初授業
エライザやストラスに初等部で習う魔術の基礎や知識について教えてもらい、なんとか授業内容を決めることができた。
緊張しつつ、私は予約した教室の前に立った。まだ五分前だが、準備をしていれば良いだろう。
そう思い、扉を開けた。
すると、一番前に座るシェンリーの姿があった。
「あ、アオイ先生! おはようございます!」
「おはようございます、シェンリーさん」
挨拶を返しながら、教壇に向かい教室を眺める。
教室には、あの三人組の女子生徒達と、物静かな雰囲気の男子生徒が一人座っているだけだった。三人組の女子生徒達はキラキラした目でこちらを見ている。
教壇に置いてある参加者名簿には、僅か六名の名があるのみだ。どうやら、まだまだ新人教員の授業は需要が無いらしい。
だが、それでも六人、私の授業を受けに来てくれた。
私は顔を上げて、皆の顔を確認する。
「シェンリーさん」
「はい!」
全員の名を呼んでいく。
そして、最後の一人の名前を見た。
「ん? フェルター君?」
「ああ」
私が名前を読んで首を傾げると、扉を開けてフェルターが姿を見せた。思わず目を瞬かせていると、フェルターは堂々と目の前を横切り、最前列窓側の席に座る。
「……身体強化のみではありませんよ?」
「分かっている」
私の言葉に、フェルターは鼻を鳴らして答えた。太々しい態度だが、どこか可愛らしい。これが、年齢通りのフェルターの姿なのだろうか。
ふっと、肩の力が抜けるのがわかる。
私は六人の生徒を見回し、簡単に挨拶をすることにした。
「私はアオイ・コーノミナト。特に担当は決まっていないので、今回は誰でも参加がしやすそうな魔術の知識、考え方などについて授業を行うことにしました。教師としては新人も良いところですから、皆さんも私の言葉で分からないところがあったらどんどん指摘してください。一緒に実りのある授業にしていきましょう。宜しくお願いします」
そう言って頭を下げると、皆から拍手が起こる。少し照れながら、皆に視線を向けた。
「それでは、皆さんも軽く自己紹介をお願いします」
「は、はい! シェンリー・ルー・ローゼンスティールです! メイプルリーフ聖皇国から来ました! 宜しくお願いします!」
元気よく挨拶してくれたシェンリーに拍手をすると、今度は三人組の女子生徒の一人が手を挙げて自己紹介をする。
「アイル・ヘッジ・バトラーです! コート・ハイランド連邦国から来ました! 宜しくお願いします!」
朱色の髪の少女はそう言って頭を下げた。背が高めだが、何より名前と目に既視感を持つ。
「あ、コート君のご家族ですね?」
そう確認すると、アイルは嬉しそうに笑った。
「自慢の妹です!」
「自分で言わないでよ、アイル」
なるほど、兄妹か。私は笑いながら頷き、アイルに指摘をした隣の少女を見た。
「あ、私はリズ・スチュアートです。アイルと一緒にコート・ハイランドから来ました。宜しくお願いします」
ちょっとぽっちゃりとした水色の髪の少女はそう言ってお淑やかに一礼する。雰囲気のせいで年上に見えるが、恐らく同い年くらいだろう。
そして、リズに続けて三人目が口を開く。
「ベル・バークレイです! 二人と一緒でコート・ハイランドから来ました! こう見えて得意な魔術は火の魔術です!」
薄い胸を張って自己紹介をした淡い金髪の少女、ベル。エライザのように小柄で細身だが、活発な印象を受けた。
一人一人に頷きながら、少し奥に座る猫背の少年を見る。暗い緑色の髪を目元まで垂らした大人しそうな少年だ。
「あ、はい……! ぼ、僕はディーン・ストーンとい、いいます。カーヴァン王国から来ました。その、成ったばかりの男爵家の四男なので、き、貴族らしくはないです。は、はは……」
と、冗談か何か分からない一言を挨拶に加えて、ディーンは俯いてしまった。
皆から視線を受けて身を小さくするディーンに苦笑し、最後にフェルターを見る。
腕を組み、肩を竦めてフェルターが口を開いた。
「フェルター・ケアン。ブッシュミルズ皇国から来た。もしアオイに手を出そうとする者がいたら、まず俺のところに来い。以上だ」
「え? どういう意味ですか?」
思わず聞き返す。
フェルターは険しい顔でこちらを睨むと、すぐに視線を外した。
「……我がケアン家では、自らに勝った者を尊敬し、その者の力を取り込むべく努力する。師事したり婚姻したり、だ」
「……特殊な家訓? ですね。それで、フェルター君は私に師事する為に授業に……?」
「……そのようなものだ」
と、フェルターは居心地悪そうに返答した。
あまり慣れない空気に視線を彷徨わせると、シェンリーが扉の方を見て「あ」と声を発した。
振り向いて見ると、扉が外側から開かれ、どやどやと人が入ってくる。
「間に合ったか」
「アオイ先生! 授業終わってすぐに来ましたよ!」
「……失礼します」
と、ストラス、エライザ、そしてスペイサイドが姿を現した。
生徒共々唖然としていると、三人は空いた席に順番に座っていく。
「さぁ、始めてくれ」
ストラスは何事も無かったようにそんなことを言い、エライザも背筋を伸ばしてニコニコしている。
「……何故、皆さんが?」
尋ねると、ストラスは真顔で、エライザは笑顔で答えた。
「興味があったからだ」
「私もです!」
二人の返事を聞いた後に、スペイサイドの顔を見る。
「……名ばかりだろうと上級教員の授業は貴重です。期待を裏切らない授業であってほしいものですね」
何故か嫌味を言われた気がする。
私は溜め息を吐いてから、思わず笑った。
「……ふふ。それでは、授業を始めましょう」
そう言って視線を巡らせると、窓の外に顔だけ出したグレンの姿を発見してしまい、私は思わず頬を引き攣らせてしまった。
「質問だ」
「……はい、ストラスさん」
もう何度目か分からない質問に返事をすると、ストラスは頷いて立ち上がる。
「魔力を練りつつ、詠唱を行うことによって魔力の形を変え、魔術名を口にすることで発動にいたる……そこで思念の力が多少の影響を与えることは理解しているが、それほどの効果があるだろうか?」
その質問に、生徒よりも教員達が前のめりになって耳を傾けた。
「詠唱は誰でも魔術が使える様に開発されたレールのようなものです。言葉にはそれぞれ意味があり、頭の中のイメージが足りなくても魔術を発動させるにいたる技術といえます。それは確かに凄いことですが、魔術の本質を理解してはいません。魔術は科学……いえ、自然現象や物理現象を理解していることが第一前提と思っています」
答えると、スペイサイドが怪訝な顔になる。
「魔術の威力がそれぞれ違うのはそれで説明がつくのかもしれません。しかし、詠唱の研究をしていくと詠唱の在り方で魔術の性質や威力が変わるのは事実。ならば、詠唱の仕方や魔力操作の差異が最も重要ではありませんか?」
と、この魔術学院では最も正解とされる言葉を口にした。それに頷いて同意し、私は魔術を実際に発動する。
「火球」
目の前に浮かび上がった小さな火の玉に、皆が一瞬驚く。
「これは、頭の中を空っぽにして、ただ必要最低限の魔力を用いた火の魔術です」
言ってから消し去り、今度はしっかりと頭の中で想像、仕組みを意識しながら魔力を練り込んでいく。
「火球」
そして、発動された火の玉に、皆が思わず驚きの声を上げた。
燃焼の仕組みを念頭に魔力を徐々に強くしていった結果、目の前には人一人を飲み込むほどの巨大な火の玉がある。
「同じ魔術で、これだけの違いが生まれましたね。つまり、仕組みを理解して、最大限の効果を得られるように魔力を……」
解説をしながら火の玉を消し去ると、皆の絶句した姿が目に入った。
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