何が何でも
五人のクェジトルが転送された先は、天地もなければ四方もない、ただひたすらに真っ白な空間だった(まるで何処かの境界域のように)。
「おいおいおいおい」
「え-? 勘弁してくれよ、これの何処を探索しろっての」
「歩いているつもりでも進んでいる実感がないな、これでは」
「今度は広所恐怖症か? いや、広いのかこれ」
「目標を立てられない……」
つい先日、全員がどうにか入れる程度の狭苦しい部屋が連続するフィールドへ飛ばされ、不本意ながら降参したばかりである。
今回は何が何でも探索し尽くして戦利品を持ち帰ってやる、と意気込んでやってきたというのに、早々の意気を挫く展開では溜息も出ようというもの。
それでも探索を諦める選択はない。とりあえず。上位者としてのプライドもある。
役にも立たない自尊心を捨て、探索に有利なフィールドへ行けるまで何度も出入りを繰り返すという方法は、残念ながら取れない。
深淵へ降りてからリタイアするまでに要した時間が短ければ短いほど、次のフィールドの難易度が上がるからだ。
リタイアすると何も得られず、フィールドの難易度だけが上がっていってしまうのであれば、ただ時間を無駄にするだけのジリ貧状態に陥ることになる。
ちなみに、探索し尽くし、正規の方法で外界へ帰還した場合の次のフィールドは、クェジトルとなってからの経過年数や魔物との戦闘回数、戦闘内容、獲得アイテムの数や内訳など、様々に考慮されて構築される、と推測されている。実際にどのようなシステムになっているかは深淵にでも聞かない限り知り得ようもなく、深淵と意思疎通の図れる者が存在しない為、未だに確定していない(フィールドに稀に出現する番人は辜負族の言葉を解するが、彼らが深淵に関して何事かを語ってくれることはない)。
じっと立ち止まっていても仕方がないと、形ばかり足を前へと動かし始めたクェジトル達は、直ぐに距離感が掴めないなどと言ってはいられなくなった。
前回と異なり、魔物が何処からともなく襲いかかってきたからだ。
ギリギリまで姿は見えない。攻撃を仕掛けてくる寸前に気配だけを現すのだ。そして、ヒットした瞬間に姿が露わになる者もいれば、依然として隠形したままの者もいる。
ただ、一般人であれば恐怖するだろうその事態も、戦い慣れた彼らには寧ろ好転だった。
「そうそうこうでなければな!」
「やーっと暴れられるよ!」
「脳筋と一緒にするな、俺は下がるぞ!」
「いいじゃないか、変化に富んでいる方が楽だぞ」
「…………精神的に」
対応を誤れば死に繋がる状況も、今は愉しいイベントだ――それだけストレスを溜め込んでいた。
倒した魔物が消えた後に、見慣れた鉱物や雑多な加工品が転がっているのもテンションを上げた。
今回こそはあれら全てを持って帰る。一つ残らずだ!
途中からは受け身では物足りなくなり、率先して標的を探し出す始末。
……フィールドの探索どころではない、耐久戦じみた様相と成り果てていたが、当面はまだ、クェジトル達にその自覚はない。
今回、箱庭で繰り広げられている狂乱を、異空間から観覧している存在はいない。
ただ、箱庭そのものである深淵の意思だけが、全方位からじっと見ている。
いつものこと。
広所恐怖症
「広空間恐怖症(Cenophobia)」が正式名称?
覚書
人族の男 カダロルデ
猫科の獣人 ユヤカーシュ
人族の魔術師 ユグーリック
ドワーフ シャーゼンマーウ
夜叉 キアセバフ




