発表準備
「ありましたぜ、アオイさん!」
カリラやガイヤと話していると、店のドアが勢いよく開かれ、アーリーが中に入ってきた。
「喧しいな、アーリー。何の話だよ」
カリラがドスの効いた声で文句を言い、アーリーが片手を挙げた。
「悪い、ボス。アオイさんに頼まれごとをされたもんでね」
「頼まれごとぉ……? お前が何を頼まれるってんだ」
アーリーに疑惑の目を向けられたのを見て、苦笑交じりに口を開く。
「本当です。色ガラスと光源を作ろうと思いまして、その材料をお願いしていました」
「ほら」
フォローすると、アーリーは胸を張って笑みを浮かべる。その上機嫌な様子を呆れたように眺めて、カリラはアーリーの手を見た。
「材料って、何も持ってないじゃないか」
「店の表に置いてるんだよ。ちょっと嵩張るんでね」
カリラがチクりと何か言うと、アーリーが鼻を鳴らして返答する。そこへ、ガイヤが首を少し傾けながら口を開く。
「ガラス職人に伝手はあるか? なければ、最初だから格安で発注、納品まで面倒をみるぞ」
「本当ですか。では、よろしくお願いいたします。時間が無かったので助かりました」
そう答えると、ガイヤが片方の眉を上げた。
「納期はどれくらいだ?」
「明後日です」
私の言葉を聞き、ガイヤが目を丸くして固まった。どうしたのかと首を傾げると、すぐに首を軽く左右に振ってから頷く。
「お、おう。分かった。何とかしてみせるぜ」
「ありがとうございます」
問題はなかったらしい。私はホッと胸を撫で下してお礼を述べた。
アーリーとカリラ、ガイヤも一緒に店の外へと出る。すると、目の前には台車に載せられた大量の材料があった。自分の身長よりも多い小山のような材料を眺めて、私はアーリーを振り向く。
しかし、褒めて欲しそうな表情のアーリーを見て、多過ぎるとは言えなかった。
「……ありがとうございます。大変助かりました」
礼を口にすると、アーリーはガキ大将のような笑顔をみせる。それに思わず微笑みながら、私はガイヤに振り返った。
「それでは、ガイヤさん。色ガラスの完成を心待ちにしています。私は基本学院にいますので、何かありましたらご連絡ください」
そう告げると、ガイヤはなぜか若干引き攣った顔で頷いたのだった。
さて、色々とすることが済んで良かった。カリラ達には今度何か差し入れを持っていくとしよう。
そんなことを思いながら、私は学院へと戻った。なんとなく文化祭前の学院の雰囲気を感じようと歩き回る。
すると、少し広い中庭のような場所で何かを作るエライザの姿があった。小さな丘のような砂山だ。
それを見上げて難しい顔をするエライザに、そっと近づく。
「準備はいかがですか?」
「ひょわぁあっ!?」
普通に声を掛けたつもりだったが、エライザは文字通り飛び上がって驚いてしまった。余程集中していたのだろう。
「すみません、驚かせてしまいましたね」
謝ると、胸に手を当て慌てた様子で首を左右に振った。
「あ、い、いえいえっ! ちょ、ちょっと驚きましたが、大したことじゃないです!」
エライザはわたわたしながらそう口にして、砂山を振り返る。
「ちょっと相談しても良いですか?」
「はい、何でしょう」
返事をすると、エライザは土の魔術の詠唱を始め、魔術を発動させた。すると、砂山の中からニュッとゴーレムらしき頭が出現する。
その後、ゴーレムはゆっくりで腕を動かしながら砂山から這い出てくる。二十秒ほどだろうか。ようやく出てきたゴーレムが変わったポーズをとった。
それを二人で眺めていると、エライザが深い溜め息を吐く。
「……地味ですよね。いえ、分かってます。本当は何もないところに砂の山ができて、その中から大きなゴーレムが現れて、砂山は同時に消えてしまう、みたいなことをしたかったんですよ」
そう呟き、エライザが再び溜め息を吐いた。
どうやら、手品のような観客を驚かせる発表を目指していたようだ。観る人を楽しませようというサービス精神は素晴らしいが、それをどう実現するか悩んでいるのだろう。
「そうですね……では、魔術を二回に分けてはどうですか?」
「二回に分ける?」
エライザが可愛らしく首を傾げる。
「はい。一つは砂山を作り、中でゴーレムを作成する魔術。もう一つは砂山を地面に戻す魔術です。前者はともかく、後者は無詠唱でも行えますし、発表の見栄えも良くなると思います。手品という観点で最初から企画するなら、予め地中にゴーレムを埋めておいて、砂山を作りながら出現させ、砂山だけを地面に戻せば結果は同じですが……」
提案内容を詳しく補足すると、エライザが「おぉ!」と歓声を上げた。
「素晴らしいです! それなら、地面の下にゴーレムを何体も隠しておけば……! ありがとうございます! これで予定したよりも立派な発表が出来そうです!」
「そうですか? それなら良いですが……」
「はい! では、さっそくゴーレム作りをしますので!」
と、エライザはゴーレムの材料を取りに走っていった。砂の山の中で誰にも気づかれないようにゴーレムを作って、魔術の戦略的有用性を示す。そんな発表かと思っていたのだが、ゴーレムを仕込むという発表で良いのだろうか。
いや、エライザが満足できるならば問題はないのだが……。
私は首を傾げながら、次の場所に移動するのだった。
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