家庭訪問 シェンリーの父
「確認が取れました。こちらへどうぞ」
騎士が戻ってきてそう告げる。
「そうですか。では、馬車で向かわせていただきます。申し訳ありませんが、ご案内していただけると助かります」
答えると騎士は小さく頷き、ふと馬車を見て眉根を寄せた。
「それは勿論だが、その馬車には馬が……」
そう言いかけて、ハッとした顔になる。それに無言で頷き返し、私は飛翔魔術を行使した。
「この馬車に馬は必要ありません」
そう言って馬車の御者席に座ると、騎士は険しい表情で顎を引いた。
「……承知しました。申し訳ないですが、周囲が騒がないように護衛を付けさせていただきます。ご容赦を」
「分かりました。宜しくお願いいたします」
返事をすると、騎士は素早く動き出す。兵達に声をかけ、三十人ほどが馬車の周りを囲うように列を作った。そして、他の兵士達も駆け足で街に戻っていく。
聖都の騎士団を見た時も思ったが、やはりならず者達とは動きが違う。
街に到着してもテキパキと指示を出し、殆ど待つことなく街の中を進んでいった。
「う、浮いてるぞ!」
「中に誰が入ってるんだ」
「聖都から宮廷魔術師が来たのか?」
街の中では騒がしい声が響き、周りを囲む兵士が騒がないように注意したりしている。
街の中は思っていたより綺麗だった。街の大きさの割に住民が少ない気はしたが、それでも明らかに貧しい訳でもなさそうだ。
それよりも、久しぶりの帰郷の筈なのに一切馬車から顔を出さないシェンリーのことが気になった。
「到着しました」
と、そんなことを考えている内に目的地へと到着した。馬車の正面には、一際大きな邸宅がある。その前には中庭があり、周りを塀で囲まれていた。
両開きの鋼鉄の門が兵士の手によって開かれると、邸宅の前に誰かが立っていることに気がつく。
黒いスーツに似た衣装で身を包んだ老齢な執事だ。
「……ようこそ。ローゼンスティール子爵家へ」
執事は落ち着いた声音でそう言うと、深く一礼した。その声を聞いて、馬車からシェンリーが顔を出す。
「ルイス」
シェンリーがそう呟くと、ルイスと呼ばれた執事は僅かに頬を緩め、表情を柔らかくした。
「シェンリーお嬢様、お帰りなさいませ」
「……ただいま」
ルイスに迎え入れられて、シェンリーも少し微笑みながら返事をした。どうやら、ルイスはシェンリーにとって接しやすい人物らしい。なんとなく安心しながら二人の様子を見ていると、ルイスがこちらに視線を戻した。
「……はじめまして。私はフィディック学院で教員をしているアオイ・コーノミナトというものです」
挨拶をして頭を下げると、ルイスもそれに合わせるように再び一礼して口を開いた。
「ご丁寧にありがとうございます。それでは、こちらへ。ご案内いたします。騎士団長も同席願います」
「承知しました」
ルイスの言葉に、髭の騎士が頷いて応える。どうやら、髭の騎士は騎士団長のようだ。監視兼牽制の為か、騎士団長は私の背後にピタリと付いて並んだ。
ルイスがそれを確認して邸宅の中へと入っていき、私とシェンリーも後に続く。最後尾は騎士団長だ。どうやら他の兵士は門の前で待機するらしい。
邸宅の中に入ると、とても掃除の行き届いた綺麗で広いエントランスがあり、左右と奥に続く廊下があった。窓が少し小さめなのか、屋内は少し薄暗い。
奥の廊下を進むと階段があり、ルイスはさっさと登っていく。見た目通り、邸宅の中はかなり広かった。
暫く歩くと、二階の奥の部屋の前に着く。他の扉に比べて重厚な作りであり、重要な部屋の扉であろうことが知れた。
ルイスがその扉を軽くノックして声を掛けると、扉が中から開かれる。綺麗な鎧を着けた騎士二人が扉を開き、中に入るように促す。
「失礼します。お客様をお連れしました」
一歩中に入ってそう告げると、ルイスは道を開けるようにして扉の横に退いた。
すると、広い部屋が視界に入った。手前には一対の大きなソファーがあり、真ん中にはローテーブルがある。その奥にはシンプルなデザインの机と背もたれの大きな椅子があった。その椅子に、中年の男が一人座っている。
茶色の髪を真ん中で分けた小太りの男だ。整えられた顎髭を生やしており、少々厳つい。
男はこちらを見て、目を細めた。
「……オルド・クェーカー・ローゼンスティールだ。君がフィディック学院の教員か」
「はい。アオイ・コーノミナトと申します。はじめまして」
挨拶をしつつ軽く会釈をする。と、オルドはシェンリーを一瞥し、またこちらに視線を戻した。
「……わざわざ来てくれたのに申し訳ないが、シェンリーは学院を自主退学する予定だ。その話はもう聞いているだろうか?」
「はい。聞いています。その予定を変更してもらうために来ました」
オルドの言葉に正直に自分の考えを話す。すると、オルドは腕を組んで首を傾げた。
「報告は聞いている。フィディック学院に転校したが、シェンリーはメイプルリーフを出る前と変わらず、魔術はあまり伸びなかった。ならば、魔術師として努力するのは無駄だろう」
その言葉に、シェンリーはびくりと肩を跳ねさせて俯く。オルドはそんな娘の姿を気にした様子もなく、無表情にこちらを見ていた。
その態度に、思わずカチンとくる。
「……恐らく、聖都でのシェンリーさんの様子について報告を受けたのでしょう。しかし、その認識は間違っています。シェンリーさんはとても優秀で、フィディック学院では一年早く高等部になっています。これは世界最高といわれるフィディック学院内でも凄いことなんです」
熱を込めてシェンリーの優秀さを説明する。しかし、オルドは冷めた目でシェンリーを見て、次に私を見た。
「そちらの見解を押し付けられても困る。こちらは確かな調査のもと、報告を受けているのだ。そちらがどう判断しても、シェンリーを魔術学院に通わせるかどうかの決断は私がする。つまり、自主退学だ」
オルドがそう口にして、シェンリーは顔を青褪めさせる。頑なに魔術学院を辞めさせようとするオルドの態度に、何か違和感を覚えた。
「……シェンリーさんはまだ十四歳です。何故、そんなに早く魔術学院を退学しなくてはならないのでしょうか」
理由を尋ねると、オルドは深く溜め息を吐き、私を睨む。
「こちらからも尋ねるが、そこまで踏み込んだ質問に私が答える必要があるのか?」
きっぱりと、オルドは拒絶の意志を示した。
これには困ってしまう。確かに、魔術の才能が云々では無く家族の問題だと言われると、そこに教員としてあまり深く首を突っ込むことは出来ないかもしれない。
シェンリーを見ると、もう泣きそうな表情になっていた。
「……しかし、シェンリーさんは魔術学院を辞めたくはないのです。せめて、理由くらいは聞かせていただけませんか?」
「くどい。それを話す必要性も理由も無い」
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