文化祭13 二日目
Web版と書籍版は内容が変更されています。
その違いも是非お楽しみくださいね!
気が付けば、昨晩は二時間以上にわたって各国の魔術や教育事情を語り合っていた。領土問題や輸出入等についても多く話題にのぼっていたが、そちらも魔術の発展に大きな影響を与えているようなので、しっかり聞いておいた。
「……良い天気ですね」
朝日に目を細めながら、文化祭二日目である今日のことを考える。午前中に二人、私が助言を送った教員の発表があり、午後四時頃にはスペイサイドの発表がある。午後一番で生徒の発表もある。最終チェックのことを考えると、一時間前には発表会場に着いておきたいところだ。
「あ、そういえば、生徒の皆さんから誘われていたのでした。一緒に文化祭を回りましょう」
重要な約束を思い出して、私は急ぎ寝癖の確認に向かう。
爆発していた。
規模は中くらいだ。これならば、五分以内に修正可能だろう。
「急ぎましょう。水球」
素早く魔術を発動。顔の前に出した両手の上に、バスケットボールほどのサイズの水の球が現れる。
本来なら、頭に載せて髪を濡らすのだが、今回は時間がないのでそのまま顔も洗っておこう。
そう決めて、私は目と口を閉じて水球を顔に飛ばす。顔だけプールに突っ込んだような感覚を味わいながら、軽く水流を生み出した。顔の周りで水がぐるぐると流れていき、汚れを洗い流していく。水は純水に近い為、埃や小さな汚れなどは全て吸い取るように回収してくれる。
洗濯機みたいだな、などと思いながら水球を小さくしていき、次に風を弱めに吹かせる。最近発見したテクニックだが、天井に向けて風を吹かせると、水も滴らずに髪の毛も真っすぐに乾いてくれる。更に、時短としてその間に手作りの化粧水を顔に軽く塗ってみる。
エライザに提供されたのだが、確かに塗るとお肌がツルツルになって気持ちが良いのだ。
こうして、ものの五分で髪、顔は整った。後は着替えるだけである。素早く寝間着を脱いで畳むと、街で購入したばかりの肌触りの良い下着、アンダーシャツ、スカートを着用していく。上着はいつものものだが、それ以外は全て新しいものに変えてみた。
気分も一新されたようで少し楽しい気持ちになる。
後は、グレノラの作る朝食を食べて出発の準備は完了だ。軽い足取りで一階の食堂へ向かうと、私以外に二人の教員が朝食をとっていた。厨房からはグレノラが顔をにょきっと出し、私を発見して歩いてくる。
「おはよう。何を食べるんだい」
「おはようございます。パンを焼いていただけると嬉しいです。グレノラさんの手作りジャムはありますか?」
「あるよ。それなら、卵も焼いてやるよ。飲み物は果実水で良いね」
「はい、ありがとうございます」
馴れたやり取りをして、朝食が決まった。すっかりグレノラに胃袋を掴まれてしまっている為、グレノラが口にした料理の説明だけで味を想像してお腹が空いてしまう。
壁際の席に座って窓の外を眺めると、すでに学院内は大勢の人で賑わっていた。
「はいよ」
料理を持ってきたグレノラに礼を言いつつ、窓の外について尋ねる。
「皆さん、随分と早いですね。早朝から出店があるなら、お祭り気分で散策するのも楽しいですからね」
そう言って焼きたてのパンに噛り付く。香ばしい香りとグレノラ特製ジャムの甘酸っぱい味が口の中に広がり、幸せな気持ちになった。
一方、グレノラは呆れたような表情で私を見て首を傾けている。
「……もう一回目の発表はあったみたいだよ。皆、準備や会場の状況を見に一時間以上前には朝食食べて出ていったよ。アンタみたいにのんびり朝食食べているのは少ないね」
と、グレノラに指摘されて口を噤む。これは余計なことを言うべきではないだろう。そう思い、朝食に専念することにする。しっかり焼いた目玉焼きも美味しい。
「意外とのんびり屋さんだよね、アオイは」
「そうですか? これでも忙しいのですが」
「そうは見えないよ」
「なんと」
グレノラと朝の会話をしつつ、朝食を少し早めに食べて立ち上がる。これは印象の回復を図らなければならない。
「今日も明日も忙しいのです。急いでアイルさん達を探さないと」
「ああ、アイル達なら外で待ってたよ。一時間くらい前にね」
「……なんと」
印象の回復はもう非常に厳しそうだ。愕然としていると、グレノラは私の朝食の為に準備した配膳を片手に持ち、外を指さした。
「ほら、行きな。寝坊してすみませんでしたって謝るんだよ」
「……面目ありません。行ってきます」
素直に謝罪して、頭を下げた。グレノラは苦笑しながら頷く。
「はいはい。そんじゃ、行っておいで」
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