謁見へ
ラムゼイのお陰であっさりと城門をくぐることが出来た。そして、王都に入ると、そこには楽園が広がっていた。
どこを見ても可愛らしい獣の耳や尻尾が揺れている。更に、髪の毛もふわふわの者も多数。通りを歩く者にも尾があり、出店で携帯できる食事を提供する者にも獣の耳が生えている。幼い男女が笑顔で走り回り、私のすぐ目の前を柔らかそうな猫っぽい耳が通り過ぎた。それを目で追いながら、思わず嘆く。
「……どうして、私はもっと早くブッシュミルズ皇国に来なかったのでしょうか」
「知らん」
可愛らしい獣人の子供たちを目で追いながら呟いた一言に、オーウェンが呆れたような声でそう呟いた。そこへ、ストラスが加わる。
「……あの耳に触りたいからブッシュミルズに残るなんて言うなよ?」
「それは、流石に……いえ、分かりません」
ストラスの一言に、はっきりと答えることが出来なかった。この目の前に広がる光景が日常になるなら、もしかしたら永住するかもしれない。そうだ、保育園を開こう。幼少時から魔術を教えることが出来て理にかなっている筈だ。
ある意味で現実逃避に近い妄想をしていると、オーウェンとラムゼイが王城を指差して口を開いた。
「アオイ、何をしている」
「案内の衛兵が困っておるぞ」
二人にそう言われて、走り回る子供たちから視線を前に戻す。斜め前にオーウェンが動かす馬車がおり、その窓からラムゼイが顔を出していた。声を掛けられて、こちらの馬車も前に進ませる。黒い馬車の前には五人の衛兵がおり、先導するように歩いていた。
やはり、王都は広い。なにせ、大型の馬車が二台、ほぼ横並びで大通りを進んでいるのだ。それでも十分過ぎるほどのスペースがある。馬車が近づくと驚いて通りの端にまで逃げる者が大半だったが、通常の馬車でも快適に通行できるだろう。
感心しながら通りを進んでいくと、王城が間近に迫ってきた。王城は見上げるように大きいが、ケアン侯爵家の居城ほどの威圧感は無い。通常の石作りの城で、かなり年数も経っていそうだった。しかし、大きい。
そんな城を見上げていると、案内してくれた衛兵が城を守る門番に声を掛け、次に馬車の置き場を案内してくれた。
「あ、あの、その馬は……」
少し怯えた様子の若い兵士に尋ねられて、疑似精霊を消しておく。兵士は思い切り驚いていたが、すぐに馬車を皆で運んでくれた。そんなことをしている間に、王城の門は開かれて中から何人も騎士が現れた。
銀色の鎧と茶色のマントを羽織った騎士たち。しかし、全員兜はつけておらず、頭には犬や猫、キツネなどの耳が生えている。可愛い。
「おお、ラムゼイ閣下!」
「ラムゼイ様!」
「よくぞ、王都へ!」
ラムゼイの姿を見た騎士達は笑顔で名を呼び、近づいてくる。普通ならフレンドリー過ぎる感じだが、ラムゼイは気にせずに騎士達の顔を見た。
「む! マーティンにニニック、プルトニーか! どうだ、強くなったか?」
ラムゼイは歯を見せて笑い、それぞれの名を呼んだ。それに微笑み、騎士達は大きく頷いてみせる。
「ええ! 今度は負けませんよ!」
「次の大会を待っていてくだされ!」
そう答える騎士達に、ラムゼイは声を出して笑っていた。どうやら、武闘大会に出場した者たちのようだ。なるほど。普通の兵士たちよりも距離が近いと感じたのはそういうことだったのか。
「お前たちが陛下の下へ案内してくれるのか」
ラムゼイがそう尋ねると、ニニックと呼ばれていた騎士が頷く。
「閣下が謁見に参ったのなら、我々くらいでないと案内人としては足りませんぞ」
そう言って笑うと、ラムゼイは呵々大笑して頷き返した。
「うむ。頼むぞ!」
「はっ!」
そんなやり取りをして、マーティンを先頭にニニック、プルトニーと一緒にラムゼイが歩き出す。
「皆も後についてきてくれ」
「分かりました」
ラムゼイに声を掛けられて、後に続く。しかし、ふと気になることがあった。
「あ、生徒たちはどうしますか? どこかで待たせておいた方が良いのでは?」
王との謁見である。子供も参加して大人数で向かうのは失礼かもと思ったのだ。しかし、ラムゼイは片手を振って笑みを浮かべる。
「生徒達も各国の貴族であり、フィディック学院の関係者だ。問題なかろう」
そう言って笑い、ラムゼイは歩いて行く。その背中を追って歩き出すと、後ろから不安そうな声が聞こえてきた。
「別に謁見なんてしなくても良いけどね。堅苦しいし」
「わ、私も待っていた方が良いような……」
「あ、モアさんは確かに緊張しますよねー」
「……必要最低人数で良いんじゃないか?」
「ストラスさんは参加しましょうよ。代わりに私が待ってます!」
王城内だというのに、賑やかな会話が繰り広げられ、案内を買ってでてくれた騎士達が苦笑する。
「……申し訳ありません。生徒達と一部教員が……」
「いやいや、楽しそうで何よりだ」
代表して謝ると、騎士達は笑いながら首を左右に振ってくれた。ブッシュミルズ皇国はそれほど礼儀にうるさくなく、人柄も大らかで優しい。そんな風に感じられた。




