晩餐会
城内を見て回っている内に時間になったらしい。メイドたちが音もなく現れ、こちらへどうぞと案内をしてくれた。
向かった先はなんと中庭である。普段なら食堂や広間に案内されるものだが、中庭でどうするのか。そう思っていたが、中庭に出てみて驚いた。
池の周囲に篝火が幾つも設置され、幻想的な雰囲気の中に大きなテーブルと椅子が置かれている。篝火ではメイドや執事が待機しており、調理器具などもあるようだった。
「……これは面白い趣向じゃのう」
グレンも興味深そうに中庭の様子を眺め、テーブルの奥に座るオーウェンの姿を発見した。
「なんじゃ。ずっとここにおったのかの?」
「ふむ。皆、手際が良かったぞ」
「……オーウェン。会場設営の監督みたいになっていますね」
どの立場からの発言なのか分からない台詞に、思わず突っ込んでしまった。勿論、誰も意味が分からないので首を傾げられてしまったが。
「おお、待たせてしまったか」
遅れて、ラムゼイとフィオールが揃って現れた。ラムゼイは豪快に大股で歩いてきて、テーブルの真ん中に置かれた椅子に腰かける。その隣にフィオールが静かに腰かける。
「さぁ、皆も座ってくれ。今日はゆるりと歓談しようではないか」
そう言って楽しそうに笑うラムゼイに、グレンが釣られるように笑ってオーウェンの隣に座った。
「うむ、面白いのう。料理も楽しみじゃぞい」
グレンはウキウキしながら椅子に座り、周りをきょろきょろと眺めている。グレンが座ったのを見てロックスやハイラム、ストラスも椅子に腰かけた。何となく男性陣が固まって座っているようだ。
なんとなくラムゼイやフィオールの対面になる席の方へ移動して腰かけると、隣にエライザとシェンリーが並んで座った。最後に、フェルターが空いた先へと座るタイミングで、ガチガチに緊張したモアとチーフも席についた。
「わ、我々も同席して良いのでしょうか……」
「……明らかに場違いですが」
背筋をまっすぐに伸ばした二人が席に座ると、ラムゼイが肩を揺すって笑う。
「折角だから、食っていけ!」
「は、はい」
ラムゼイの一言に感極まったようにモアが返事をした。
全員がテーブルを囲んだことを確認して、フィオールがラムゼイに目を向けた。それに頷き、ラムゼイが執事の一人に声を掛ける。
「皆に食前酒を」
「はい」
一言伝えると、執事が返事をしてメイドがお盆にガラスのグラスを乗せて歩いてくる。十一人のメイドがそれぞれグラスを運んできたが、まさか一人につき一人メイドが付くのだろうか。
そんなことを考えつつグラスを受け取り、ラムゼイに目を向ける。すると、ラムゼイは力強い笑みを浮かべてグラスを掲げる。
「皆、よくぞ我が領地へ来てくれた。グレン侯爵とアオイ殿は勿論だが、我が息子が通うフィディック学院の教員、生徒の諸君と会えたことは望外の喜びである。特に、アオイ殿の師匠というオーウェン殿。是非とも話を聞かせてもらいたいと思っている。それでは、乾杯」
ラムゼイの飾らない乾杯の挨拶に、皆笑いつつグラスを掲げて乾杯を復唱する。皆が乾杯したところを見計らい、メイドたちはテーブルに料理を並べていく。いきなりレアのステーキが出てきたのには驚いたが、ラムゼイが主催する晩餐会だと考えたら違和感はない。
どうやら、テーブルから少し離れた篝火を二つ使って調理を行い、出来立てをテーブルに運んでくれているらしい。貴族式のバーベキューみたいである。大きな鍋もあると思って気になっていたが、そちらはさっぱりとしたスープだった。シンプルな味付けだが、香りがよく美味しい。
「わぁ、パンも美味しいです!」
シェンリーが焼き立てのパンを食べて喜んでいると、隣に座るエライザが肉をもりもり頬張りながら頷く。
「お肉も美味しいです! 本当に美味しいです!」
喜ぶ二人を見て、メイドたちも嬉しそうに次々料理を運んでくる。意外と男性陣がゆっくり食事をする為、エライザとシェンリーの傍にメイドが追加で配備されているような状態である。
一方、ラムゼイは肉を食べながら、こちらに対して口を開く。
「それで、古い魔法陣をどうしてわざわざ調べるのか、教えてもらえるか」
ラムゼイのその質問に、私は片手の手のひらを空に向けて空中に魔法陣を展開した。青白く輝く球形の立体魔法陣が浮かび上がり、ゆっくりと回転する。
「むお!?」
「……まぁ」
突然現れた魔法陣にラムゼイとフィオールが目を丸くした。そんな二人に視線を向けて、口を開く。
「私は魔法陣を研究しております。このように少し複雑な立体魔法陣も作れるようになったのですが、殆どオーウェンの独学に近い状態です。なので、魔法陣が全盛だった古代の魔法陣を調べることが出来たらと思いまして」
正直そう告げると、ラムゼイは腕を組んで唸った。
「ふぅむ……もしや、アオイ殿の強さは魔法陣が関係しているのか」
「そうですね。私の魔術の基本は魔法陣です」
ラムゼイの質問にそう答える。それに、フィオールは苦笑しつつ首を傾げた。
「アオイさん? あまり、手札は明かさないほうが良いのではありませんか?」
と、フィオールは私のことを心配するようにそう言った。それに首を左右に振って答える。
「いえ、私は世界中で魔法陣の研究がされるようになってほしいと思っていますので」
はっきりとそう答える私に、ラムゼイとフィオールは目を瞬かせて動きを止める。




