文化祭5 エライザの発表
ようやくエライザの発表がある西の広場に辿りつく。広場の周囲にはまた店が立ち並んでおり、すでに多くの人で賑わっていた。上級教員は午前の最後と午後の最後に中央広場にて発表があり、一般教員や生徒はそれ以外の時間にて四方と中央広場にて発表を行う。
ちなみに、最終日のラストは通常ならばグレンが発表を行うのだが、今回は何故か私になっていた。
恐らく、新任の上級教員を紹介する為にそういう形にしたのだろう。とりあえず、そのお陰で最後の最後まで文化祭を見て回れるようになったことは有り難い。
そんなことを思いながら西の広場の様子を窺ってみると、様々な店が出ていることに気がつく。そして、その店員にも見覚えがあった。
「おぉ!? アオイの姐さん!?」
「なんだって!?」
「姐さん、見学ですかい!?」
何故か、ネヴィス一家や白き灰の構成員達が肉を焼いたり雑貨を売ったりしている。厳つい顔の男たちが私を見て名を呼び、騒ぎ出す。
周りの人達が何事かと私に視線を向け出したので、屋台の方に近づいていき、そっと声をかける。
「人がたくさんいらっしゃいますので、お静かに。ところで、貴方たちは何故お店を?」
質問すると、男たちは広場とそこに集まる人々を指差す。
「文化祭は稼ぎ時なんでさぁ」
「とはいえ、今年は微妙ですがね」
その言葉に、私は首を傾げた。
「とても健全な商売で安心しました。しかし、こんなに人がいるのに微妙なのですか?」
売上はとても良さそうだが。そう思って尋ねたのだが、どうやら違うらしい。
「いえね、本来なら学院内の場所をさっさと押さえちまったら、色んな商会がその場所を金出して買うんでさぁ。特に他の国から来た商会は良い宣伝になるんで高値を出しやすからね。まとまった金になるんですが、今年は渋いですねぇ」
「そうそう。ケチな商会ばっかでさぁ。なんで、そんならウチらで商売した方が儲かるかって話になりやしてね」
「一日譲らなけりゃ商会連中も渋々金払う気になるかもしれませんからね」
と、男達が笑いながら事情を説明した。場所を先取りして金を取るつもりが、例年通りの料金では買い手がつかなかったということのようだ。
各商会が揃って出店を控えているというのは少しおかしい。何か理由がありそうだが、それを調査するのも私の役目ではないだろう。
「真っ当な商売の方が良いと思います。このまま売上が上がると良いですね」
そう告げると、男達は苦笑しながら「へい」と返事をした。流石にそのまま立ち去るのは気兼ねがしたので、各店で商品を一つずつ購入しておく。
広場を横切り、発表の準備をしているエライザの下へ向かった。端っこの方で地面に何かしているエライザの後姿に近づき、声をかける。
「エライザさん、準備はどうですか?」
「は、はい!?」
声を掛けると勢いよく振り返り、私を見てホッとしたような表情になる。
「アオイさんでしたか。もう時間かと思って焦りました」
眉をハの字にして「えへへ」と子供のように笑うエライザに微笑みつつ、時間を確認する。
「もう後数分のようですが」
「え、もうそんな時間!?」
時間を告げると、エライザは慌てて立ち上がった。周りを見回すと、開始を待つギャラリーも集まっている。中には明らかに王侯貴族であろう出で立ちの者もおり、エライザは一気に緊張感を高めてしまった。
「も、物凄く緊張します……去年も、色々失敗してしまいましたし、今年は大丈夫でしょうか……」
不安そうにそんなことを言うエライザ。それに軽く頷き、背中に手を当てた。
「大丈夫ですよ。もし何かあったら陰ながらお手伝いいたします。肩の力を抜いて発表に挑んでください」
元気付けてみるがエライザはまだまだ不安そうである。魔術師としての実力は確かだが、どうも自信が足りないようだ。自信が足りないから肩に力が入り、しなくても良いミスをしてしまう印象がある。
「どうしても不安でしたら、私が助手として一緒に発表しましょうか?」
そう尋ねると、エライザは首を左右に大きく振った。
「……いいえ、一人でやります! 見ていてください!」
「分かりました。それでは、そこで見てますね。頑張ってください」
エライザは自ら覚悟を決めて一人でやると言う。それに頷いて応援の言葉を口にする。
と、エライザはふと私の手にある物に気が付き、首を傾げた。
「アオイさん。何ですか、それ?」
「これですか?」
エライザの質問に自分の持ち物を確認する。カラフルな布の鞄に、鳥の羽根が取り付けられた派手な横笛。そして焼きあがったばかりの肉の串。
「そこのお店で買ってきました。食べますか?」
そう言って肉の串を差し出すと、エライザはそっと受け取る。
「……アオイさんってお祭り好きなんですね。意外でした」
そう呟いて肉の串に嚙り付き、エライザはふっと息を漏らすように笑った。
「ちょっと元気が出ました。頑張ってきます」
と、エライザは楽しそうに笑ったのだった。
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