王も王妃もオークション好き
オークションハウスのロビーに行き、受付の方を見る。すると、そこにはクリークの姿があった。
「いらっしゃいませ、アオイ様。どうぞ、こちらへ」
クリークは普段通りの態度でそう言うと、奥へと案内してくれた。奥の通路に入ると、メーカーズの姿を発見する。
「それでは、参りましょう」
メーカーズはそう言って、幾つか並ぶ扉の一つをノックした。
「失礼いたします。アオイ様をお連れいたしました」
メーカーズが入室と同時にそう告げた。
「おぉ、アオイ! 久方ぶりだ! グレン侯爵も元気そうだな」
すぐに名を呼ばれて、頭を下げる。
「お久しぶりです。ミドルトンさん」
そう答えると隣でメーカーズがギョッとした顔をしたが、ミドルトンが上機嫌にしていた為何も言わなかった。グレンも笑いながらざっくばらんに返事をしていたが、そちらは侯爵という肩書もあり違和感はないようだった。ちなみにミドルトンと会うのはグレンと私、メーカーズの三人のみだ。
部屋は前回の会議室らしき部屋よりも広く、全体的にシンプルな内装ながら、ソファーやテーブルは豪華なものだった。二人掛けサイズのソファーそれぞれにミドルトンとロックスが優雅に座っている。贅沢な使い方だが、それを指摘する者はいまい。
「レアさんは今日は来ていらっしゃらないのですか?」
二人しかいないことに気がついてそう尋ねると、ミドルトンはこちらに座るように促しながら答える。
「うむ。今日はレアは所用でおらんのだ。もう少し早く王都に来ることが分かっておればと残念がっておったわ」
ミドルトンは苦笑混じりにそう告げると、椅子に座ったグレンを見て話を振る。
「事情はロックスから多少聞いておるつもりだが、侯爵が同行しているのはロイルへの抑止ということか?」
ミドルトンがそう尋ねると、グレンは苦笑しながら頷く。
「うむ。わしも会ったことはないのじゃが、ロイルとやらも一応貴族であるわしがおれば無茶は控えるんじゃないかと思ってのう」
グレンがそう告げ、ミドルトンは腕を組んで口の端を上げた。
「さて、ロイルという者はそう簡単ではないぞ。なにせ、出身地はコート・ハイランドでありながら、既にこの王国内にも自らの商会の店を十以上持っておる。僅か数年で、だ。その勢いは各国でも同様でな。十年か二十年か、このままの勢いで商売をしておれば世界一の大商会となるだろう。本来なら貴族に逆らえばその地で商売が出来ないなど、自身に不利になる点を考慮して大人しくなるものだ。しかし、ロイルにそれは無い。はっきり言えば、国外追放となったところで大して苦にもしないだろう」
ミドルトンのそんな言葉に、グレンは絶句する。しかし、それは私が思っていた貴族社会とは完全に一線を画すものだった。
「……貴族に逆らえば下手をしたら投獄などもあり得るのでは?」
素朴な疑問だったのだが、ミドルトンとグレン、更にはロックスまで唖然とした視線を向けてきた。
「……予想外の人物が常識的なことを口にしたな」
「おお、同意見の者がおったのう」
「流石にアオイがそれを言うのはちょっとな……」
三人が揃ってそんなことを言い出したので目を細めて冷たい視線を返す。すると、三人は同時に視線を逸らして咳払いを始めた。
そのやり取りを見て、メーカーズはくつくつと笑いながら小さく頷く。
「失礼……悪い意味ではなく、アオイ様もロイル様と近い環境にあるようですね。しっかりとした基盤があり、たとえその国から追い出される羽目になっても問題なく生きていける……羨ましいですね。本当に強い方にしかできない生き方です。そういった方々には、王族や貴族の方の権力もその力を発揮できないのかもしれません」
メーカーズがそう考察すると、ミドルトンは深く頷いた。
「うむ、その通りだ。困ったことに、アオイはその最上級じゃな。エルフの王にすら認められて、あの頑固な長寿種の国の法律まで変えてしまった。そんな人物を敵に回すなど恐ろしくて出来んわ」
肩を竦めてそんなことを述べるミドルトンに、グレンとロックスが何度か首肯する。
「いやはや、あの勇壮なる陛下をもってそう言わしめるとは……これは、一般的に出回っているアオイ様の情報を少し修正した方が良さそうですね。下手な貴族がアオイ様にちょっかいをかければ国内外で立場を失う恐れがあると知らしめるべきでしょう。そうでないと余計な不幸が生まれる可能性もあります」
メーカーズがそう提案すると、ミドルトンは深い溜め息を吐いて片手を振った。
「そんなもの、とっくにしておるわ。ただし、我が国の貴族らにのみだ。他国の商会にまで伝えるものでもなかろう」
ミドルトンは面倒臭そうにそう告げる。これにメーカーズは恭しく頭を下げる。
「差し出がましいことを申しました。申し訳ありません」
即座に謝罪をするメーカーズ。その頭を一瞥してから、ミドルトンはこちらに体の正面を向けた。
「……それで、本題だ。今日はアオイがロイルと魔術具を巡って争うのであろう?」
「はい。その予定です」
答えると、ミドルトンは面白そうに口の端を上げる。
「そのような面白いもの、見逃してなるものか」
完全に見世物と思っている態度のミドルトンが歯を見せて笑うと、ロックスが溜め息混じりに呟いた。
「……母上も二週前に出した手紙をつい先日読んで、知り合いの夫人を集めているらしい。実は今日も仲の良い伯爵夫人に声をかける為に会う約束していたようだ」
と、ロックスは迷惑そうに口にした。
どうやら、レアは面白いものを見物できるぞとママ友を集めに行ったらしい。いや、その子供たちがフィディック学院に在籍しているかは分からないのでママ友とは限らないだろうか。
「……これは、今回のオークションは荒れそうですね」
我々の会話を聞いていたメーカーズは小さくそう口にして額の汗を拭ったのだった。
異世界教師7巻!
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