表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件 〜王族も貴族も関係ないから真面目に授業を聞け〜  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

202/343

王の登場と元老院の魔術披露

 開かれた扉の前には、見知らぬエルフの姿があった。元老院の議員達と同じ白いローブに、更に金の刺繍が施されたマントを着けた長い金色の髪のエルフである。無表情だというのに、妙に迫力のある雰囲気をもったそのエルフは、銀色の鎧を着た四人のエルフを従えて広間の中に一歩踏みこみ、口を開いた。


「火は、余が最も得意とするところ……違うか?」


 男がそう言うと、その場にいたエルフ達が素早く片膝をついて跪き、頭を下げる。


「勿論でございます、陛下。この王国に陛下を凌ぐ火の魔術の遣い手はおりません」


 エドラがそう言うと、陛下と呼ばれた男は腕を組んで首を斜めに傾けた。


「ならば、余が火の魔術を披露してやろう……まったく、何も言わずに面白そうなことを始めおって」


 くつくつと笑いながらそう言うと、こちらに視線が向く。


「他国の来訪者よ。余がアクア・ヴィーテを治める王、リベット・ファウンダーズ・トラヴェルである。そこの警護隊隊長より話を聞いたぞ。この王国でも見ることが出来ないような高度な魔術を扱う、と……実に面白い。楽しみに拝見させてもらおう」


 そう言って、エルフの王国の国王、リベットは腕を組んで笑みを浮かべた。


 とてもお年寄りには見えないが、本当に後継者を急いで決める必要があるのだろうか。どう見ても四十代にもならない風貌である。特に面白いものが見れるかもしれないと楽しそうに待つ表情や雰囲気は童心すら感じられる。それでも王者の威厳や風格というものが損なわれないのが驚きだ。


 リベットが現れたことによって、場の雰囲気は一気に緊張感が増した。元老院の議員達も居住まいを正しているし、候補者達も何処か表情が硬くなったような気がした。


 オーウェンだけは太々しい態度を変えなかったが、他のエルフ達の態度を見て、ストラスやエライザ、シェンリーも同様に緊張しているようだった。


「グレン学長はあまり変わりませんね」


 そう呟きつつグレンを見たが、髭を片手で撫でながらリベットを眺めるその姿からは何を考えているのか読み取ることは出来なかった。


「……それでは、まずは私から魔術をお見せしよう。風の魔術を行使する故、こちらへ並んでもらいたい」


 と、エドラが先陣を切ると口にして奥の扉へと移動した。扉を潜り抜けて屋外に出ると、建物の外側壁面に並ぶようにして元老院の議員が並んでおり、その前にラングス達候補者が並んでいる。なんとなく、それに続くような形で私たちも並び、陛下は扉の前に立った。


「陛下。どうぞ、お座りください」


「うむ」


 そんな声に振り返ると、近衛兵らしきエルフが木製の椅子を運んできて置き、リベットは鷹揚に返事をしてそこに座る。


 観客が並び揃ったところで、エドラは大空を見渡すように視線を移す。大空はどこまでも広がっていて、遮蔽物も空を舞うドラゴンといった生物の姿も見当たらない。


 魔術の使用に問題が無いとエドラも判断したのか、片手を前に出して口を開いた。


 やはりエルフの言語は理解できないが、どこかフランス語のように柔らかく流れるような響きである。エドラは五小節、エルフでいうところの五セルという長い詠唱を行いながら、魔力を手元に集めて操作し始めた。


 ここで、やはり僅かな違和感を感じた。ソラレの時もそうだったのだが、風を集めれば周囲の風が引き寄せられる。大気の流れが無ければ風は起きないのだ。


 しかし、周囲に何も影響を与えずに、エドラの手元には小さな竜巻のような高密度のつむじ風が巻き起こっていた。そもそも、砂嵐や水分を巻き込んだ竜巻のように何かが混じっていないと風は可視化されないはずだ。


 それが、エドラの手元には薄っすらと光すら放つつむじ風が形成されている。エルフの魔術の不可思議な部分を注視していると、魔術の準備が完了したエドラが魔術名を口にした。


 なんと言ったかは分からないが、明らかに詠唱とは違う空気を感じたので魔術名なのだろう。


 その証拠に、エドラが一言発した直後、エドラの手元にあったつむじ風は空へと飛んで行った。まるで風を食べて成長しているかのようにみるみる間に大きくなっていき、空に浮かぶ雲を巻き込んで消し飛ばすほどの大きさに成長した。まさに竜巻だ。本来なら地上へ足を延ばすところだろうが、その竜巻は一定の大きさで成長を止めて消えた。


 その規模の大きい風の魔術に、ストラスが目を輝かせる。


「凄い……」


 その呟きが聞こえたのか、何人かの議員達が口の端を上げた。得意げにこちらを振り返り、ヘドニズが口を開く。


「まさか、エルフの魔術を初めて見たのか?」


 ヘドニズがそう口にすると、魔術を使ったエドラが振り返ってこちらに歩いてきた。


「そんなことで得意げになるんじゃない。既に、我らでは使えない魔術を見せられた後なのだからな」


 エドラが溜め息混じりにそう窘めると、ヘドニズは不満そうにしながらも口を噤んだ。ヘドニズはどうにもエルフが一番優れていると認めさせたいらしい。


 ここでエドラの魔術に対抗して何か披露しても良いが、そんな子供みたいなことをしたいわけではない。私は一つずつエルフの魔術を分析して研究したいのだ。


「ありがとうございます。エルフの風の魔術、確かに見させていただきました。それでは、次は何の魔術を?」


 エドラに一礼してそう尋ねると、エドラを筆頭に元老院の面々が目を瞬かせた。そして、顔を引き攣らせながら一人のエルフが口を開く。


「……先ほどの魔術を見ても動じることが無いとは、流石に雷の魔術を復活させた魔術師なだけはあるな。それでは、次は土の魔術をお見せしよう」


 エルフはそう言うと、先導するように場所を前を歩いて移動した。先ほど教えてもらった、谷がある方向の出入り口だ。実際にテラス部分まで出てみると、底が見えないほど深く、巨大な谷だった。確かに遥か下方から川の流れる音が聞こえる。恐らく滝などもあるのだろう。落差のある場所を大量の水が落ちる音も混じっている。


 正面にある切り立った山肌との距離は相当なものだが、それだけ広くても谷底が暗くなって見えないとは、どれだけ高いというのか。山の麓にあるエルフの王国からそれほどの高さを登ってきたとは思えないので、地割れか何かで形成された谷なのかもしれない。


 そんなことを考えながら谷底を見下ろしていると、先ほどのエルフが前に出て皆を振り返った。


「土の魔術は大地の精霊に呼びかけ、その力を借り受けて何かを形成するというものが主だろう。一流の土の魔術師は瞬く間に建物を建造することすら可能である。故に、今回はどれだけ大きな物を素早く作り上げられるかを披露しよう」


 丁寧にそう説明してから、男は詠唱を開始した。さきほどの風の魔術とどこか似ている詠唱だ。決まった文章があり、一部の単語がちょっとずつ変化しているのかもしれない。


 男は、精霊に呼びかける、という言葉を用いた。それにはただ単純に信仰による祈りなどの意味が含まれているだけなのかもしれないが、もしかしたら本当に外部の力を借りて魔術を行使しているのかもしれない。


 もしそうならば、詠唱が同じで同等の祈りを持って魔術を行使した時、エルフは皆同じような範囲と規模の魔術を扱うことが出来るということなのか。それならば、魔力の量や緻密な操作、魔術への理解度からくる想像力といった様々な要因が必要な人間の魔術よりも、ずっと優れているということが言えるかもしれない。


 また、外部の力を自由に扱うことが出来るならば、これまで手が出せなかった魔術だけでなく、考えも及ばないような奇想天外な魔術まで実現可能となるだろう。


 まさに、科学では説明がつかない超常的な力、魔法という代物である。


 エルフの魔術について考察をしていると、詠唱が完了したらしい。男は片手を地面に添えて、魔術名らしき単語を口にした。


 直後、地鳴りと微細な振動が体を揺らした。


「……これは……」


 エライザが驚愕したように何か呟く。


 皆が谷の方を見守る中、テラスの先が形を変えて奥へ奥へと床を伸ばしたような気がしたからだ。まるで生き物のように伸びていく足場。目を凝らして確認すれば、それがテラスの下から伸びた土であることが分かった。


「……山の一部を使っているのか」


 同じくらいに理解したのか、ストラスがそんなことを口にする。


 つまり、テラス部分の下を支えるようにあったであろう壁面が盛り上がり、テラス部分の面積を延長するように先へ先へと伸びているのだ。


 その土で延長されたテラスは、ゆっくりとだが少しずつ伸びていき、やがては広く広大な谷に一本の大きな道を作り上げてしまった。


 谷の対岸にまで伸びて、橋を作り上げたのだ。


「……すごい」


 エライザが感動したようにそう呟く。


 その呟きが聞こえたのかは分からないが、土の魔術を披露したエルフは立ち上がり、こちらを振り向いた。


「この土の橋はそれなりの強度を備えている。大型の馬車などだけでなく、中型の魔獣であっても通行可能だ。ただし、土の精霊の力は徐々に失われていく為、少しずつ脆くなっていく。やがて、土の橋の真ん中ほどから崩れていき、数週間で完全に崩壊するだろう。通常の建造物を建てる場合はこの魔術で形を作り、内側に木の魔術で骨を形成する。そして、全面を白石を材料にした粘土で固めていき、完成となる」


 と、解説を受けた。


 どうやら、残存魔力の影響を受けるようだ。いや、魔力ではなく精霊の力が失われていくのか。どちらにしても、土の魔術だけで永続的な効果を見込めるわけではないということだろう。


 気になるのは、土を用いて橋を作ったから、自然結合が出来ずに徐々に崩れてしまうのではないか、という点である。これが最初から石や建材になり得る素材で橋を作っていれば、そのまま完成となるのではないだろうか。


 また、他にも気になる点はあった。


 白石を材料にした粘土、という言葉である。つまり、エルフの真っ白な城壁や町並み、王城はその白石を材料にした粘土を塗布した結果、ということだろう。


 これを固めてしまえば強度が維持されると受け取れる内容だったが、それはつまり、白石を材料にした粘土とは、古代コンクリートに分類されるものではないだろうか。ローマンコンクリートともいう、原初のコンクリート。それがエルフの国での主流となる建材なのかもしれない。






8月1日に『異世界転移して教師になったが、魔女と恐れられている件』5巻発売です!

宜しくお願いします・:*+.\(( °ω° ))/.:+

https://www.es-luna.jp/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こういう科学的なロジックではない、概念的でファジーな感じのある魔法もイイですよね。ハリポタとかも科学や物理とはかけ離れた感じの魔法ですし。 まぁ詠唱が長いとか適性(?)が必要だとか色々と制…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ