無事、解決?
「……アオイ先生?」
謁見の間を出て落ち込んでいる私を見て、シェンリーがどうしたのかと声をかけてきた。
「……公式の場で、堂々と嘘を吐いてしまいました。私は教員失格です……生徒の模範にならないといけないのに、なんてことでしょう……」
己への自責の念と罪悪感に苛まれながら呟くと、シェンリーは一瞬目を瞬かせて、すぐに噴き出すように笑った。
「笑わないでください……更に落ち込みます……」
そう抗議すると、シェンリーは私の手を両手で握る。
「アオイ先生は最高の先生ですから、落ち込まなくて大丈夫ですよ!」
花が咲いたような輝く笑顔でそう言われて、自然と気持ちが楽になるのを感じた。我ながら単純なものだ。
そう思いつつ、シェンリーの頭を撫でてお礼を言う。
「ありがとうございます。少し楽になりました。シェンリーさんこそ、最高の生徒ですよ」
そう告げると、二人の間にほんわかと温かい空気が広がった気がした。
「おほん。ところで、この後はどうするつもりか」
と、そこへ咳ばらいをしてアラバータが割り込んでくる。振り向くと、ジェムやオルド、カティも居心地悪そうに謁見の間の前の廊下に突っ立っていた。
「では、とりあえずシェンリーさんの無理な婚姻話について、もう一度議論しましょう。場所は、今度はアラバータさんのお家が良いでしょうか?」
「わ、私の家!? それは勘弁してもらえないだろうか……今度は家が全焼してしまう気がしてならん……!」
提案すると、アラバータは首を竦めて震え上がってしまう。仕方ないので、魔術学院か研究室に行こうかと考えていると、ジェムが首を左右に振って顔を上げた。
「もう、議論をするつもりもない」
「え?」
ジェムの言葉に思わず声が固くなる。話も聞いてもらえないとなると、説得は不可能だ。こうなったらシェンリーを連れて駆け落ちのように逃げるしかないか。
一瞬で頭の中をグルグルとそんな言葉が駆け巡る。
しかし、ジェムは憑き物が落ちたような顔で深く息を吐き、もう一度首を左右に振った。
「私が間違っていた。自尊心ばかりを大切にし、持論を守ろうと無様な真似をしてしまった……アオイ殿。貴女は魔導の深淵に辿りついているのだな。そして、そのことにクラウンやアウォード、バルブレアは気が付いて、その知識を吸収しようと躍起になっていた……私だけが愚かで、何も見えていなかったのだ」
後悔の念を語り、深く深く頭を下げる。謁見の間の廊下は広く、見通しが良かった。場所が場所なだけに、アラバータが焦る。
「ジェム殿。ここで頭を下げずとも……!」
慌ててアラバータが止めようとするが、今度はオルドがこちらに向かって頭を下げた。
「アオイ殿。私も謝らせていただきたい。まさか、アオイ殿がこれほどの魔術師であったとは……シェンリーの成績についても穿った見方をしてしまっていた。許してもらいたい」
オルドの言葉に、私は思わず口を開く。
「そんなことよりも、シェンリーさんの意見も聞かずに結婚の相手を決めたことも反省していただきたいと思いますが……」
チクリと抗議すると、オルドは困ったような顔になる。
「そうか……貴族としての考え方が染みついてしまっていて、爵位や地位の高い相手との縁談は良いものだと妄信してしまっていたようだ。今後は、シェンリーが望む相手を候補にするとしよう。申し訳なかった」
オルドは素直に反省の弁を述べる。どうやら、婚姻の話自体は本当に悪気はなかったようだ。当主として家や娘の未来を考えてだったのだろう。
「分かりました。納得してもらえたなら何も言うことはありません。カティさんも……」
そう言いながら視線を向けると、カティが涙目で肩を震わせていた。
「……文句なんて言えないじゃない。陛下があんなことを言ったのに、私なんかが……なによ、こんなのってあんまりじゃない! 私は、誰よりも必死に癒しの魔術を勉強して……姉さんは逃げ出したくせに、なんで一人だけ楽しそうに……!」
気持ちが溢れたことを表すようにカティの目から涙が零れ、語気が荒くなる。抑えきれない感情を言葉にするカティに、シェンリーがおずおずと手を伸ばし、背中を軽くさすった。
「カティ……その、ごめんなさい。私はどうしても癒しの魔術が使えなくて……でも、もし良かったらフィディック学院に来てみない? そうしたら、カティも一緒にアオイ先生に……」
不器用な慰めと提案だった。しかし、カティは何も言わずにシェンリーを見て、私を見た。
「私は、癒しの魔術しかまともに使えないの……これしかないのよ……」
暗い声でそう言ったカティに、私は親指を立ててみせる。
「ご安心ください。私が全ての魔術を上級にまで引き上げてみせます。ちなみに、シェンリーさんも癒しの魔術を覚えることができますよ。内臓の復元は少々難しいですが、外傷ならば間違いなく誰でも覚えることが可能です」
そう言って二人を見ると、二人は目を丸くして固まっていた。二人が姉妹であることを証明するようにそっくりな表情である。そして、二人は揃って笑い出したのだった。
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