フェルターの部屋
城は広く、戦いの歴史に関するものも多くあった。調度品や絵画だけでなく、実際に使われていそうな大剣なども壁に掛けられている。また、城の内部も機能的で移動しやすいように設計されているようだった。実際に戦場になった際にも防衛をしやすいように考えられているようだ。
興味深く城内を見て回っていると、先頭を歩くフェルターが一瞬立ち止まり、一つの扉を見てから再び歩き出した。それを見て、ロックスとハイラムが自然と顔を見合わせる。
「おい、フェルター」
「その部屋はなんだい?」
二人が声を掛けると、フェルターは一瞬だけ横顔で振り向いたが、無言で先に進み始めた。その様子にロックスが笑みを浮かべる。
「……隠したい部屋か? 後でフィオール殿に確認しようか」
「……やめろ」
ロックスが笑みを浮かべて意地悪な発言をし、フェルターが低い声で返事をした。それに、ロックスは肩を竦めて首を左右に振る。
「城内を案内しろという侯爵家当主の命令があったというのに、フェルター・ケアンは義務を放棄するというのか。なんということだ。貴族としてあるまじき行いと言えよう」
ロックスはわざとらしく嘆くような素振りを見せ、それにフェルターは深く長い溜め息を吐いた。
「……俺の部屋だ。気にするな」
と、フェルターは答える。それに、ロックスより先にエライザが反応した。
「え!? フェルター君の部屋ですか!? 見たいです!」
「え?」
エライザの言葉に、思わず首を傾げる。どうしてエライザがフェルターの自室を見たいと言うのか分からなかった。すると、エライザが目を輝かせて振り向く。
「だって、フェルター君の部屋ですよ!? 学院に入る前だから小さなころの部屋ですよ!? 全然想像できないじゃないですか!」
エライザが興奮したようにそう言うと、ハイラムが小さく頷いた。
「確かにね。生まれた瞬間からこんな感じだったんじゃないかって思っちゃってた」
エライザの言葉に同意するハイラム。同意したつもりだろうが、もう少し言い方はなかったのだろうか。いくらフェルターでも小さな頃はあった筈である。
しかし、二人の言葉を聞くと確かに気になってきた。
「……フェルター君は自分の部屋を見せるのは恥ずかしいですか?」
気になったので本人に確認してみる。すると、フェルターはぴたりと動きを止めた。数秒考えるように黙っていたフェルターだが、やがて観念したように振り返る。
「……そんなに気になるか」
「まぁ、そうですね」
念押しのように尋ねられ、小さく頷いて答えた。すると、フェルターは溜め息交じりに戻ってきて、ロックスとハイラムが左右を守るように立つ扉の前に移動する。
「おお、開けるのか」
「アオイ先生の言葉には素直だね」
二人が興味深そうにそう言うと、フェルターは無言で一睨みしてから扉を開けた。数年は帰っていないと思われたが、扉は変な音を立てることもなく開けられる。
扉の向こうには、よく整理された綺麗な部屋があった。広さはかなりのもので、奥に置かれたベッドも三人は寝れそうな大きなものである。他の部屋と同様に天井が高く、床には白い絨毯も敷かれている。窓は大きく、家具は全て木製でシンプルなものだった。
「うわぁ、凄いです……」
シェンリーも大きな部屋に驚きを隠せないでいる。シェンリーも貴族の令嬢の筈なので、同じ貴族の目から見ても大きな部屋なのだろう。フェルターは私たちが部屋の見学をしている様子を入り口で眺めているが、どうも落ち着かない雰囲気が感じられた。やはり恥ずかしいのかもしれない。
そう思っていると、ロックスが窓の近くに置かれた子供用のロッキングチェアを見て、噴き出すように笑う。
「おお! こんな椅子に乗るフェルターは想像がつかないな!」
「……煩い」
ロックスが椅子を揺らしながらそう言うと、入り口で仁王立ちするフェルターが眉根を寄せて文句を口にした。確かに、馬のデザインのロッキングチェアは可愛らしく、子供の頃のフェルターが乗っていたと想像するとほのぼのする。
「子供の頃のフェルター君も見てみたかったですね」
そう言って振り返ると、視線を逸らされてしまった。代わりに、グレンが楽しそうに笑いながら答える。
「ほっほっほ。フェルター君は九歳からフィディック学院におるからのう。その頃ならわしも知っておるぞい。髪は短くて、もっと丸かったのう。目つきは悪かったが、可愛かったぞい。それがぐんぐん身長が伸びて、十五歳くらいで今のフェルター君に……」
「成長が早いですね。もう身長は伸びていないのですか?」
グレンが懐かしそうに語り、返事をしつつフェルターにも話を振った。それに、フェルターは嫌そうに廊下を指差して答える。
「……もういいだろう。行くぞ」
フェルターは面倒くさそうにそう言ったのだった。




