文化祭後半5 グランサンズ王
ガイヤの情報が気になったので、急ぎで様子を見に行くことにしてみる。どうやら、グランサンズ王は正門近くの会場にいるらしい。
飛翔魔術で一分も掛からずに現場を見に行くと、そこには地上に降りる場所に困るほどの人だかりが出来ていた。会場には何かステージのようなものが設けられており、その上には十人ばかりのドワーフ達が並んで何かしている。
仕方ないので空から様子を見ていると、なんとグランサンズ王本人もステージ上に立っていることに気が付いた。
「さぁさぁ! 次はこいつだ! 見てみな、この見事な刃! 更に、細やかな装飾が施された柄と鞘! 飾っておくだけでも十分に価値があるのが分かるだろう! だが、こいつの真価はそれじゃない!」
一人のドワーフがそう告げると、もう一人のドワーフが頷いて前に出てきた。
「一流のドワーフの鍛冶師になるには火の魔術が必須だ! 俺の魔術は鉄だろうがミスリルだろうが水みてぇに溶かす炉の種火を灯すことが出来る!」
そんな前置きして、ドワーフは長々とした詠唱の後に炎の球を生み出した。大した大きさではないが、見ている者たちは歓声を上げている。相当な熱量であると感じているのだろうか。
しかし、先ほどの話を聞いている限り、凄い炉はあれど魔術が凄いわけではなさそうだった。
半信半疑で見ていると、炎を生み出したドワーフが剣を手にしたドワーフに振り返った。
「今からあいつを攻撃する! 下手をすれば炎が剣もあいつも溶かしちまうかもしれねぇ! 皆、気を抜かずに見てやってくれよ!」
と、危険なことをするんだぞ、という宣言がされる。観客は素直に緊張し、炎をぶつけられるかもしれない相手の安否を心配していた。
そして、炎の球は放たれる。
「いくぞぉおお!」
怒鳴り声と共に、炎の球は男の持つ剣に向かって撃ちだされた。赤い光を伴って、炎は剣を持つドワーフに迫る。
「ぬん!」
男らしい気勢を発し、ドワーフは剣を上から下に向けて勢いよく振り下ろした。すると、炎の球は真っ二つに切り裂かれて散り散りになって消える。
観客はそれを見て大きな歓声を上げた。
「……へぇ」
無意識に、私も感心してしまう。魔術を盾で防ぐというのは見たことがあるが、剣で切り裂くというのは初めてである。自分で同じことを再現することも出来るが、私が行う内容とは意味合いが違いそうだ。
少し、あの剣に興味が湧いた。
「……って、いけない。今はそれどころじゃないですね」
思わず新しい道具に心を奪われかけてしまった。自分で自分を律しつつ、私はどうやってこの実演販売を止めるか考えることにする。
「グランサンズ王も、きちんと許可をもらって販売しているのなら文句を言うわけにもいきませんし……ん?」
どうしたものかと悩んでいると、そのグランサンズ王が前に出てきた。
「グランサンズ王! こちらの剣も、相当に好評なようです! どうか、ドワーフの力を知らしめる為にも、売買することをお許しください!」
わざとらしく、魔術を放ったドワーフが皆の前でグランサンズ王に陳情した。すると、グランサンズ王も困った困ったと表情で語る。
「……ドワーフの鍛冶師が優れていると知ってもらうのは良いことだ。しかし、この剣は小国ならば国宝として扱われても良いほどの力を有しておる。簡単に売るわけにもいくまい」
と、剣の売買を渋りだした。それには観客達も不満そうな声を出す。この世界に来て、王侯貴族を相手にそんな態度を示す者は中々いなかったが、どうやらこれまでの実演販売で相当砕けた雰囲気を作ってきたらしい。
皆が不満そうな声を出したのを確認してから、ドワーフの一人が床に膝を突いて頭を下げる。
「陛下! 民の期待に応えることが出来るのは名君の証! ここは、陛下の広い御心を皆に知ってもらいましょうぞ!」
「む、むむむ……」
臣下の必死の陳情に、グランサンズ王が腕を組んで悩む。すると、観客達が目を輝かせて「陛下!」と口々に叫んだ。
「わ、分かった分かった! 販売を認めよう!」
ついに折れた。そんな態度でグランサンズ王が剣の販売を認める。それに合わせてドワーフ達も観客達も大きな歓声を上げた。
「では、陛下! 大金貨十枚でよろしいですな!」
「な、なに!? そんな金額で……あぁ、もう良い! 好きにするが良い!」
畳みかけるようにドワーフの一人が値段を確認すると、グランサンズ王は慌てたような姿を見せたが、すぐにそっぽを向いて了承する。途端、観客の一人が手を挙げて「買った!」と叫んだ。その事実に観客達が驚愕した。
大金貨といえば、商人の年収も優に超える大金である。手を挙げた者は貴族か大きな商会の長といった富豪なのか。そんな憶測が方々から上がる。
その時、会場の別の場所で手が幾つか上がった。
「か、買うぞ!」
「私だ! 私が買おう!」
慌てた様子で幾つか注文の声が上がる。その内一人は明らかに貴族らしき男だった。何人かが同時に名乗りを上げた状況を見て、魔術を行使したドワーフはそっと笑みを浮かべた。
「なんと、こんなに希望者が! しかし、この剣は最強の剣士が使えば切れぬものは無いという代物……数はこの一振りしかない。どうしたものか……」
天を仰いで悩むドワーフに、貴族らしき男は片手を挙げた。
「倍だ! 倍の値段で買う!」
その言葉に、他の購入希望者も口を噤んでしまう。大金貨二十枚。信じられない大金である。
だが、私は金額よりもその性能に興味が湧いた。
「ちょっと失礼いたします」
声を掛けてから、ステージの上に降り立つ。皆の視線がこちらに集まるのを感じながら、グランサンズ王に頭を下げた。
「その剣が、どんなものでも切り裂くと聞きました。是非、それを見てみたいと……」
私がそう言って顔を上げると、引き攣った顔のグランサンズ王と目が合った。
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