無詠唱とは
タイトルを変更しました!
旧)魔術学院の魔女には逆らえない
新)異世界女教師の学院支配
炎の槍、水の球、土の壁を出し、更に極小の竜巻と雷撃、最後に癒しの魔術を形だけ発動させる。
本当ならば無属性の魔術もあるが、それは使う人が少ない為参考にならないと思い割愛した。
だが、かなりのインパクトがあったらしく、皆が絶句してこちらを見ていた。
「……アオイ教員。君は、どこまで魔術を極めている? まさか、魔術の真理にまで達しているのか。魔導の深淵に……」
と、フォアが不思議なことを言い、こちらを鋭い目で見た。
教室内が静寂に包まれたため、仕方なく答える。
「どこまで、と言われても困りますが、指標とするなら、全属性上級魔術は無詠唱で行えます。後は、全属性それぞれオリジナル魔術を作成しました。ただ、魔術を極めたとは思っていませんし、いまだ研究中です」
そう告げると、ざわめく生徒達を無視して、フォアは質問を続けた。
「これ以上、何を研究する? 何を目指す? 更に強い魔術か?」
呆れたように聞かれて、私は肩を竦める。
「師は一瞬で目標地点に到着する瞬間移動の魔術を研究しています。なので、そのお手伝いが出来たら、とは思っていますよ」
本当を言うならば、元の世界に戻る魔術を研究しているが、それを口にするのは躊躇われた。その為、オーウェンの研究を口にしておく。
「……瞬間移動。なるほど、君に相応しい研究だ。むしろ、君にしか開発することは出来ない魔術かもしれないな」
フォアは小さく呟き、一人で静かに頷く。
その時、授業の終わりを告げる鐘がなった。
「……では、今日はここまでとします。次回まで、皆さんは今日の魔術を個人的に使わないようにしてください。理解されているでしょうが、暴走の危険があります。なので、私が問題ないと判断するまでは、授業以外での使用を禁じます……グレン学長もですよ?」
そう言って窓の外を睨むと、放電に興奮するグレン学長が慌てて頷いた。
窓の外で片手で丸を作って愛想笑いを浮かべているが、怪しい。昨日の夜も謎の局所的豪雨が起きたらしいので、学長は監視していた方が良いのかもしれない。
いや、流石にそれは失礼か。
仮にも世界最高峰の魔術学院の学長である。分別はつく筈だ。
そう思い直し、この日の授業は終了とした。
次の日、学院内で雲も無いのに雷が落ちたと話題になり、学長を呼び出す。
だが、雨に打たれた捨て犬のような目でこちらを見て頭を下げている学長の姿に、流石に厳しい言葉は向けられない。
なので、一言注意をするに留めた。
「次に言いつけを守らなかったら、新しい魔術は教えません」
「oh……」
両手を着いて全身で項垂れるグレン。
体調が悪いのだろうか。
まぁ、学長も歳には勝てないだろう。優しくしてあげよう。
「無理をしてはいけません。気になるでしょうが、私の授業を見に来られなくても大丈夫ですよ?」
「そ、そんな……! ご無体じゃ! 頼む、それだけは待ってくれぃ! 今、めっちゃ良い所じゃないかの!? ここで止められてしまうと、わしは夜も寝られん!」
「しがみつかないで下さい。セクハラは感心しません」
「ぬぁっ!? も、申し訳ありませんですじゃ!」
慌てて離れ、謝る学長。
仕方がない。これ以上言うと虐めのように見えてしまう。
溜め息を吐いて、肩の力を抜いた。
「もう大丈夫ですから。それでは」
「お、おぉ……! ありがとう! ありがとう、アオイ君!」
大袈裟なまでに感謝されながら立ち去り、私は次の授業の為の準備に入る。
許可はもらっておいたので、闘技場のような広場の隣に一人で来た。
さて、作りはどうするか。やはり、最高硬度を目指すよりも自動修復のほうが良いだろうか。
大きさは、魔術の種類にもよるが、そこそこの広さは必要になる。高さは六メートル、横五メートルに奥行は十五メートル。これだけあると、大規模魔術以外はカバーできそうだ。
「石の防壁」
魔力を込めながらそう呟き、石の壁を一列作成する。高さ六メートル、横幅五メートルの壁だ。厚みは一メートル。通常の壁と考えれば十分過ぎるが、魔術を防ぐ防壁としては弱い。
なので、魔力を切らさずに防壁の維持をしながら、壁の表面に魔法陣を刻んでいく。
魔術を維持しながら魔法陣を描くのは尋常じゃなく大変だ。発動時ほどでは無いが、壁の形を最低限維持する程度の魔力を微調整しながら流し続けなくてはならない。微調整に失敗すると、壁の角などが欠けたり、ヒビがはいってしまったりする。
その魔力の調整をほとんど無意識レベルで行い続けながら、壁の中心に平面魔法陣を刻み込む。
これはオーウェン・ミラーズも苦手とした技だ。
「……簡単にして、硬度の維持と自動修復……使用するのは、施設内にいる者の魔力……いや、それだと、間違えて子供が入ってしまったら魔力枯渇で意識を失うかもしれない」
一瞬の思案。
外部から何か魔力を込めた材料を用意した場合、その供給が途切れたら機能しなくなってしまう。
ならば、使用者の制限を設ければ良いか。
「上級の魔術を使用出来る者以外は入れないようにしましょう」
こうすれば、使用に足る魔力量を持つ者しか入ることはない。
「……よし、完成」
同じ要領で四方の壁を作っていく。出入り口は一箇所だけ。扉は簡単には開けられぬよう分厚い鉄板とする。
壁は白い石で長方形の建物だ。少々目立つが、すぐに馴染むことだろう。
「さぁ、後は来週の授業で実際に使ってみて考えましょう」
久しぶりに建物を建てた私は、満足して頷き、寮へと戻るのだった。
寮に戻ると、授業の関係で週末を休みに設定しているエライザと遭遇する。
エライザはハッとした顔で私を見ると信じられない速度で走ってきた。
「あ、アオイさん! 今日はずっと何処にいたんですか!? 探してたんですから! さぁ、ちょっと私の部屋……いえ、アオイさんの部屋に行きましょう! お話が……」
会った瞬間から賑やかなエライザに押されながらも何とか返事をしようとしたが、不意にエライザの背後に大きな人影が現れる。
人影は目を光らせて、エライザの頭を片手で鷲掴みにした。
「ぴっ!?」
エライザがびくりと震える中、突然背後に現れた寮長、グレノラ・ノヴァスコティアが口を開く。
「うるさいよ、エライザ。静かにしな」
「は、ははは、はい!」
びしりと音がして、エライザの背中に芯が入った。直立不動となったエライザは、私を見てそっと口を開く。
「い、移動しましょう。静かに、素早く……」
そう言ってからグレノラに頭を下げて、エライザは私の背中を押して小走りに移動しようとする。
その瞬間、グレノラが目を細めて、呟いた。
「走ったら殺すよ」
「ひぇ」
声にならない声を発して、エライザは私を連れて移動したのだった。
何故か自室では無く、私の部屋に来たエライザは上機嫌に室内を見回す。
「やっぱり、上級教員用の部屋は広いですね! いつか、私も……!」
目をキラキラして部屋を見ていたエライザだったが、またハッとした顔になり、振り返った。
「そ、そうです! 今日は、折り入って頼みが……!」
「頼み?」
聞き返すと、エライザはその場で片膝をついて跪き、両手の指を組んで祈るように顔の前に持ってきた。騎士の祈りのポーズのような格好だが、子供のような見た目のエライザがやると可愛らしい。
「お願いします……! 私に、魔法陣の知識を! 少しでも良いので、魔法陣について教えてください! 師匠!」
「……師匠?」
初めての呼ばれ方に、私は首を傾げた。
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