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文化祭11 懇親会2

「現状、我が国ではフィディック学院のやり方を模倣して実力での昇級と最終発表の出来による卒業制度を採用しているが、どうにも魔術師全体の実力は向上しない。貴国らはどのようにされているだろうか」


「魔術師の実力という意味では、突出した個人が一部いる。しかし、それらは才能によるものが大きいだろう。カーヴァン王国は独自の魔術も多いが、それもごくわずかな才能豊かな者による研究結果ではないか?」


「そうだな。確かに、毎年新たな魔術を作る者は現れるが、決まった十名ほどの者たちによるものだ」


「わしの国は……火の魔術師は炉に着火出来れば良し。土の魔術師は炉壁と炉底を補修出来れば良し。風の魔術師は炉に風を送れれば良し、という程度であるし……新しい魔術の研究などしておっただろうか」


 と、各国の魔術研究の現状が赤裸々に語られる。それには私も大いに興味を持って話を聞けた。ある意味、懇親会に出て良かったかもしれない。それぞれの国で解決すべき問題点が浮き彫りになった気がする。


 魔術は才能次第という常識が強く、ドワーフの国にいたってはそもそも鍛冶仕事に繋がるかどうかが重要という意識しかないほどだ。


 これは、各国に行く前にある程度対策を練っておいた方が良さそうである。


 そう思って考え込んでいると、アイザックがこちらを見た。


「やはり、各国それぞれが魔術の研究で悩んでいますね。新しい魔術を生み出すというのは暗闇の中を手探りで探るようなもの。何か、良い研究の方法などがあればよいのですが」


 アイザックがそう口にすると、皆の目が私に向いた。グレンの方を見ると、グレンも似たような表情で私を見ている。


 まだ考えている最中だったのだが、何も言わないわけにはいかない空気である。


 仕方なく、私は現状での考えを大まかに伝えることにした。


「今、皆さんのお話を聞いている限り、魔術への認識に違いがあるように感じました。常識についてもそうですね。その考えを転換するだけで、多少は変化をするかもしれません」


 答えると、ミドルトンが片方の眉を上げて興味深そうにこちらを覗き込んでくる。


「ほう? 魔術の認識、常識か。いったい、どのような違いがあるというのか。考えを変えろというのも気になるが」


 ミドルトンがそう口にして、ロレットも深く頷いた。


「我々の考え方がそもそも間違っているかのような言い方だが?」


 少しムッとした言い方でロレットが聞き返してくる。それに私は首肯を返して回答した。


「まず、魔術師になるというだけならば全ての者がなれます。ただ、宮廷魔術師やグレン学長のような卓越した技量を得ることが出来るかというと分かりませんが」


 そう告げると、皆の目が丸くなった。そして、ロレットが眉根を寄せて睨むように見てくる。


「……他国でもそうだろうが、カーヴァン王国でも魔術師とは才能がなければなれないものとされている。事実、魔術師になれない者は生涯、初級の魔術すら発動することは出来ないではないか」


 ロレットの発言の内容はともかく、言葉の端々に何故か敵意を感じる。


 何か悪いことを言っただろうか。


 そう思った時、あることを思い出した。


「あぁ。確か、カーヴァン王国のヴィック伯爵という方にお会いした際、魔術は高貴な血筋の者しか使えない、といった事を言ってましたね。その方にも私の考えを伝えておきましたが、中々納得してもらえませんでしたね」


 ヴィックのことを軽く伝えると、ロレットは目を瞬かせる。


「それはそうだろう。ヴィック伯爵は長く魔術の研究をしてきた人物だ。魔術の常識という点では、間違いなく識者の一人なのだからな」


 ロレットはそう言って、こちらを見る。私はそれに頷き、されどしっかり否定の言葉を口にした。


「しかし、その常識が間違っていた場合、魔術の研究は確実に遅れます。なにせ、研究を行う前の段階での話ですから。間違った知識、常識を元に研究をしても上手くはいかないでしょう」


 はっきりと言い切ると、ロレットは面食らったような顔になったが、他の列席者を横目に見て咳払いをする。


「……随分と自信があるようだが、それが本当かどうか、確かめることは出来るのか?」


「それは勿論です。実証に関してはヴィック伯爵にも見ていただきましたし、今後は実際に魔術師が増えていく形で検証結果が出るものと思います。まずは、このウィンターバレーからですね」


 答えると、ロレットは唸りつつ口を閉じた。そして、逆にミドルトンが口の端をあげる。


「ほう! つまり、ヴァーテッド王国の魔術師の人口が増えるわけだな? どのような形で増えていくと予想している? 魔術師に素養がないと思われていた者が魔術師になれるのだから、年に一、二名であっても大きなプラスとなるだろうな」


 そんなことを言って笑うミドルトンに、私は頷いて答える。


「そうですね。今月、来月は準備期間となりますので、魔術師は何人かしか増えないでしょうが、それ以降なら毎月十人以上は魔術師が増えると思います。ただし、一ヶ月か一ヶ月半程度基礎を教えるだけなので、中級、上級の魔術を使える魔術師という点では半年後以降でないと増えないと思います」


 少し控えめに想定人数を答えた。それに、広間の面々は困惑した顔で固まったのだった。




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[気になる点] 最近立て続けに更新があり、とても楽しく読ませていただいてます。 新刊の発売に合わせてなのだろう?と、思うのですが、後で又1か月や2か月更新ストップに耐えられそうに無いです。 [一言] …
2022/09/09 18:59 退会済み
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