次戦2
武闘場の中心に、ニニックとフェルターが向かい合うように立つ。背は二人とも同じくらいだろうか。だが、身体の厚さというか、筋肉量は明らかにフェルターの方が多い。正直、とても十代とは思えない。
そんなフェルターを見て、ニニックが笑みを浮かべる。
「フェルター様、また大きくなりましたね。こりゃあ、本当にいずれはお父上を超えるかもしれません」
ニニックがそう言って肩を揺すって笑うと、フェルターは鼻を鳴らして顔を上げた。
「いずれではない。一年以内に圧倒してやる」
そう答えたフェルターに、ニニックは目を瞬かせて驚き、すぐに噴き出すように笑った。
「はっははは! いや、これは恐れ入りました。フェルター様なら、必ずお強くなられるでしょう……しかし、今は私の方が強いかと思いますが」
フェルターと話していたニニックの雰囲気が変わる。浮かんでいた笑みも、まるで肉食獣のような獰猛なものに変化し、フェルターを瞬きもせずに見据えていた。対して、フェルターも口の端を挙げて鼻を鳴らした。
「すでに俺の方が強い」
フェルターがそう口にすると、ニニックは再び声を上げて笑い出す。笑い合っているというのに、それが一触即発の状況であると誰もが分かる緊張感だった。
その二人を見て、マッシュは嬉しそうな様子で片手を挙げる。
「それでは、次戦を始める! 両者、全力で戦うが良い!」
マッシュが戦闘開始を宣言した直後、二人は地面を蹴って動き出した。ニニックは後方へ退き、フェルターは回り込むように右手側へと一足飛びに移動している。
そして、お互いが魔術の詠唱を開始した。
ほぼ同時に魔術は行使され、二人は同様の身体強化の魔術で自らを強化する。近接での戦いが始まるかと思っていたのだが、予想外にもお互いに距離を詰めようとしなかった。
それはニニック本人も意外だったようで、驚くようにフェルターを見ている。一方、フェルターは珍しく魔術の詠唱を開始した。
移動しながら詠唱を続けるフェルターを見て、ニニックは眉根を寄せて口を開く。
「……そんなことで、本当にラムゼイ様に勝つつもりですか?」
そんな言葉も、フェルターはまるで聞こえないかのように無視して詠唱を続ける。諦めたように、ニニックは拳大ほどの大きさの黒い石のようなものを手にした。細長くなったような五角形といった不思議な形状だった。
それを手にして、ニニックは口を開く。
「氷霧」
ニニックが魔術名を口にし、魔術具は氷の魔術を発動した。ニニックの手元から放射状に真っ白な霧が勢いよく噴き出し、きらきらと光を反射させながら周囲の温度を下げていく。霧が漂う空間の足元は白く染まり、強い冷気による攻撃だと分かった。だが、範囲が広い。
早く回避しないと、霧に長時間包まれてしまえば凍えてしまうだろう。下手をすれば、手足の先から凍り付いていくかもしれない。
そう思って心配していたのだが、フェルターは冷静にその場に残り、詠唱を終えて魔術を行使した。
「……火炎柱」
発動したのは炎の魔術だった。フェルターが魔術を行使した直後、武闘場の中心に火柱が巻き起こる。その炎の勢いは凄まじく、ニニックの放った氷の霧の効力を弱めることに成功する。
なるほど。ニニックの魔術具の効果を知っているからこそ、珍しく遠距離での魔術を選んだのか。そんなことを思って感心していると、フェルターは再び詠唱を開始する。
それを見て、ニニックが走り出した。
「面白いことを考えたようですが、少々甘かったですね」
走りながら、ニニックはそんなことを言った。フェルターはそれを目で追いながら詠唱を続ける。どう考えても間に合うことはないだろう。だが、詠唱を中断することはない。
「ふ!」
そんなフェルターに、ニニックは遠慮なく勢いのついた蹴りを放った。空気を切り裂く鋭い蹴りだ。だが、それを予期していたようにフェルターは姿勢を低くして回避する。
蹴りが空を切り、ニニックの姿勢が崩れた。その様子を確認しながら、フェルターは詠唱を終えて魔術を行使する。
「岩の壁」
フェルターが魔術を発動させた瞬間、ニニックの足元から勢いよく岩の壁が突き出た。瞬く間に高さ三メートルほどの岩の壁が出現し、その勢いでニニックは弾き飛ばされた。まるでボールのように高く吹き飛ばされたニニックを見つめつつ、フェルターは全ての魔術を解除して改めて身体強化の魔術の詠唱を始めた。
だが、今度の身体強化の魔術は先ほどのものとは違った。より高度な身体強化の魔術である。それを知らないニニックは、地面を一、二度転がってから地面に手を突いて起き上がり、すぐに駆けだした。
ニニックの頭の中には、次はどんな魔術が出てくるのか分からないから、できる限り早急に制圧しようと考えたのだろう。
「……身体強化」
だが、フェルターが発動した魔術は最新版の私の作った身体強化魔術だ。その効率も強化の度合いも、全て一段階上になっている代物である。




