文化祭12 懇親会3
簡単に魔術師になるキッカケについて教えると、皆が目を見開く。
「その魔術具があれば、魔術師になれるというのか」
「いえ、魔術具はどれでも良いのですが、一番効率が良く危険が無いというだけです。また、簡単に作ることが出来る為、やろうと思えば全ての国で同時に行うことも可能です」
思惑を込めてそう答えると、ミドルトンの笑顔が固まった。グレンは新しい情報に目を輝かせているが、後でまた頭を悩ませることだろう。
なにせ、ヴァーテッド王国のみで実証するとしておけば大きなアドバンテージを作り出すことが出来たのだ。しかし、せっかく各国の重鎮が一堂に会しているのだから、世界の魔術水準を向上する良い機会である。
「……その魔術具とは、どれほどの期間で作成できるのですか? また、その費用については?」
アイザックが真剣な顔で質問をしてくる。まずはどの国の人も疑ってくるかと思ったが、意外にも信用してくれているのだろうか。
「魔術具自体は材料さえあれば一日、長くて二日で作成可能でしょう。また、とある商会にお手伝いしてもらう予定ですので、いずれは安価で購入できるようになります……最初は疑われると思っていたので、意外な反応ですね」
素直に心情を話すと、アイザックは苦笑して頷いた。
「一切情報も無く今の話を聞いていたら、私も疑ってしまっていたかもしれません。しかし、毎週のようにコートやアイルから手紙で聞いていましたからね。二人の目から見てですが、アオイ先生は間違いなく世界で一番の大魔術師であると……今回の情報に多少の差異があったところで、我が国は一番にアオイ殿の魔術具を取り入れさせてもらいます。むしろ、他の国の方がアオイ殿の言葉を疑ってその魔術具の導入を遅らせることを祈るばかりですよ」
笑いながら、アイザックはそんなことを言った。
「それは、ありがとうございます」
思わず微笑み、返事をする。
二人で笑い合っていると、すぐにラムゼイが口を開く。
「我が国も導入するぞ。とはいえ、その魔術具をもらったところで使いきれなければ意味がない。やり方を教示してもらう為にも、アオイには一度ブッシュミルズ皇国へ来てもらいたい。今朝がたこそ聞いたが、メイプルリーフには足を運んだのだろう? ならば、次はブッシュミルズで良いな」
腕を組み、ラムゼイが険しい顔でそんなことを言った。こちらも意外である。フェルターではないが、強者の言葉しか信じないみたいなイメージを勝手に持っていたが、例の決闘もしていないのにそんなことを言うとは思わなかった。
そう思って見ていると、ラムゼイは不敵な笑みを浮かべた。
「もちろん、決闘の話は別だ。個人的にアオイの戦い方や実力には大いに興味がある。とはいえ、その魔術具があれば魔術師の数が増えるのだろう? ならば、確実に国力を高めることになる。そんな貴重な機会を見逃すなど考えられん」
ラムゼイはそう言って皿に載った肉を口に運んだ。豪快に食事を続けるラムゼイを見て、グランツも目を輝かせてこちらを見た。
「確かに、魔術師が増えるということはそれだけ炉を増やせるということ! グランサンズでもすぐに購入をしたいところだな。とはいえ、まずはその魔術具を見てからにしたいが、ロレット殿はどう思う?」
グランツが振り向いて聞くと、ロレットは難しい表情で背もたれに体を預けた。数秒もの間黙考し、薄く目を開けて私に視線を向ける。
「……悩むところだな。各国が揃ってその魔術具を導入するとなると、もし先ほどの通りの効果が表れた場合は、大きく差を付けられることとなるだろう。それは時間が空けば空くほど大きな傷となり、我が国を苦しめることとなる。しかし、知っての通り我がカーヴァン王国は少々選民思想が強くてな。魔術師とは高貴な血筋の証明であるという常識が根強い……もし、一般の民草から魔術師が現れ、あまつさえ上級貴族や王族よりも優秀な魔術師が現れた場合、国は荒れるだろう。市民、特に下級市民は王侯貴族への不信感を持ち、選民意識が高い貴族はその魔術具を否定する為に躍起になるのは間違いない」
そう言って、ロレットは深く溜め息を吐いた。
「……そして、困ったことに我が兄はその選民思想が特に強いのだ。多少の不利益は承知の上で、各国が魔術具を使用して結果を出した頃に進言するのが最も障害少なく導入できるだろう。まぁ、グランツ王が言う通り、まずは私が直接目にして、出来る限りの情報を得ておいた方が良いのだろうが……」
それだけ言うと、ロレットは酒を口に運ぶ。こちらも意外なことに、本人的には前向きに考えているといった趣旨の発言をした。
ならば、ロレットの言う通りにして先に各国で魔術師の総数を増やし、更に教育カリキュラムの見直しを実施すべきだろう。
曖昧だった魔術水準の向上計画が少しずつ明確になってきていると感じられて、私は気分よく美味しい料理を堪能することができたのだった。
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