表と裏
メルセ王国には2つの軍隊が存在する。
一つはその名の通り“メルセ王国軍”と呼ばれる軍団、総兵数30万を誇るこの大規模な軍は今より百年以上昔、メルセがまだ小国だった時代から続く歴史のある軍隊だ。
メルセ王国国王の下、国の為にその力を振るい守護し続けてきた王国軍は“9人の隊長”を中心として構成されており、部隊は大きく9個に分かれ1~9番隊それぞれの部隊に番号が振られている。
当然各部隊の隊長は王にその力を認められし者達、当然その実力は折り紙付きで周辺諸国も一目置くメルセの象徴とも言える存在である。先のアイル王国で行われた会合にメルセが欠席し政情が不安定である事を露見させた際、好戦的な諸国が会合終了後も安易にメルセを攻めようとしなかったのは、彼ら9人の隊長の存在が大きい。
存在自体が他国への抑止力となるメルセ王国軍隊長。その9人の実力者と約30万の兵士達が日々首都メルセを護り、国境を監視し、メルセ王国を外敵から守っている。
これがメルセ王国を代表する軍隊。国民からは尊敬され他国からは警戒されるメルセ王国の顔だ。
しかし——メルセにはもう一つ軍隊がある。
メルセ王国軍を国の表の顔とするのなら、彼らは正しく国の裏の顔と言えるだろう。
総兵数約八百、千人にも満たない極めて小規模な軍勢は王国軍と比べると頼りなく聞こえるが……実際の彼らを見た者は必ず口を揃えてこう言う——『こいつらとは戦いたくない』と。
その存在感は王国軍の隊長達ですら常に警戒するほど。
“漆黒の鎧兜”で全身を包み込み、主に人目に付きにくい民が寝静まった闇夜に溶け込み活動する“漆黒の騎士団”。彼らの役目は己の主の為に敵を抹殺する事。主に仇なす存在を秘密裏に追跡し、一切の慈悲無く迅速に始末する、国家の裏で暗躍する陰の騎士団。
その漆黒の手を常に赤黒く濡らし、漆黒の鎧兜で常に己を隠し、人知れず敵を葬る彼ら騎士団の名は——【黒弔騎士団】——王国軍と同じメルセの軍隊……だが。
唯一にして絶対の違いは、黒弔騎士団が仕えている主君がメルセ国王ではなく、パズモの父である前国王の弟——ビル=フィシャールという事である。




