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十王協定


 今から20年前、トラストニア大陸の南部——人間達が住まう地域では戦が絶えなかった。

 毎日のようにどこかで家が焼かれ、村が焼かれ、町が焼かれ、兵は死に、民は死に、国が消えていった。

 大陸の中でも豊かな緑と綺麗な水に恵まれていた地の緑は焼かれ川は血で汚れた。

 終わりの見えない泥沼の憎悪に満ちた争いに、誰もが生きることに絶望し希望を捨てていた。

しかし、そんな地獄のような日々は唐突に終わることになる。

 “十王協定”が結ばれたのだ。

 それは各地方で最も大きな勢力を持つ王達が、この時唯一の永世中立国として平和意志を貫いていたアイル王国に集結して結んだ平和協定であり、その目的はこの残酷な日々に終止符を打つために結んだ協定だった。

 血を血で洗う戦争を止め、武器を置き憎しみの連鎖を断ち切り、民達を導き平和な世を築き上げるという崇高な目的の為の協定——【十王協定】——これは戦争に苦しむ民達に希望の光を与えた歴史に残る偉業だった。

 

 ——しかし、その全てがまやかしだった。なぜなら十王協定の真の狙いは別にあったからだ。

十王協定の真の狙い、それは“魔王クロドの抹殺”だった。


 “魔王クロド”——かの者の名前が大陸中に知られたのは十王協定が結ばれる2年ほど前だった。

 トラストニア大陸の中心にある魔境コドクに現れた新たなる魔王の存在、始めは誰もが気にも留めずいつもの事かと聞き流した。なぜなら魔王と名乗る魔族の存在は今に始まった事ではなく、特段珍しい事では無かったからだ。

 そこそこに力のある魔族がコドクで暴れ弱者を淘汰し上に立つ。ある程度の数の魔族を配下に置き、井の中の蛙の殿様気分で魔王と名乗り他の種族に喧嘩を売る。一通り好き放題略奪や殺しを楽しんだ後に、他の種族(主に人間)に討伐され離散する集団、皆そういう認識だった。


 しかし魔王クロドは違った。

 魔王クロドの軍団は無暗むやみ矢鱈やたらに他者を襲う事は決してなく、目立った悪名は大陸に轟くことは無かった。それどころか日に日に広まるのはその武勇、コドクの強者つわもの達を打倒し、大陸で最も強く気高いと言われている龍族相手に勝利を収めたという、耳を疑うような武勇までもが大陸中に広まったのだ。

 今まで討伐してきた魔族達とは異なる魔王の出現、これを聞いた王達は危惧したのだ。国同士で争っている間に日々大きくなる魔王クロドの脅威と、どんどん疲弊していく自分の国を。

 このままでは何時いつか弱ったところを魔王に攻められ国が無くなってしまう。そう考えた国の王達が密かに口裏を合わせ、平和をうたい諸外国に声をかけ、ようやく結んだのが——【十王協定】王達の保身のために結ばれた協定——それが十王協定の正体だったのだ。


 とは言え、十人の王が協定を結び手を取り合ったことで地方の小国達も争いを止め、大陸に平和が訪れたのは間違いない。というのも十王協定を結んだ十人の王達が10の地方を収めるようになったからだ。

 その王国の名は【メルセ】・【タリア】・【ランス】・【キリス】・【リシャ】・【アイル】・【アプリルガ】・【シベーラル】・【コルト】・【クーマンデ】

 これら10の国々が各地方の小国を吸収したのだ、魔王クロドと戦うための糧として。

 彼ら十人の王が表向きには平和な国づくりを目指すと宣言したことで、結果として大陸には平和が訪れ人々は安堵し、これから平和な日々がずっと続くものだと信じた。


 ……しかし誰もが思い描えがいた平和は数か月前に唐突な終わりを迎えた。

 魔王クロドの死によって。

 そして、まるで示し合わせたかのように起きたメルセ王国国王・バエル=フィシャール、リシャ王国国王・ゼブラ=キャベリンらの死によって。

 

 今から3か月前、勇者トルマとその仲間達が己の命と引き換えに魔王クロドを打ち倒した。その吉報は瞬く間に大陸中に知れ渡った。人々はこれから更に大陸が平和になると信じ、喜び舞い踊り勇者の功績を称えた。

 ……だが、そのたった数週間後である。メルセ王国国王・バエル=フィシャール、リシャ王国国王・ゼブラ=キャベリンが亡くなったという知らせが大陸を駆け巡ったのは。そして何の前触れもなく、突如としてランス王国とキリス王国が開戦したのは…。


 ランスとキリスの開戦、それは十王協定の破綻を意味していた。

 20年という束の間の平和は終わり、また地獄の様な日々が始まる。そう悟った者達は狼狽し、大陸中が大混乱に陥った。そして事態を重く見た国王達は直ぐに集まるべきだと判断し、20年前と同様にアイル王国で会合を開いた。

 集まった国は7カ国、そこにはリシャ王国の新しき王も出席していた。

 だが……同じく前国王が亡くなったメルセ王国の新しき王、パズモ=フィシャールの姿は出席を拒否したランス・キリスと共に無かった。

 会合は三日間に及び、様々な意見が飛び交い話し合われた。だが、決まったことは何一つ無かった。なぜなら話し合いは最後まで平行線のままだったからだ。

 連合を組んでキリスとランスを討とうと主張する、タリア、クーマンデの二国。

 今はまだ二国の動向を見守るべきだと主張する、リシャ、シベーラル、コルトの三国。

 戦争を避け、話し合いによる平和的解決をするべきと主張するアイル、アプリルガの二国。

 誰一人として自分の考えを譲らず、結果としてただ無駄に時間は過ぎ会合は終わった。


 それからの動きは早かった。

 会合で過激派だった、タリア、クーマンデの二国は自国に戻ると直ぐに非常事態宣言を発令し、国境警備の強化や軍事強化に取り組んだ。

 それに刺激されてか、続いてリシャ、シベーラル、コルトの三国も非常事態宣言を発令。

 結果的にアイル、アプリルガ、そして会合に不参加だったメルセも自国を守るため、非常事態宣言を発令することになった。

 …この出来事は3つの事実を証明していた。

 

 1つはリシャの新しき王の能力が高いという事。

 前国王が急死し国内情勢が不安定と思われる中、一切の動揺を見せる事無く会合に出席し、百戦錬磨の王達と対等に話をしていたのだ。それはつまり、自分が国を離れても何一つ問題が無いという意味であり、暗に他国へのけん制でもあった“自分の統治は盤石、お前等に見せる隙など一部もない”と。

 結果としてその思惑は大成功、新しき王のカリスマ性を他国に知らしめることになった。

 

 2つ目は最早メルセは長くないという事。

 大陸の行く末を決める重要な会合、これに出席する事の重要性は余程の愚者でもなければ理解しているはず。そんな重要な場に出席すら出来無い。つまりそれほど国内は混乱し、新しき王はそれをぎょする事が出来ていない。

 今どんな思惑がメルセに蔓延はびこっているかは誰も知らないが、内からか外からか…遅かれ早かれメルセが崩壊するのは明白だった。


 最後、それは十王協定が白紙になったということだ。

 これは “一つの時代の節目” “新たな時代の始まり” それはつまるところ “新たなる戦乱の世の幕開け” いわばこの会合は前哨戦、各国の腹の探り合い。誰と組むか誰を蹴落とすか、己が生き残るために勝ち残るために。

 つまり——民が怯え、悲しみ、苦しむ日々が、再び始まったということだ。


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