帰宅
「お世話になりました」
「いえ、こちらこそ。とても面白いオークションになりました」
色々と面倒をかけたクリークに挨拶をして、王都を出る準備をする。ミドルトン達とは十分近況について話が出来たが、今度改めてロックスのことを聞きに学院に来ると言って帰っていった。
オークションの終了が夕方になる前だった為、急いで帰れば夜中にはフィディック学院に戻れるはずだ。そう思い、バタバタ準備をした。
「今度はうちのオークションハウスで金を落としていきなさいよ!?」
「金貨五万枚準備してきなさい!」
「……何が悲しくてうちよりも小さなオークションハウスに行かなくてはならんのだ」
「何が小さいって!?」
「ぶん殴るわよ!?」
オークションハウスの支配人達が雑談に花を咲かせている傍ら、二台の馬車に荷物を積んでいく。
「おい、土産はもう良いのか?」
「え? 全員分買ったと思いますが……」
「ハッ!? グレノラさんの買ってませんでした! すぐに買ってきます!」
王都には珍しい物が多く、土産を買っていくと喜ぶと言われて色々と購入しておいた。スペイサイドなどの同僚や、フェルターやソラレといった生徒達の分。更にはクラウン達にも面白そうな魔術書を購入している。
それらを積み込むと、馬車は来た時よりもいっぱいになってしまった。
「……わしは飛翔魔術を使うから御者席で良いかのう」
狭い室内を見て、グレンがそう呟く。
「そうですね。お願いします」
微笑みつつそう言うと、グレンはいそいそと御者席へ移動した。皆が馬車に乗ったことを確認してから、飛翔魔術を使って馬車を空へと浮かび上がらせる。
「それでは、また」
「また、是非ともお立ち寄りください」
メーカーズとクリークに別れの挨拶をして、手を振る二人を横目に王都を出発する。
多くの灯りが彩る夜の王都も美しいが、この日の夜は雲一つない星空だった。
「うわぁ! 綺麗ですねー!」
「本当ですね!」
エライザとシェンリーが嬉しそうに窓から顔を出し、満天の星空を眺めている。
「中々興味深い旅でした」
「お前はついてきただけだっただろうが」
「先輩もそうでしょう?」
「いや、俺は色々と……」
珍しくコートとロックスが話し込んでいる声も聞こえる。一方、反対側の馬車は大変そうだった。
「見てぇ! あの星空!」
「凄いわー!」
「……黙って星を見ていろ」
「何よ! 風情がないわねー!」
「綺麗なものを見たら綺麗って叫びなさいよ! 例えば、私とかね?」
「グレン学長。どこかでこいつらを落としてください」
「ひっどいわー! この冷血人間!」
「イケメンだから許されるとでも思ってるの!?」
そんなコントみたいな会話に、御者席に座るグレンは苦笑しつつ頷いた。
「うむうむ……仲が良さそうで何よりじゃ」
あまり関わらないように決めたのか、グレンはそんな感想を呟いて魔術に集中したのだった。
真夜中に学院の真上に着き、グレンと馬車を入れ替えて皆を送り届ける。グレンはエライザとシェンリー、ロックスとコートを連れて学院敷地内にある寮へと降り立つ。対して私はストラスと一緒にワイド達をオークションハウスへと連れて行った。
「もう帰り着いたわー!」
「本当、吃驚することばかりだったわー!」
二人は自分たちの経営するオークションハウスを見上げてそう口にする。
「ワイドさん、タキーさん。今日は本当にありがとうございました」
二人の背中にお礼を告げると、ワイドが腕を組んで振り返った。
「全然良いわよ! ただ、ロイルのことが気になるのよね!」
「そうそう。あいつが根に持ったら絶対に何か嫌がらせに来るわよ!」
いつもの調子で喋りながら、二人の表情は真剣である。
「……このウィンターバレーまで来るのでしょうか」
学院に迷惑を掛けてしまうかもしれない。そう思って不安になる。すると、ワイドは短く息を吐いてストラスを見上げた。
「ストラスちゃんが守ってくれるわよ。ねぇ、ストラスちゃん?」
そんな軽口に苦笑していると、隣に立つストラスが顎を引いた。
「……そうだな」
意外にもストラスは真剣な様子でそう答える。深刻な状況と思っているのだろうか。
「ロイルさんが来るとは限りませんよ」
そう告げるが、ストラスは首を軽く左右に振る。
「噂の内容を聞く限り、下手をしたら街中で攻撃の魔術を使う可能性もある。用心するに越したことはないだろう」
「おー! ストラスちゃんが格好良いわー!」
「素敵ねー!」
と、ストラスが真面目に心配しているというのに、ワイド達は茶化して口笛など吹きならし始めた。そこからはいつものように、ストラスと口喧嘩を始めてしまう。
三人のやり取りに笑いながら、ロイルのことを思い出す。争う気はないが、変な誤解を受けてしまったことが気になっていた。もしきちんと話すことが出来たなら、魔術具についても情報交換をしてみたいとも思っている。
「……ロイルさんは本当に来るのでしょうか」
誰にともなく、そう呟いたのだった。




