学長も驚愕の三者面談
石畳を踏む、機械的なまでに揃った足音。金属のぶつかり合う高い音。そして、中心を進む大型の馬車を引く馬の足音。
無骨な音が合わさり、学院の前まで進んだ騎士団は一時停止した。先頭に立つ馬に騎乗した騎士がヒラリと地面に降り、受付へと歩く。
「王都より参った。陛下、レア王妃、以下近衛騎士四百名。入場したい」
「はいはい。朝一番の受付ですね。武器はこちらで全て預かりますよ。じゃ、一人ずつ名前の記帳をお願いしますね」
「む、一人ずつか……そのような時間をかけるわけには……」
「悪いね。決まりだからね。さぁ、台帳を貸し出しますよ」
そう言われてノートを預かり、近衛騎士は慌てて部下に名を書くように言った。
それから一時間後、フィディック学院に国王、ミドルトン・イニシュ・キルべガン一行が入場したのだった。
ドタバタと慌てる教員や学院スタッフ。面白がって遠巻きに見学に来る生徒達。
そんな混沌とした学院内を、国王一行は案内に従い歩く。
通路の先を近衛騎士達が確認しなくてはならない為、案内人は三人も付いている。その内の一人はスペイサイドだった。
冷や汗を掻きながら案内をするスペイサイドの言葉に、ミドルトンは鷹揚に頷きながら、鋭い視線を学院内に向ける。
「……随分と生徒が歩き回っているが、授業はまだなのか?」
「は、授業は後少ししたら始まります。午前中は学長と会談していただき、午後は授業見学も計画しておりましたが」
「む……今日我々を呼んだのはアオイ・コーノミナトという新任の教員であると聞いたが」
「は、はい。その情報で間違いはございません。失礼いたしました」
国王の言葉一つ一つに神経をすり減らしながら、スペイサイドは学院の二階にある応接室へと向かった。
重厚な両開き扉を開けて応接室に入ると、中には三人掛けほどの革張りのソファーが四脚並んでおり、四方を椅子で囲むようにしてローテーブルが置かれていた。
そして、最奥のソファーにはグレン学長が座っており、その脇に立つ形でアオイの姿があった。
近衛騎士を二名だけ同行し、国王と王妃が応接室に入室する。
「よくぞフィディック学院にいらっしゃいましたな。歓迎しますぞ」
と、グレンはフランクに挨拶をする。それに近衛騎士二人が目つきを変えるが、片手で制して国王は口の端を上げた。
「変わらないな、グレン・モルト侯爵。貴殿が我が国にいてくれるだけで、他の五大国に侮られないで済むというもの。頼りにしている」
「はっはっは。ただの老いぼれに過分なことですな」
と、そんな砕けたやり取りをする二人を見て、王妃が笑う。
「まぁ、仲良しさんですねぇ。でも、お二人だけで話して先生をお待たせしては失礼ですよ」
やんわり注意する王妃に、二人はバツが悪そうに笑い、アオイを見た。
「む、君がアオイ・コーノミナトか。私はヴァーテッド王国の国王、ミドルトン・イニシュ・キルべガンである。今日は第二王子である我が息子、ロックスの話を聞かせてくれると聞いている。宜しく頼む」
ミドルトンがそう言うと、レアが隣に立つ。
「私は妻のレア・ベリー・キルべガンよ。今日は宜しくね」
と、レアは柔和に微笑み、ソファーへ移動した。ミドルトンとレアがソファーに並んで座り、アオイを見る。アオイは対面のソファーに一人で腰掛けた。
そして、二人を正面から見て真面目な顔で口を開く。
「初めまして。つい先日からこの学院で教員として働いております。アオイ・コーノミナトです」
「うむ」
自己紹介に鷹揚に頷くミドルトンに、アオイはこの日の主題を伝えた。
「今日は、高等部で魔術を学ぶロックス君のご両親のお二人にお越しいただきました」
「……む、そうだな。含みのある言い方に聞こえるが?」
ミドルトンが片方の眉を上げてそう尋ねると、アオイは頷く。
「はい。なので、お二人の国王や王妃といった肩書きを無視し、ただの生徒のご両親としてお話しさせていただきます」
はっきりとそう言ったアオイに、扉の前に立っていたスペイサイドの顔色が変わった。顔は強ばり、血の気が引いていくスペイサイドを見て、グレンがひっそりと苦笑する。
そんな中、ミドルトンは難しい顔で唸り、顎を引いた。
「……成る程。心して聞くことにしよう」
そう言うミドルトンに、レアは明るく笑う。
「大丈夫ですよ。ご学友の家の者や、側仕えの者からの報告は聞いているでしょう? ロックスは真面目に勉学に勤しみ、今では学院内でも天才なんて言われているって……」
嬉しそうにそう言うレアに、アオイは悲しそうな顔で首を左右に振って答えた。
「残念ながら、お母さん。それは違います」
あっさりと否定の言葉を口にされて、レアが固まる。同様に苦笑いしていたグレンとミドルトンの顔も固まる。
それに気付いているのか、いないのか。アオイはマイペースに話を続けた。
「ロックス君は確かに人並み以上の魔術の才能があるかもしれません。しかし、勤勉さには欠けます。もう少し真面目に授業を受けてほしいところですが、それに関してはまた別の話ですね」
淡々とそう告げるアオイに、スペイサイドが白目を剥きそうになる。
必死に意識を保とうとするスペイサイドを横目に、ミドルトンが渋面で口を開いた。
「……あの子は真面目に学んでいないのか?」
「はい。私が知る限り、他の生徒の勉強を邪魔するような場面もありました。もうロックス君に教えるのは嫌だという教員もおります」
「……何かの間違いではないのか。報告とは随分と違う内容だ」
そう答えるミドルトンに、アオイは「間違いではありません」と返事をする。
「そちらも問題ではありますが、今回伝えたかったのは別の件です」
そう言ってから、アオイは嘘偽り無くロックスの日々の言動や乱暴な振る舞いを二人に伝えた。途中、スペイサイドが体調不良を訴えて退室したことを除いて、淡々とアオイが事実報告する声だけが響く。
「以上です。何か、ご質問はありますか?」
そうアオイが聞く頃には、ミドルトンの顔は恐ろしい表情になっており、レアは泣きそうになっていた。そして、グレンはもはや無表情だ。
静まり返った室内で、アオイが一人頷く。
「ご質問は無いようなので、今後の方針についてお話しさせていただきます」
「……ちょっと待て」
アオイが続けようとすると、ミドルトンが低い声を発した。それに、近衛騎士二人が冷や汗を流す。
「何でしょう」
確認すると、ミドルトンは苦々しい顔でアオイを睨んだ。
「……ロックスが虐めを行なっている、そのシェンリーという子爵家の子ども。そちらがそもそもの発端だった、という可能性は無いのか。その子からだけでなく、我が子からも事情を……」
「どのような理由があろうと、同級生に魔術を放って怪我をさせてはいけません。複数人で弱い者を追い詰めるなぞ、王族や貴族以前に、人として間違っています。また、自分が王族だからと獣人を馬鹿にしたり、下級貴族や平民を馬鹿にしてはいけません。教員相手に魔術を放つのも間違いです。違いますか?」
凍てつく様な視線を向けてアオイが告げると、ミドルトンはぐっと顎を引いて口を噤んだ。
何も言えなくなったミドルトンを一瞥して、レアが泣きそうな顔で口を開く。
「あの子が女の子を虐めるなんて、とても信じられないわ。証拠はあるの? 六大国から注目を集める学院内で、王族の醜聞が広がれば、その国の影響力を下げることが出来るかもしれない。そう思う何者かがいる可能性だって……」
混乱気味のレアが涙声でそう訴えると、アオイは冷たく「いいえ」と否定の言葉を口にした。
「六大国の目があるからこそ、下手な策略は自らの首を絞めるでしょう。ただ、それでも納得出来ないというなら、証拠をお見せします」
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