文化祭後半12 アオイの発表2
「……今の魔術は、雷の魔術の中でも破壊力に優れたものです。クラス分けするなら特級になるでしょうか。この魔術の良いところは、風よりも速い速度で飛来すること。また、生物や金属を貫通してダメージを与える為、どんな魔獣もほぼ一撃で倒すことができることでしょうか。ただ、きちんと指向性を与えなかった場合、電気を通しやすい場所へ無差別に降り注いでしまいます。これらを考慮して、この魔術を使おうと思う方は誰もいない海か砂漠で練習をしてくださいね」
そんな説明をするが、会場に集まった人々はまだ腰を抜かしたままの人が多くいた。仕方なく、次の魔術を準備する。丁度良いことに、空も少しずつ暗くなってきていた。
「それでは、次の魔術を発表します。今回も少し大きな音がしますが、危険はありませんのでご安心ください」
簡単に前置きしてから、軽く両手の指先を曲げ伸ばして、手を胸の前に持ってくる。大きく指を広げて、準備は完了だ。
魔力を指先に集中し、手のひらの前に魔力の流れを作り出した。そして、もう片方の手を使い、腰に下げておいた革の袋から小さな鉱石を幾つか取り出した。ザラメのような大きさだ。その鉱石を、魔力の流れの中にそっと放り込む。
同じ色の鉱石が五つ、手のひらの前でクルクルと踊るように舞った。それを見ている人々の目も、鉱石を追ってぐるぐると回る。
十分に魔力が練られたのを確認して、手のひらを空へ向けながら腕を挙げた。風を巻き込んで吸い上げながら、鉱石を内包した魔力の塊が空へと打ち上げられる。
十分な高度に達した。それを確認してから、口を開く。
「……魔力花火」
魔術名を口にした瞬間、空中でお腹に響くような爆発音が鳴り響いた。そして、巨大な黄金の花火が暗くなってきた空を明るく彩った。
空高くとはいえ、巨大な花火を初めてみた人々は目を丸くして驚いている。
以前見た、一尺玉の花火と同サイズのものを目指して開発したのだが、中々良く出来たように思う。空中で破裂した鉱石は練り上げた魔力によって粉々になり、炎色反応を起こしながら燃え広がる。火と風の魔術によってどこまで広範囲に広げるかが問題だったが、中心で一度爆発させることで解決した。
よく考えたら普通の花火と同じ考え方だったのだが、思いついた時は凄い発明だと喜んでしまった。小さな黒歴史である。
「わぁっ!」
「綺麗!」
子供の騒ぐ声がして、視線を地上に戻した。集まった人々は大半が目を輝かせて空を見上げている。どうやら喜んでもらえたようだ。そっと微笑みながら、再び魔力花火の準備をした。
魔力を練り上げて、鉱石を選び、空へと打ち上げる。
激しい爆発音が暗くなった空で響き渡り、今度は夜空を真っ青に染めた。美しい青の花火は、更に観客の歓声を大きくしてくれる。
「どんどんいきますよ」
楽しくなってきた。そう思い、私は次の段階の準備をした。
目の前に石の台を作り、その上に鉱石を幾つも並べていく。両手を前にして、台のすぐ上で魔力を練り上げていった。そして、鉱石を軽く拾い上げて空へと打ち上げる。
右手、左手と腕を挙げて、口を開く。
「魔力花火」
魔術名を口にすると、空で連続して爆発音が鳴り響いた。二つの巨大な花火が空を黄金に染め上げる。更に、右手、左手と順番に魔術を行使していった。
空に連続して色とりどりの花火が展開していく。赤、青、黄だけでなく、緑や紫の花火も夜空に花開いた。その頃には見学で集まっていた人々も音に馴れてきたのか、素直に大きな歓声を上げて喜んでくれていた。
誰も彼もが空を見上げて花火を指差して笑ったりしている。その光景を見るだけで幸せな気分になるが、そろそろ花火も終わりである。
最後は、全ての残った鉱石を使って巨大な花火を作りあげるとしよう。
「……それでは、最後の魔術です」
誰も聞こえていないだろうが、そう告げて最後の魔術を準備した。二十余りの鉱石を使い、最後は両手で大量の魔力を込めた。
勢いよく空に打ち上げて、鉱石も出来るだけ散り散りになるように意識する。
物凄い速度で鉱石が打ち上げられたのを見て、これまでと雰囲気が違うと感じたのだろうか。会場に集まった人々も静かに空を見上げて魔術の発動を待った。
そして、最後の花火が夜空で花開く。三尺玉、四尺玉相当の大きな黄金の花火が空一面に広がり、すぐに周囲に散った様々な鉱石が色とりどりの小さな花火を作り出す。
日本で見ていた花火ではよくあるパターンのものだったが、魔術でそれを再現しようとするととても大変だった。緻密な魔力コントロールと、見えないほどの高度で舞い散った鉱石の破片の位置調整。
更に、大雑把にやって鉱石の破片が地上に降り注くと大変なことになる為、綺麗に粉末になるように気を遣いながら鉱石を砕かないといけない。
だが、それら全てが正確に行えたら、ご覧の出来である。空を彩った極大花火と小さな花火の数々。その光景はまさに一瞬だけの芸術と言えた。
火の粉が消えていき、空が暗い夜に戻っていく。その様子を名残惜しそうに眺める人々を見回して、私は深く礼をした。
「……これで、フィディック学院の文化祭、最後の発表を終了といたします。ご覧いただき、ありがとうございました」
私がそう告げて顔を上げると、誰かが真っ先に大きな音を立てて拍手をしてくれた。それに釣られて、人々の目が空から地上へと戻る。
「素晴らしい発表であった!」
良く通る声でミドルトンが感想を述べると、一気に拍手と歓声が会場中に広がった。大歓声と万雷の拍手を全身に受けて、私はもう一度深く、礼をしたのだった。
3巻絶賛発売中です!
是非チェックしてみて下さい!
https://www.es-luna.jp/bookdetail/12kyoushimajo3_luna.php




