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王の目覚め③


『私の城に土足で踏み込む不敬。眠りを妨げる無礼。万死に値する』


 再び頭に響いた声で男達は確信した。この声はあの闇から発せられているのだと。

まるで生き物のように動いているあの暗い闇の中から…。


「っ…何が万死だ!出てこい!ぶっ殺してやる!!」


 静まり返った穴の中で、兵士の一人が声を荒げ闇に向かって剣を構えた。

 それは女を馬乗りで地面に押し付けていた男、他の誰もが凍り付くこの状況で勇敢にも一人闇に立ち向かうが…その手と足は震えていた。

 男に刺激されたのか、我に返った他の者達も剣を抜き闇に構えた。カタカタと鎧と剣が揺れる音を鳴らしながら。

 そして相手の出方を待った。

 この声の主は次に何を言うのか?一体何をするつもりなのか?

 決して些細な変化も見逃さぬように、肩に力を入れて目を凝らした。

 だが、その緊迫した空気は直ぐに驚きに包まれた。

 なぜならうごめいていた闇の塊は突然その大きさを小さくし、最後には夜空の中から消えたからだ。

 

『パァン!』

 

 小さくなって破裂した闇は消えた。

 そして目の前に広がるのは綺麗な夜空、兵士達は驚愕しつつも脅威が去ったと思い肩の力を抜いた。


「黙れと言ったはずだ」


 安堵した瞬間だった———あの声が聞こえた。

 そして鼓膜を痛めつける程の大きな破裂音が辺りに響いた。

 突然の出来事と大きな耳鳴りに襲われ放心状態になった兵士達、誰一人何が起こったのか理解していなかった…一部始終を見ていた女以外は。


 彼女は見ていた——地面に押し倒された身体を起こそうとした時に、宙に浮く闇が消えたのとほぼ同時に、1つの影が女を押さえ付けていた男の背後に現れたのを。そして次の瞬間、鼓膜を痛める程の破裂音と共に爆発し何かが飛び散ったのを。

 爆発で飛び散った物…何が爆発したか知っていた女には、それが何か理解できた。

 男の仲間達の顔や鎧に付着したもの、それは血、皮膚、髪の毛、脳みそ、ついさっきまで人間の頭部としてそこにあったものが、男達の体に飛び散って付着していた。


 月夜に照らされる今まで人間だった物、首から上の臓器は全て無くなり、綺麗に骨だけ…頭蓋骨だけが残っていた。

 そして人ではなくなった只の有機物は、地面に吸い込まれように前へと崩れ落ちた。

 女の目の前に、足元に——。


「う…うわぁああああああ!?」


 仲間が殺された事実をようやく理解した男達は絶叫した。

 何が起こったかは分からない。だがこの影が危険だというのは嫌でも分かる。だから男達は全力で逃げ出した。

 武器を持っていた者は武器を捨て、松明を持っていた者は松明を放り投げ、恥も外聞も無く影に背を向けなりふり構わず走り出した。

 一秒でも早く、一歩でも多く、影から距離を取るために。

 直ぐ傍にある急斜面には目もくれず、一目散に我先にと平らな穴の中を駆けた。

 

 影は背後で逃げ惑う男達に見向きもせず黙って立っていた。

 何も言わずどこを見ているのか分からない、そんな影が小さく何かを呟いたように見えた。

 次の瞬間、地面から大量の細長い何かが天を衝くように現れた。

 竹林のごとく隙間なく密集し、竹さながらに細く長い地面から突き出た黒い何かは、その先端鋭くまるで日本刀の刀身そのものだった。


「……」


 女は言葉を失った。

 瞬く間に辺りは一面黒い何かが広がり、気が付くと逃げ惑った兵士達は……皆物言わぬ無残な死体と成り果てていたからだ。

 頑丈な鉄の鎧はいとも簡単に貫かれ、幾本もの黒く細く鋭い何かに串刺しにされ宙に浮く兵士達の死体は、まるでこの不気味な草原を彩る装飾のように見えた。

 鎧と共に貫かれ消えたランタンの火は……まるで彼らの命の灯火ともしびのように見えた。

 眼前に広がるこれほど凄惨せいさんな光景、恐怖で言葉を失うのは何ら不思議ではない。

 

 だが——


「あ…」


 女が言葉を失った理由は——


「あぁ…」


 本当の理由は——


「お…ぃ…様」


 恐怖ではなく——


「お兄様…」


 その目に映った信じられない光景だった。


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