フェルター対エライザ
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歓声が沸き起こる中、校舎裏の闘技場のような広場でフェルターとエライザが向かい合って立っている。
ちょうど授業終わりになったこともあり、暇を持て余した生徒が集まってしまった。
「……皆、暇なんでしょうか」
「アオイさん!? 話の流れで付いてきちゃったじゃないですか! なんで、私がフェルター君と……!」
エライザは隣に立つ私の肩を両手で掴み、がくがくと揺さぶる。
「もう戦うしかありません。頑張ってください」
そう告げると、エライザが涙目で頭を抱える。
「フェルター君は学院にきて負け無しなんですよ!? 中等部では教師にも勝っちゃったんですからね!? 負けた先生はショックのあまり退職して母国に帰ってしまったんですよ……」
「大丈夫。エライザ先生が本気になったら勝てますよ。コツは、相手の苦手な分野で勝負です」
アドバイスをしてみるが、エライザはがくがく震えるだけである。とはいえ、エライザの魔術を見る限り、まともに戦えばフェルターには負けないと思うのだが。
「……何をしているんだ」
と、そこへストラスが歩いてきた。
生徒達が騒いでいるのを見て駆けつけたようだが、ことの成り行きを聞いて呆れたような顔になる。
「……死ぬ気か?」
「私が言い出したんじゃないんですーっ!」
涙ながらに訴えるエライザの話を聞き、私に顔を向ける。
「……殺す気か?」
「勝てると思っていますが」
答えると、ストラスは腕を組んで唸る。目の前のエライザを上から下まで観察した。
「……俺も悪くはないと思うが」
「え」
と、何故かストラスの言葉に照れて赤くなるエライザ。それには気付かず、ストラスは私を見た。
「どう戦う」
「フェルター君は身体強化の魔術を使って近接で戦うのが好みなようです。なので、エライザ先生には遠距離で戦ってもらいます」
「……それで、皆負けているのだが」
眉をハの字にするストラスに、口の端を上げて手を振る。そして、エライザの耳に顔を寄せた。
「ちょっと」
「はい?」
エライザは疑問符を上げながらも、私のアドバイスに耳を澄ました。
「……もういいか」
フェルターが言うと、一人になったエライザが大きく頷く。
先程とは打って変わって、自信に満ちた表情、に見える。
「なんの助言をしたんだ」
「秘密です」
私たちは観客と同様に闘技場の壁際まで移動してそんな会話をしていた。
と、そこへ白い髪の女子生徒が近寄って来る。シェンリーだ。シェンリーは慌てた様子で私のそばまで走ってきた。
「アオイ先生! な、何があったんですか?」
心配そうに状況を確認するシェンリーに、頷いて答える。
「フェルター君がエライザ先生を弱いと侮っていたので、戦わせてみました」
「アオイ先生が戦わせてるんですか!?」
吃驚するシェンリーに、私は笑顔を返した。
「大丈夫。エライザ先生が勝ちます」
「え!? 勝てるんですか!?」
と、シェンリーは心底驚いた顔でエライザを見る。
「……はじまるぞ」
そこへ、ストラスが戦いの始まりを察して教えてくれた。
まるでそれを合図にしたかのように、両方が魔術の詠唱を始める。エライザは後方に向かって歩きながら、フェルターはその場で静かに詠唱する。
流石に詠唱速度では負けられないと、エライザが先に魔術を発動させた。
「砂上の壁!」
エライザが叫ぶと、フェルターとの間に砂の壁が出来上がった。
そして、さらに新たな魔術の詠唱を開始する。
そうこうしていると、フェルターの魔術も発動した。
「力強化」
発動した瞬間、フェルターの体は薄い緑色の光に包まれる。光を発するフェルターは、一歩一歩砂の壁に向かって歩き出した。
徐に腕を後方に引き絞り、前方に向かって飛び出す。
「ふん!」
気合いの声を上げて、拳を前に突き出した。フェルターの拳は勢いよく砂の壁に突き刺さり、砂の壁の一部を破裂させる。
「ひゃあ!?」
迫力ある光景にシェンリーが驚きの声を上げた。ストラスも目を見張っている。
「砂の壁だからあの程度で済んだな。岩の壁なら破片が飛んで反対側にいるエライザも危なかった」
「予定通りです。次が決め手になる筈ですよ」
そう言った直後、今度はエライザの魔術が発動した。
「砂嵐!」
エライザの声とともに、極小の砂嵐が吹き荒れる。大きさは五メートル四方に限定した密度の高い砂嵐だ。
視界はもちろん、まともに歩けるかも怪しい暴風がフェルターを襲う。
だが、フェルターは焦りもせずに両手を振り上げ、勢いよく振り下ろした。すると、フェルターの恐るべき力で地面の表面が破裂したように吹き飛んだ。
その勢いに、砂嵐は流れが乱れて風速も弱まった。その瞬間を見計らい、フェルターは一気に突き進み、砂嵐を抜ける。
「流砂!」
ちょうど同じタイミングで、エライザの魔術が発動した。
砂嵐を抜けてエライザの居場所を探そうとしていたフェルターが、沼にハマるように砂の中に沈んでいく。
「これは……」
初めてフェルターが表情を変えて両手を振り回して地面を掴もうとするが、触れる地面は水のように形を変えてしまい、脱出する取っ掛かりすら掴めない。
腕を使っての脱出は厳しいと判断したのか、フェルターは他の魔術を使おうと詠唱を始めた。
しかし、その隙を与えまいとエライザが初級の魔術を次々に発動させる。
「砂の球!」
「ぐっ!」
初級とはいえ、流石のフェルターも食らいながらでは詠唱が出来ない。そして、詠唱を短縮する技術を持つエライザには魔術を発動する速度で敵わない。
文句無し。完全勝利だ。
しかし、フェルターは諦めなかった。ぎろりと音がするほどエライザを睨むと、頭を下げるようにして上体を倒す。
「っ!」
砂の球が頭に直撃し、僅かにフェルターの体が仰け反った。初級とはいえ、魔術の直撃である。思い切り殴られた以上の衝撃があった筈だ。
「あ!?」
思わず、エライザが悲鳴をあげてしまう。
その間に、フェルターは魔術の詠唱を行った。慌ててエライザも詠唱を始め、砂の球を放つが、フェルターはダメージを食らいながらも詠唱を続ける。
「脚力強化」
そして、フェルターの魔術は発動した。フェルターの体が白い光に包まれる。
「ぬ、ぁああっ!」
唸り、フェルターが何度かもがく。すると、地面が僅かに下がり、どんどんフェルターの体が砂の上に上がってきた。
そして、飛び出すようにしてフェルターは流砂から脱出を果たす。
地面に降り立ち、砂を払いながら怒気を孕む目でエライザを睨んだ。
「……ここまで戦い辛い相手は初めてだ」
「っ! 岩の壁!」
フェルターが攻撃の態勢に入る前に、エライザの魔術が発動する。
三メートルをゆうに超える巨大な石壁が闘技場を半分に仕切った。しかし、フェルターはそれを軽々と飛び越えて見せる。
「負けを認めろ」
フェルターがエライザに向かってそう言った。
「だ、ダメです! 私から降参は出来ません!」
涙目でエライザが怒鳴り、魔術の詠唱を開始する。
それにフェルターは短く息を吐き、走り出した。
「そこまでです」
二人がぶつかり合う寸前、私は一足跳びに二人の間まで行き、試合を止めた。
予期していたのか、フェルターはすぐに立ち止まり、拳を下ろす。
「……あ、アオイ先生」
私の登場で気が緩んだのか、それとも悔しさ故か、エライザが手を震わせて杖を落とし、涙目になる。
「申し訳ありません。私が、フェルター君の実力を見誤ってしまいました」
「ち、ちがいます! 私が、油断しなければ……すみません、アオイさん……」
肩を落として謝罪するエライザを見て、フェルターが舌打ちをする。
「……どうなっても俺が勝っていただろう」
「そうとは限りません」
フェルターの言葉に私が反論すると、フェルターは私を睨み返す。
「……たしかに、相手が予想外の実力を見せたのは間違いない。だが、勝ったのは俺だ」
そう答えるフェルターに、私は仕方なく頷いた。
「……わかりました。怪我を治療します。その後は、私と戦いましょう」
そう答えると、フェルターはあの獰猛な笑みを浮かべた。
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