ケアン侯爵家2
フェルターの突然の攻撃により、攻撃を受けていないはずのモアが絶叫する。そんな混沌とした状況の中、恐らく我々以上にパニックになっている騎士達がフェルターを取り囲む。城壁の上部を破壊して一つ下の階層あたりに立つフェルター。それを城壁の屋上や地上から武器を構えて取り囲む騎士達。
一触即発の空気の中、フェルターがその場で立ち上がり、無言で周りを見回した。
その姿を見て、何人かがハッとした顔になる。
「……フェ、フェルター様じゃないか?」
「フェルター様だ!」
「なに!?」
城壁を破壊した人物の正体が判明し、一気に城壁周りが騒然となった。ざわざわと騒がしくなった場を見回して、フェルターは腕を組んで口を開く。
「……家に帰ってきただけだ。文句があるのか?」
フェルターがそう告げると、騎士達は揃って背筋を伸ばして姿勢を正した。
「も、文句などありません!」
「しかし、出来たら普通に帰ってきてもらえたら……」
「こら!」
騎士達が戸惑いつつ、各々フェルターに返事をする形で答える。それを見て、今しかないかとオーウェンと一緒に馬車を地上へと降下させた。騎士達は大いに動揺していたが、今度は武器を向けられることもなかった。
「申し訳ありません。正規の手続きを取らずに来てしまい……」
先ほどの白いマントを着た騎士の方に顔を向け、謝罪の言葉を口にしようとしたその時である。
「ぬんっ!」
力の籠った掛け声と共に、大きな何かがフェルターの下へ飛来した。
「……爺か」
フェルターはそれだけ呟くと、向かってくる拳を手のひらで受け止める。膝を折ることなく激しい力を受け止めたフェルターだったが、その衝撃に半壊した城壁の方が耐えられなかった。激しい衝撃で城壁の一部が完全に崩落する。その瓦礫や破片に姿勢を正していた騎士達も慌てて避難した。
粉塵が舞う中、フェルターに殴り掛かった城主、ラムゼイ・ケアンは歯を見せて大きな声で笑った。
「わっははは! よく帰ってきたな、バカ息子! しかし、帰って早々に家を壊すとは、反抗期か!?」
「……黙っていろ」
ラムゼイが笑みを浮かべて冗談を口にすると、フェルターは面倒くさそうに文句を口にする。気のせいだろうか。以前よりも二人の関係は柔らかくなったように見えた。
その様子を見て、騎士達は何故か感極まったような表情になる。
「おお……ラムゼイ様とフェルター様が楽しそうに……」
「久しぶりの帰郷でお喜びなのでしょう!」
「それにしても、フェルター様はお強くなられましたな……!」
わいわいと喜ぶ騎士達。その中で、白いマントを着た騎士だけがご立腹だった。
「閣下! フェルター様! お二人揃って城壁を壊してどうするのですか!?」
自分の主であるはずのラムゼイとフェルターに怒る騎士。それにラムゼイは楽しそうに笑って片手を振った。
「おお、すまんな。はっはっは」
一応の謝罪をして笑うラムゼイに、騎士達は苦笑いである。白いマントを着た騎士は城を守る責任者なのかもしれない。崩れてしまった城壁を見て悲しそうな顔をしていた。
ラムゼイとフェルターがお互い獰猛な笑みを浮かべて睨み合う中、馬車からモアとチーフが出てきた。
「ら、ラムゼイ様! 申し訳ありません! ラムゼイ様との謁見を希望する方がいらっしゃいましたので、お連れしたのですが、こんなことに……!」
「……申し訳ありません」
土下座する勢いで頭を下げるモアと、冷静に謝罪するチーフ。二人がすぐ近くまで走ってくるのを見て、ラムゼイはこちらへ目を向けてきた。
「……む? モアとチーフか。謁見に空から来るような者など……おお、アオイ殿! なんと、グレン学長も来られたか!」
そう言って驚きの声を上げるラムゼイに、軽く一礼を返しておいた。
「お騒がせしてしまいましたが、謁見に参りました」
「久しぶりじゃのう、ラムゼイ殿。ちょっとお邪魔するぞい」
挨拶をすると、グレンも和やかな雰囲気で続く。それに頷き返し、オーウェンにも目を向ける。
「ふむ。学院で見た教員と生徒もおるようだが、見慣れぬ者もおるな」
オーウェンを見てそう告げるラムゼイ。それに、オーウェンは面倒くさそうに答える。
「オーウェン・ミラーズ。エルフだ。今はフィディック学院の臨時教員でもある」
「おお、新しい教員か。フェルターをよろしく頼む」
オーウェンが簡素な自己紹介をして、ラムゼイも気にせず軽く答えた。ある意味、二人は相性が良さそうである。
そんな様子を眺めて、モアはホッと息を吐く。
「よ、良かった……何とか手続きを無視したことは有耶無耶に……」
モアが小さな声でそう呟いていると、白いマントを着た騎士が恨めしそうな顔で歩いてくる。
「……モア。貴様が付いていながらどうして城門より入ってこなかったのか。しっかり聞かせてもらおうか」
「ぴぃっ!?」
地面の底から聞こえてくるような恐ろしい声でそう言われて、モアは鳥が鳴くような鳴き声を上げて跳びあがったのだった。




