調査?
授業が終わる。今回も手応えはあったし、質問に来てくれるくらい熱心に聞いてくれる生徒もいた。
だが、私は申し訳ない気持ちいっぱいでそれを断る。
「大変すみません。後日、その質問にお答えさせてください。今日は、ちょっとコート君に話がありまして」
そう言って女子生徒三人組に謝ると、アイルが目に見えてむくれてしまった。
口を尖らせるアイルをリズとベルが慌てて引き下がらせる。
これは後でもう一度話をしておいた方が良さそうだ。そう心に留めて、私は教室を出るコートを追った。
「ちょっと良いですか?」
そう言って呼び止めると、コートはいつもの優しげな笑顔をみせて振り返る。
「はい、御用ですか?」
きらきらした笑顔に思わず躊躇うが、アイルの質問を断ってきたのだ。引くわけにもいかない。
「お話があります」
覚悟を決めてそう言うと、コートは首を傾げる。
「お話ですか。お食事の誘いでしたら喜んで」
「いえ、違います」
否定してから、眉を八の字にするコートを真っ直ぐに見て、確認した。
「……コート君は、私に何か隠し事はありませんか?」
含みを持たせてそう聞いたのだが、コートは思わずといった様子で笑い出した。
「ふ、ふふっ! アオイ先生、その言葉は僕の国では意中の相手に何とか振り向いてもらう切っ掛けの台詞として有名なんですが……」
「意中の相手に? 何故、こんな言い方で?」
疑問を返すと、コートは「ベタな返事をさせていただきます」と前置きして、胸の前に手を持ってきた。
「隠し事なんてありませんよ。何か、誤解されていませんか?」
そう答えるコートに、私は何と答えれば良いか分からなかった。
「私は……」
何か返事をしようとした瞬間、風のように何者かが割り込んできて、コートの腹に体当たりした。
「ぐふっ」
細身のコートはくぐもった声を発してたたらを踏み、乱入してきた何者かはこちらに振り向く。
「ちょっと、用事がありますので! お兄様は連れて行きます!」
現れたのはアイルだった。
アイルは頬を紅潮させて怒鳴るようにそう言い、咳き込むコートを引きずって去っていく。
そして、友達の二人が謝りながら駆け抜けていった。
「……な、なに……?」
嵐のような出来事に見舞われて、私は唖然としながら四人を見送ることしか出来なかった。
「怪しい気がします」
私がそう報告すると、昼食を共にしているエライザとストラスが顔を見合わせた。
今になって思えば、普段のコートの行動や言動から外れた態度だった。あれは、もしかしたら私からの追及を逃れる為に……?
頭を悩ませていると、ストラスが呆れたように片手で自らの頭を掻きながら口を開く。
「いや、気のせいだろう」
そんな返事をするストラスを見上げると、エライザが困ったように笑い、説明してくれた。
「アイルさんは、お兄さんのコート君のことを凄く尊敬しています」
「良いことですね」
答えると、エライザは首を左右に振って溜め息を吐く。
「いえ、ちょっといき過ぎたところがあって……」
「え?」
「……コート君は高い身分でありながら誰相手でも分け隔てなく接する珍しい貴族です。物腰も柔らかいですし、見た目も物語の王子様みたいだと人気なんです」
「……なるほど。そう聞くと、女子生徒が殺到しそうなプロフィールですね」
ただの好青年かと思いきや、ハイスペックな好青年だった。しっかり高等部にいる辺り、魔術の技量もあるだろう。
アイルにとって、自慢の兄ということか。
「……でも、それに何の関係が?」
私が尋ねながら二人を見ると、エライザもストラスも素早く顔を背けた。
「何ですか?」
もう一度確認してみるが、二人とも答えてはくれない。勿論、二人の性格からして意地悪などではないだろう。
なにか、言えないような秘密があるのか?
「……まぁ、御兄妹のことですから、下手な深入りはしませんが」
他人の事情に余計な関心を持つのは良くない。
そう思って引き下がると、ストラスが席を立ち、食堂の外を指差した。
「アオイは学院に来て、日が浅い。たまたま通りかかっても仕方ないだろう」
「……? 何の話ですか?」
私が疑問符を浮かべると、エライザがころころと笑いながら立ち上がった。
「付いて来てと言っていますね」
中庭側へ移動していくと、段々と人の姿が疎らになっていった。
学院の南側は研究室だったり、専門的な施設が多いのだが、小さな公園のようなスペースもあるようだ。
特に、奥側は少しずつ緑が増え、庭園のような場所もあった。
「暗黙の了解ですが、奥の方は高等部が使用します。そして、西のこの一角はコート・ハイランド連邦国出身の方が多いです」
そう言って、奥に見える小さなスペースを指し示す。エライザは「やっぱり、同じ国の人で集まりたい人も多いんでしょうねー」と言いながら苦笑し、木々の隙間から覗き込むようにして何かを探した。
「あ、いました。アイルさん達です」
「む、珍しいな。コートもいるぞ」
「アイルさんにあのまま引っ張ってこられたんじゃないですか?」
二人の会話を聞きながら、私も木々の隙間から中を覗き込んだ。二人が向く先には、確かにコート達四人がいた。向かい合い、何かの話をしているらしい。
耳を澄まして聞いてみると、アイルがコートを問い詰めている状況のようだった。
「お兄様。アオイ先生と随分仲が良いのですね?」
「そうかい? まぁ、僕としては仲良くしたいけど、まだあまり話せていないんだ」
「……アオイ先生をコート・ハイランドに連れて行くおつもりで?」
「いやいや、それは難しいんじゃないかな? 出来たら来て欲しいけどね。はっきり言って、コート・ハイランドのどの魔術師よりも優秀な魔術師だと思うよ」
「お兄様。そのような曖昧な気持ちで仲良くしてはいけません。もし、お兄様と婚約できるなんて思われたらどうされるつもりですか? そうやって、私はもう何人も名家の子女の涙する姿を見て参りました。軽はずみな行動は謹んでくださいませ」
普段みないほど丁寧な口調で訥々とコートの罪を口にするアイル。その奥ではリズとベルが苦笑いだ。
一方、コートは無自覚なのか、首を傾げて困ったように笑っている。
なるほど。あれだけハイスペックで王族と同格の身分ならば、女子が夢中になるのも分かる。
その中には、片想いして失恋していく女性も多くいたのだろう。
なかなか、罪な男である。
「……ん?」
と、そこでようやく、私は重大な事実に気がついた。
アイルは、私がコートに片想いしていると思っている。
「あ、アオイさん……っ」
引き止めようとするエライザを振り切って、私は四人のもとへ早足に近づいた。
「あ、アオイ先生!?」
「まずいです! 逃げますよ、アイル!?」
リズとベルが慌てた様子で右往左往している。
そして、アイルは覚悟を決めたように険しい顔をして、私の前に立った。
「アオイ先生……本当にごめんなさい! コート兄様は、アオイ先生を恋愛対象として見ていないのです! 思わせぶりな態度をとったと思うかもしれませんが、恨まないでください! 全ては、コート兄様が素敵過ぎるのが悪いのです!」
と、アイルは真顔で言った。いや、それどころか、本当に申し訳なさそうに言った。
私は頭痛が起きそうな頭を片手で押さえながら、アイルを見る。
「……私は、別にコート君を恋愛対象として見ていません」
「え?」
私の回答に、アイルは驚愕の顔をみせた。
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