こちらが証拠です
ロックスが放った炎の槍が凍り付き、周囲を氷の世界にしたアオイの姿に、最初の目的を忘れて唖然とした顔で見入る二人。
そして、アオイは気にせず上映会を続ける。
応接室の壁面に映し出された映像では、ロックスがアオイを「化け物」と叫んでいた。
「このように、ロックス君は教師を教師とも思わぬ言動を……」
そう言いかけたアオイに、グレンが勢い良く挙手をしながら声を掛けた。
「はい! アオイ君! なんじゃね、それは!?」
グレンが飛びかかりそうな勢いで疑問をぶつけてきて、アオイは思わず身構える。両手を前に出して猫科の動物のような格好をしたアオイは、眉根を寄せて口を開いた。
「……これは、水と火の初級魔術を合わせたオリジナル魔術です。どうしても私の視点からしか映像を転写出来ないのが欠点ですが、何とか改善出来る見通しは立っています」
「oh……」
アオイの、さも当然といった口ぶりに、グレンは頭を抱えて椅子にもたれ掛かった。
「また作っちゃった上に、更に改良出来るじゃと……本当に、なんなんじゃ、この娘っ子は……実は悪魔王とかじゃあるまいの」
「何か?」
「ナンデモナイゾイ」
二人がそんなやり取りをしていると、ようやく冷静さを取り戻したミドルトンが咳払いを一つして、映像を指し口を開く。
「……この恐るべき魔術は今は措いて置こう。あの、ロックスが使った炎の魔術、あれが何か知っているのか」
真剣な顔で聞かれた内容に、アオイは軽く溜め息を吐いて首を左右に振る。
「知りません。しかし、推測は出来ます。あの魔術を使う際、ロックス君は手に持っている短剣に魔力を込めて、無詠唱で魔術を発動しました。つまり、あの短剣は魔力を込めるだけで魔術が発動する道具であると推測されます」
そう告げると、グレンが目を輝かせて顔を上げた。
「なんじゃと!? それはまさか、失われた遺物か?」
驚愕するグレンに、ミドルトンが浅く頷く。
「その通りだ。それこそ、あの遺物一つあれば戦局を左右することも出来る。我が国にある四つの遺物の一つである」
と、ミドルトンは言った。それにアオイは何度か頷き、答える。
「……遺物」
そう呟くと、ミドルトンはアオイを見た。
「遺物の脅威は、魔力さえ十分にあるならば、誰でも中級以上の魔術を発動出来ることにある。それも、無詠唱で、だ。これは、時と場所を選べば要人の暗殺にも使えるのだ。遺物を多く持つ国は、例外無く戦に強い」
ミドルトンが言うと、グレンが目を細める。
「……遺物の情報は各国王家の秘匿するところじゃて。遺物があると分かっていても、何の属性の魔術かわからなければ脅威は薄れん。じゃが、アオイ君は突然現れた炎の魔術に、難なく対処してみせた。それも、水の上級魔術以上のもので、じゃ。これは……」
「その話はまた今度」
長々と続きそうなグレンの話を一刀両断。アオイは凛と背筋を伸ばし、映像を消した。
「今は、ロックス君の普段の言動と、乱暴な行いについて話し合いを行なっています。戦争の道具などどうでも良い話です」
きっぱりとそう言い切るアオイに、グレンとミドルトンは目を丸くする。
静かになった場で、アオイの言葉が響いた。
「ロックス君の言動には、いき過ぎた王族の誇りが根幹にあります。王族は誰よりも優れ、それ以外の人間を見下しています。それは、お二人のご教育でしょうか」
尋ねられ、ミドルトンとレアは答えに窮する。
顔を見合わせて複雑な表情をすると、レアが苦笑しながらアオイを見た。
「……アオイさん? 善意で教えておくけれど、王族に対しての無礼は極刑と定められているのよ。あまり、強い発言はやめた方が……」
レアがどこか試す様な目つきでそう口にしたのだが、アオイはむしろ睨み返して返答する。
「それが、ロックス君の勘違いを増長させています。王族とてただの人間です。貴族でない者を侮辱し、もし反撃を受ければ、あっさりと命を落とすことも考えられます。生徒としての教育もそうですが、他国の王侯貴族がいるこの学院でそのように敵を作っていくような行動は、王族としてどうでしょうか」
言ったそばから王族を王族とも思わぬ発言をしたアオイに、レアの表情から温度が失われた。
「氷の双刃」
小さく呟かれた言葉と同時に、大量の魔力が首元に集まる。
空中に三層の魔法陣が浮かび、レアとミドルトンの座るソファーの左右を挟むように巨大な氷の刃が出現する。見る者に震えが走る様な、薄い丸みを帯びた刃を持つ曲剣だ。二つの曲剣の先はアオイの眼前に向いている。
それを瞬きもせずに見つめ、アオイは呟く。
「焦熱円天」
アオイが口にした直後、空中に幾つも赤い軌跡が走った。赤い光の線は円を描く様にアオイの周りを飛来し、それに触れた巨大な氷の刃は瞬く間に溶けてバラバラになる。
「な、なん……っ!?」
興奮して立ち上がりかけたグレンを、アオイがひと睨みで止める。
「動かないでください。この赤い光に触れたら死ぬと思ってください。どうしても十秒間は消す事が出来ません」
そう告げられ、グレンは冷や汗を流しながらゆっくりと座り直した。
沈黙の空間で、アオイは絶句するミドルトン達を眺める。
「……失礼を承知で言わせてもらいます。今、お二人は死の間際にいました。ミドルトン国王陛下、レア王妃。お二人の王族という立場は、平民である私から命を守ってはくれなかったということです。もちろん、そんなことをすれば私はこの国を出て、他国に行くしかないでしょう。それこそ、ヴァーテッド王国と敵対する国に行き、戦争に加担することになるやもしれませんが」
そう言い終わる頃にはアオイの魔術が発動を終え、光も消えた。
数秒、沈黙が場を支配する。
そして、ついにミドルトンが口を開いた。
「……まいった。我々の負けだ。ただ、腹も立てただろうが、レアも君のことを思って助言したことは覚えておいてもらいたい」
「はい。分かっています」
答えるアオイに、レアは胸元からネックレスを取り出してみせる。
「貴女には、我が王家の秘宝も効果はなかったわねぇ。悔しいけど、これだけ完膚無きまでやられたら、清々しいくらいよ」
「私からも謝ろう。そして、ロックスのことは貴女に任せたい。アオイ殿。貴女の言葉は苦々しくもあったが、納得する部分も多々ある。今思えば、我が王家に強い忠誠心をもった者達にばかり教育を任せてしまった。己を崇める者ばかりでは、自らも神になったような心地になるやもしれん……悪いが、私が直接ロックスを罰すると、余計な噂や争いの原因になりかねぬ。手間をかけるが、ロックスに厳しく言えるのはアオイ殿だけだろう」
そう言う二人を見て、アオイは目を瞬かせた。
「……最初から、ですか。グレン学長は?」
視線を向けられ、グレンは貼り付けたような笑みを浮かべて視線を逸らす。
それを見て笑い、ミドルトンとレアが苦笑した。
「実はな、以前よりグレン侯爵より報告はあった。まぁ、アオイ殿よりも随分と柔らかい内容ではあったがな」
「はい。少々、目に余るといった内容だったかと……ふふ。まさか、これほどまで厳しく言われるとは思いませんでしたね」
笑い合う二人に、アオイは拗ねた様に顔を顰める。
「……それなりに緊張して挑んだのですが」
文句を言うアオイに、ミドルトンは不敵に笑う。
「許すが良い。ロックスを預けるには信頼出来る人物でなければいけなかった。これまでのやり取りで、アオイ殿はただ単純に生徒の行いを正そうとする根っからの教師であると知れた」
そう言って快活に笑うミドルトンと口元を隠して笑うレアに、アオイは深く溜め息を吐いたのだった。
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