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異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件 〜王族も貴族も関係ないから真面目に授業を聞け〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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【別視点】噂の払拭

 フォアが自らの授業において、アオイの教師としての資質を認め、上級教員として相応しい知識と技量を有していると話した。


「皆も一度、受けてみると良いだろう」


 そう言ったフォアに、高等部の生徒達は驚く。また、そこまで言わせたアオイにも。


 この衝撃的な噂は最初に流れた悪い噂を瞬く間に飲み込み、洗い流した。


 それにより、貴族意識の高い生徒や、いまだ他の上級教員がどう思っているか分からないと警戒する生徒を除き、アオイのことは多くに認められることとなった。


 ここからが、本当の教師としての生活だ。


 エライザから噂を聞いたアオイは、改めて気を引き締め直したのだった。







【メイプルリーフ聖皇国】


 元々は、魔術学に長けた国だった。特に、癒しの魔術においては他国の追随を許さぬほどに。


 しかし、フィディック学院がヴァーテッド王国に出来てから、その印象は殆ど奪われてしまった。


 六大国が出資し、特別な自治を認められた区画も用意されている。だが、特別自治領ウィンターバレーがあるのは、やはりヴァーテッド王国なのだ。


 それで全てが決するというわけではないが、優秀な魔術師を多く保有する国は発言力が違う。


 中央会議にあっても、ヴァーテッド王国の発言には皆が異を唱えづらくなっていた。


 危機感を抱いた各国は、それぞれがフィディック学院に並ぶ魔術学院を作ろうと躍起になる。それはメイプルリーフも例に漏れないことだった。


 だが、どんなやり方を行っても、フィディック学院の名声には届かない。


 宮廷魔術師を教師に据えても、フィディック学院に入ることが出来なかった生徒の集う学院というイメージを覆せない。


 上手くいかないと歯痒い思いをしているところに、フィディック学院に通うハイラムより定期連絡が入った。


 曰く、我が国が誇る上級教員のフォア・ペルノ・ローゼズが、新しく上級教員になった女に魔術師として敗北したという。


 宮廷魔術師が二十人以上いて、魔導部隊も他国より多彩に組織している。だが、他国の印象はそのフォアが敗北したという一文ばかりに注目するだろう。


「ぬぅ……!」


 思わず手紙を破りかけて、自制した。


 肩を揺らして荒い呼吸をしながら、近衛を呼ぶ。


「アラバータ!」


「はっ」


 名を呼ぶと、白い鎧に身を包んだ壮年の大柄な男が一歩前に出て返事をした。


 兜を被ってなかった為、鉄の兜よりも厳つい顔がこちらを向いている。頭には不似合いな獣の耳が生えていた。最早ツノか何かのようにも見える。


「この書状には、中々腹立たしいことが書かれている」


 そう前置きして、中身を伝える。


 すると、アラバータは難しい顔で唸った。


「……陛下のお考えを」


 判断に迷ったのか、アラバータは自らの考えは述べず、こちらの意向を伺う。


「この、アオイ・コーノミナトという魔術師を我が前に連れて参れ」


 そう答えると、アラバータは静かに頭を下げて一言発した。


「はっ! しからば、私に権限と同行する部下をお頼みします」


「何名つける」


「……近衛から十名。また、相手のことを考えて宮廷魔術師のクラウン・ウィンザーを頼みます」


 その名を聞き、思わず笑う。


 確かに、あの魔術狂いならば指令など関係なくついて来るだろう。


「分かった。権限としては私の代弁者を名乗れ。書状を持たせよう」


「はっ!」


 力の入った声で返事をして、アラバータは深く頭を下げた。


 さぁ、フィディック学院の魔女がどんな者か、その顔を拝んでやろう。


 私は一人、口の端を上げて、ハイラムから届いた書状を破り捨てた。







【エライザ】


「で、では、詠唱も魔法陣も、突き詰めれば同じことに……!」


「そうですね。ただ、言葉なのでニュアンスが変わります。そのニュアンスの違いを魔法陣で表すのはかなり大変です。逆も同様ですね」


「ふぉ、ふぉおおっ!」


 長年行き詰まっていた研究に、次々とヒントが流れ込んでくる。


 これまで暗闇の中を手探りで探求していた魔法陣の研究に、一条の光明どころでは無い大量の灯りが降り注ぐ。


 大興奮して質問を口にしていると、ストラスが眉根を寄せて私のコップにコップの縁をぶつけた。


 コツンという音がした為、思わずそちらを見る。


「……騒ぎすぎだ。研究の質問はまたにしろ」


 そう言って、ストラスは不機嫌そうに串に刺さった肉を齧り、果実酒を口に運ぶ。


 思わず、口の中に甘辛い味付けの肉の味が広がり、香ばしい匂いに動きが止まってしまう。


「……ここのお肉、美味しいですよね」


「素材が良いんだ。味付けも良いが、肉の甘みはなかなか……」


 二人がそんな会話をしていると、店の奥からスラリとしたシルエットの人影が近づいて来た。


 艶やかな青い髪の魔術学院教員、スペイサイドだ。


「……また貴方達ですか」


 そう言って深く溜め息を吐くと、また口を開く。


「こっちに来なさい。個室に案内します」


「え?」


 突然の言葉に三人揃って固まってしまった。皆でスペイサイドを見上げると、謎の微笑みが返ってくる。


「フォア・ペルノ・ローゼズ氏もいますので、ちょうど良いでしょう」


 と、信じられないことを言い出す。


 フォアと同席などしたら、私以上に質問責めにするに違いない。


「ダメです! 今日は仕事のことは忘れて、三人の親交を育もうと……」


 断ろうと話す私を見て、思わずといった様子でストラスが口を開いた。


「どの口が……はむっ」


 余計なことを言いそうになったストラスの口に、肉の刺さった串を入れる。無言で肉を食べるストラスが抗議するように見てきたが、あまり怖くない。


 そんな私たちを見て、スペイサイドが鼻を鳴らす。


「アオイ先生。この二人と食事を共にするよりも、私とフォア先生と食事をした方が有意義な時間が……」


「ご遠慮します。今日はお二人と約束をして参りましたので」


 と、アオイはスペイサイドの言葉を遮ってはっきりと断ってくれた。


「……そうですか。では、次回は是非とも我々とお願いします。それでは」


 若干悔しそうにそう言うと、スペイサイドは背を向けた。


 だが、帰る前に一言、捨て台詞を残す。


「ここは公共の場です。お静かに」


 その言葉に、私たち三人は素直に頭を下げた。


「すみません」


 謝ると、スペイサイドは片手を上げて軽く振り、去っていった。


 これまでにない、柔らかい態度と仕草に、私達は思わず顔を見せて笑い合い、再び乾杯をする。


 アオイの登場から、学院の中は劇的に変わってきている気がした。


 まだ僅かな期間だが、様々なことが良い方向に向かっていると思えた。


 そして、それはまだまだ途中である。


 私達は笑い合い、授業のこと、生徒のこと、魔術のこと……そして、アオイの非常識さについて笑いながら話し合った。


「甚だ心外です」


 アオイが苦笑しながらそう言ったが、私とストラスは譲らなかった。


 そうして楽しい食事をしていると、不機嫌そうな顔のスペイサイドが再び現れ、私達はまた怒られたのだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] 他の方も言ってますが反省改善出来ないのはダメでしょう 遮音の魔法くらいあっても良いのでは? まあこの後は改善されてるのかもしれませんが(笑)
[一言] 「ここは公共の場です。お静かに」その言葉に、私たち三人は素直に頭を下げた。「すみません」 言葉で毎回すみませんとただ棒読みしてるだけで、全く改善が見られない迷惑な人たちです。
[良い点] アオイの教えるペースや教え方は凄く馴染みやすいとおもう 正直、魔術を教え導きながら科学っていう分野を下地に教えていくともっともっと発展する気がする 魔法のある世界に科学を下地として明確…
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