事情聴取
「……たまたま聞こえてしまったのですが、少々気になる内容でしたね。先程口にしていた、誰かからの依頼とは……いったい誰のことでしょう?」
そう言ってカティを正面から見る。
どこか自信無さげで垂れ目がちなシェンリーと違い、鋭い目つきで意思が強そうなカティ。雰囲気は真逆だが、それ以外はとても似ている。
シェンリーによく似たカティから敵意の籠った目を向けられると、何故か悲しい気持ちになった。
「……噂のフィディック学院の上級教員ね。どうやら陛下に気に入られたようだけど、すぐに化けの皮が剥がれるわ。なにせ、あの方に目をつけられているのだからね」
「あの方、という言い方をするということは、少なくとも侯爵以上の爵位の方でしょうか? 目を付けられるようなことをした覚えはありませんので、逆恨みでしょうけど」
そう告げると、カティは呆れたような顔で眉根を寄せる。
「……信じられないほど無神経な人ね。その傲慢さが自らの命を縮めていると気がつかないとは」
カティは肩を竦めて呟き、シェンリーを一瞥した。
「他の魔術が多少出来たところで、そんなの無意味よ。メイプルリーフがメイプルリーフたる所以は世界一の癒しの魔術。他の魔術は他国に負けていても、常に世界最高の癒しの魔術で六大国の地位を確立していける。各国の王や貴族は、もし自分達が瀕死の重傷を負った時、メイプルリーフの聖人や聖女に助けを求めるしかないのだから」
我が事のように胸を張り、誇らしげにカティがメイプルリーフの癒しの魔術の素晴らしさを説く。
それに思わず首を傾げてしまう。
「メイプルリーフ聖皇国の持つ癒しの魔術の優位性は、二、三年以内に無くなるかもしれませんよ」
私がそう告げると、カティは威嚇するような笑みを浮かべた。
「何を根拠に……あの方から聞いて知ってるのよ。新しい魔術を披露して陛下に取り入ったって。魔術は基礎の積み重ねと応用が大切なのに」
得意げに魔術について語るカティの言葉に、成る程と頷いた。
「あの方とは宮廷魔術師のジェムさんでしたか。確かに、陛下の前で恥をかかせてしまったかもしれません。しかし、まさかシェンリーさんに嫌がらせをしてくるとは……」
黒幕の正体が分かり、苛立ちを覚える。直接やってこないことにも腹が立つが、逆らえないように同じメイプルリーフの貴族であるシェンリーを狙ったことが腹立たしい。
恐らく、ジェムは侯爵などの上級貴族なのだろう。そして、ローゼンスティール子爵家はその派閥に入っているのかもしれない。
ならば、シェンリーの実の親である子爵が理由を話さないのも納得である。
「……理由はわかりました。シェンリーさん、もう一度お父さんと話し合いましょう。今度は必ず説得出来ます」
シェンリーの方に振り向いてそう言うと、シェンリーは目を丸くした。一方、カティは無視されたと思ったのか、顔を赤くして怒りに震える。
「無視……? 私は聖女候補なのよ……?」
俯いて肩を震わせるカティが何か口にしていたが、あまり聞き取れなかった。
「さぁ、行きますよ。カティさん、ルイスさん。ありがとうございました」
軽く二人に礼を言って、私は戸惑うシェンリーを連れてその場を後にする。
家族間ではなく、外部からのパワハラのような問題ならば簡単だ。パワハラの元を無くしてしまえば良いだけである。
解決の糸口を見つけた私は、シェンリーの手を引き、足取り軽く来た道を戻ったのだった。
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