魔法陣の基礎概論
気持ちを引き締めて講義室に入り、皆に対して口を開く。
「それでは、今日は講義の助手を呼んでいますので紹介します」
そう言って講義室の出入り口を見ると、仏頂面のオーウェンが入ってきた。皆が噂のエルフの登場にざわざわと反応する中、オーウェンはマイペースに自己紹介をする。
「オーウェン・ミラーズだ。魔法陣の講義くらいならアオイ一人で十分だと思うが、助手を頼まれたので参加することになった。よろしく頼む」
オーウェンにしては丁寧な挨拶をしてくれたが、王族すら珍しくないフィディック学院においては高圧的な方である。ストラスも丁寧に喋るほうではないが、空気は柔らかい。普段から初等部の生徒達を相手に講義しているお陰だろう。一方、オーウェンは講義をするのが面倒だと態度に出てしまっている。
大丈夫かと心配になったが、アイル達が騒ぎ出して空気が変わった。
「オーウェン先生はアオイ先生の師匠ですよね!?」
「アオイ先生より凄い魔術が使えるんですか!?」
「見てみたいです!」
興奮した様子でそんなことを言うアイル達に、他の生徒達も驚きの声をあげる。
「アオイ先生より……?」
「とんでもない魔術師ってことかな」
「グレン学長並ってことじゃないか?」
一気に騒がしくなる講義室。オーウェンは困ったように眉根を寄せてこちらを見てきた。その視線に軽く頷き、皆に向かって声を掛ける。
「質問は後で受け付けましょう。それでは、最初の魔法陣基礎概論を始めようと思います」
そう告げると、多少騒ぐ人はいたが、徐々に講義室は静寂を取り戻していった。それを確認して、私は黒板に一番簡単な魔法陣を描いていく。
丸い平面での魔法陣だ。簡単なものなので、一分も掛からずに描き上げてしまう。
「これは、火の魔術の魔法陣です。魔術具と呼ばれる道具の多くには、こういった魔法陣が内部に描かれています」
そう告げると、一部の教員や生徒は私が描いた魔法陣をその場で描き写していた。後で実験しようとしているに違いない。
良い傾向だと頷きつつ、話を続ける。
「今回は概論……座学からということで、根本的なことから教えていこうと思います。まず、魔法陣についてですが、今は詠唱による魔術が一般的になり過ぎており、魔法陣は殆ど忘れ去られていますね? 何故でしょうか」
「……詠唱する魔術の方が有用だったから?」
疑問を投げかけると、生徒の一人が回答した。それに首を左右に振って、答える。
「私の考えですが、魔法陣の方が難易度が高かったからです。また、魔法陣は事前準備が必要なのに対して、詠唱する魔術は準備が必要ありません。いつでも、その場で発動が可能です」
そう告げると、他の生徒が挙手をする。
「それなら、詠唱魔術の方が有用だったということでは?」
そんな質問に、もう一度首を左右に振った。
「いいえ、そんなことはありません。なんにでも言えることかもしれませんが、使い道次第だと思います。魔力を殆ど使用しない魔法陣なら、魔力を流し込めば誰でも使えますし、緊急時に上級や特級の魔術を咄嗟に発動することも出来ます。例えば、王族や上級貴族の方が家宝として保管している古代の魔術具などもそうですね。いざという時に強力な魔術が一瞬で発動するというのは大きな利点です」
そう言うと、生徒達だけでなく教員も成程と深く頷いた。皆の様子を確認してから、先に簡単に魔法陣について実演してみせることにした。
「それでは、これから習う魔法陣について先に実際に見せておきましょう。疑似水精霊召喚」
一言、魔術発動の鍵となる魔術名を口にする。それに反応して、魔力が腕から魔法陣の刻印された腕輪へと流れ、魔法陣は効果を発揮する。空気中の水分が集まり、人の顔ほどの大きさの水の疑似精霊が出現して空中に浮かび上がった。
突然空中に現れた兎を模った水の塊を見て、驚きの声が上がる。
「可愛い!」
「手で顔洗ってる!」
嬉しそうな声で初等部の生徒達が反応した。水の疑似精霊は講義室の中を空中を跳ねるようにして移動している。それに、スペイサイドが真剣な顔になる。
「疑似精霊とのことでしたが、この水の塊は自身で考えて動いているということですか?」
「そうですね。ある程度はこちらが設定した通りに動きます。例えば、目標と定めたものを動きながら攻撃するとか、何かを守るために行動するなどの簡単な命令ですね」
そう告げると、何人かが感心したように何度も頷いていた。それから幾つか質問があり、それらに答えてから魔法陣の基礎講義へと移行する。
どうやら、皆に興味を持ってもらうことは出来たようなので一安心である。
「……それでは、早速魔法陣の基本についてお話しようと思います」
前々から書きたかった新作を掲載しました!(*'ω'*)
タイトルは『僕の職業適性には人権が無かったらしい』です!(*'▽')
是非読んでみてください!




