね。ただ、当の本人からは何も教えてもらえませんでした」
「ロックス君を捕まえます。情報を聞き出しましょう」
わたしは即決断し、立ち上がった。
「待て待て待て」
「ちょ、ちょっと!?」
二人が立ち上がり、抗議の声を上げる。
「黒幕と決まったわけではない」
「そうですよ! 濡れ衣かもしれません!」
必要以上に騒ぎ立てるその反応に、私は眉根を寄せた。
「……言い方は悪かったかもしれませんが、別にロックス君を容疑者として取り調べするつもりはありませんが……」
目を細めて二人を見ると、音が鳴る勢いで顔を逸らされた。不服である。
「……まぁ、良いでしょう。一先ず、ロックス君の行方を追います」
私はそう言い残し、捜索を開始した。
ストラスもエライザも昼休憩後は授業があるらしく、動けるのは私一人である。二人は揃って「無茶はしないように」と言葉を投げ掛けてきたが、返事はしないでおいた。
廊下を歩く人影は少ない。
たまに通り過ぎる生徒や教員は私を見ると左右に一歩距離をとり、一礼してくる。
何かがおかしいとは思いつつ、一礼を返しておいた。
そんな中、私から距離をとらない人物が現れる。その人物は離れるどころか、私を見つけて目を見開き、興奮した様子で走って来るではないか。
「あ、あんた! いや、アオイ殿! ちょっと話を聞いてもらいたい!」
突然現れた男、バルヴェニーが私の前で片膝を地面に付け、半土下座のような態勢で懇願してきた。
「いきなり何事でしょう」
そう口にすると、バルヴェニーは周囲の確認を素早く行い、私の手をとって廊下の奥を指さす。
「こ、ここでは言えない! すまないが、一緒に来てくれ!」
問答無用とはこの事か。
何か返事をする間もなく、バルヴェニーに引き摺られるようにして中庭に連れて行かれた。
そして、誰もいないと判断したバルヴェニーは私の肩を両手で持ち、顔面を高速で寄せてくる。
何かが奪われる。
そう判断した私は、反射的に肘を鋭角に曲げて掌を上に向かって振る。アッパー気味の掌底だ。
「ぶふっ」
変な声を発して、バルヴェニーの首が三十度傾き、体勢が崩れる。
地面を半回転して倒れたのを見下ろしてから、口を開いた。
「予想外の奇襲でした。しかし、まだ甘いですね。私が近接格闘が出来ないと思ったのが運の尽き……」
「な、何を言っているんだ!? 奇襲なんてしていない! ほ、本当だ!」
口内で唇を切ったのか、口の端から血を流しながらバルヴェニーが弁明を試みる。
疑惑の目を向けつつ、あまりにも必死な様子を見て、矛先を収める。
「……勘違いで殴ってしまってごめんなさい。それでは、ご用件は?」
改めて確認すると、バルヴェニーはハッとした顔になり、また片膝をついた。
「……アオイ殿は、天候を操作する魔術を教えていると聞きました。その、真偽を確認したく……」
「はい。もう皆さん一時的に雨雲を作るくらいならば出来るようになりましたよ」
「な、なんと……っ!?」
目が零れ落ちそうなほど見開き、口をぱくぱくと鯉のように開閉させるバルヴェニー。
若干、瞳孔が開いて見えるが、大丈夫だろうか。
そう思って狼狽するバルヴェニーを見ていると、以前バルヴェニーに会った時のことが思い出された。
そういえば、あの時も似たような話をした筈である。
確か、バルヴェニーは祈雨魔術の研究をしていると……。
「……すみません。少々急いでいまして、また次回お話を」
慌ててそれだけ言うと、私は踵を返してその場を後にした。バルヴェニーが何か言っていた気がしたが、振り向く勇気は無かった。
もしかしたら、私は無意識の内にバルヴェニーの研究に横槍を入れてしまったのかもしれない。
恐らく、一般的には祈雨魔術の普及を成せば、バルヴェニーの功績は凄いことになっていたのだろう。そうでなくば、何年も研究しないに違いない。
もしそうだとすると、バルヴェニーは大いに私を恨んでいることだろう。
「……どうしよう。後で、何かお詫びの品を持って謝罪に……ど、ドラゴンの鱗や皮とかじゃダメかしら」
そう呟き、思わず自分で自分の頬を叩く。金品などで何とかしようとするなど、教員の風上にもおけない。
真摯に謝らねばならない。
だが、今はまだ心の準備が出来ていない。
そんなことを思いながら廊下を進んでいくと、今度は女子生徒を四人も引き連れた男子生徒が現れた。五人組は楽しそうに笑い合いながらこちらに向かって歩いて来る。
と、中心に立つ男子生徒が私に気が付いた。ハイラムである。
「あ、アオイ先生! なんか久しぶりだね! 元気にしてた?」
「あ、はい。元気ですよ。ありがとうございます」
「そう? 何か疲れてそうな顔してるよ? せっかく美人なのに、勿体ない。やっぱり綺麗な人は笑顔でいてほしいよね。僕で良かったら相談に乗るけど?」
とても軽い態度と言葉が返ってきた。いや、これがハイラムの通常テンションだろう。
メイプルリーフの第三皇子でありながら、こんな感じで良いのだろうか。
色々思うことはあるが、とりあえずペースを乱されないように先に質問をすることにする。
「ちょっと聞きたいことがあるのですが」
そう切り出すと、ハイラムは嬉しそうに微笑む。
「何かな?」
「最近、一部生徒達の様子がおかしいことと、ロックス君の行動について、です」
尋ねると、ハイラムは一瞬目を細め、また微笑んだ。
「……僕に聞いちゃう? いや、アオイ先生には嘘は言いたくないからね。僕が口にすると、ロックス君の立場がまずくなる、とだけ言っておこうかな? まぁ、ロックス君に直接聞いてみると良いよ。多分、コート君も色々知っているとは思うけど、僕と同様の理由で言えないと思う」
「……ロックス君の、立場?」
一部の単語を聞き返すが、ハイラムは苦笑まじり肩を竦めるのみである。
仕方なく、私はまたロックスの所在を探した。
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