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離島から見る縹の空  作者: 藍谷 紬
2/2

其の弐。

22話「此方の愁嘆、彼方の激昂。」

23話「水底の残響、洋上の囀り。」

ここから始まるカッコつけたタイトルたち。

これ書いたときのタイトルは、ただの「激昂。」でした。多分修正してないバージョンの原稿が残ってるくらい。あんまり大差ありませんが、紙でここの部分を先に書いたときのタイトルは「激高」でした。これは、後半は比較的、前に書いた原稿そのままに近かったかなぁ……。前半はその時書きましたが。

この話の最初の詩の様なフレーズは、結構究極を表している気がするんですよねぇ……。


私の中には海がある、私の中には空がある。

地平線からやってくる喜びや悲しみは、海の中へ飲み込まれ、いつか空へと舞い上がる。

そんな流転を、彼女はいつも独りで眺めた。


さて、作中にありましたが、海は記憶そして、過去です。

空は「未来」です。いや、将来という方が近い?しかしとりあえず未来とします。(未だ来ず、よりも将に来る)

地平線は、「現在」を指します。


地平線の向こうが、現在の現実の世界であり、そこから真霜の心に流れ込んでくる、楽しい事、嬉しい事や悲しい事、辛い事というものが全て記憶という名の過去になっていきます。

記憶は蓄積され、少しだけ変形して解釈され、現在を飛び越えて未来へとつながる材料になるということです。

(分かりにくいやろなぁ……。)


現在は過去になり、過去は時を経て、未来へ進むための糧になる。


真霜は10歳当時、梓が現実で死んだことを受け入れられず、海の底へ記憶を閉じ込めましたが、7年が経って、深海からその記憶は少しずつ解き放たれていきます。

言ってしまえば、このフレーズに真霜のすべてがあるのかもしれません。



さぁ、最大の違和感を張っておきました。多分僕の技量のせいでしょうが、頂上人物の視点から考えると、一つだけあり得ない発言があります。

それがこれです。

「よくできました。忘れない様に。」

この海の底に現れたのは勿論梓です。しかし、梓は死ぬ時にこう言い、思っています。


「でも、そんな物を押し付けられたら、たまったものじゃないわね……。」

「私だったら嫌ね。そんなものを背負うのは。」

しかし自分がいなくなった後に、それを手放すかどうかは彼女たちで決める事だ。きっと自分の不安は、それを彼女たちが決める時にこそ、どうなるか分かるのだろう。だから自分の願いはそこまででいい。ほんの少しの間だけ。


つまり、梓は拾玖を真霜に覚えていて欲しかったのは間違いないのですが、忘れない様に、というのは絶対にありません。それは真霜自身の選択に委ねているからです。

26話でナヅハが指摘しましたが、真霜の中で現れたのは、真霜が作り出した梓です。だから梓が死ぬときに思っていたことは、真霜は知りませんし、そんな事を微塵も言葉に出していないので、本人との齟齬が生まれた瞬間になりました。

物凄く細かく、分かりにくいのですが、とっても大事です。

真霜が未だに自分の作った幻影に頼り切っていることが暗示されていますので……。


第20話で梓が真霜に言った言葉を覚えているでしょうか?


「……希望を見失わないようにね。

例え雲が空を覆って暗くなってきても、

雨が滝みたいに降って濡れそぼっても、

風が嵐になって大事なものを奪い去っても、

雷が落ちてきてあなたを酷く傷つけたとしても、絶対に諦めちゃダメよ。

いつだって光はあなたを照らしているわ。

朝が来ない夜が無いように、晴れが来ない空も無いのよ。」


梓は真霜に”絶対に諦めるな”ということを言いました。真霜がシマエナガの囀りによって、目を覚ます過程で海の中から上がってきましたが、そのシーンで真霜は諦めてはいけないことを再認します。この真霜の心の奥に楔の如く打ち込まれた信念は、梓が真霜に最後の時に伝えた言葉です。どれだけこの言葉が重いのでしょう?死を悟った人間がこれからの人生を生きていく娘に向かって言った言葉がどれほどの意味を持っているのでしょう?

その事を、真霜は無意識に理解していたのでしょうね……。




24話「望まぬ拒絶、望まぬ喪失。」


うーん、流れを汲もうとして微妙になったタイトル。一話全体を表すタイトルをつけることが基本になっているのですが、ストレートすぎる。比喩も何も無い。

そうですね、ここは物凄く大事なことが書かれるわけじゃありません。言ってしまえば最後へ向かうドアのノブに手を掛けるくらいの段階です。

そしてこのシーンというかこの話は後半から予定外。ナヅハがここで消える予定なんて無かったよ!!なんでおらんねん!?と突っ込みつつ不安になりながら書きましたが、最後には僕も合点がいきました。

ナヅハがここで一度消えてしまうことがかなり重要だったんです。真霜にとってナヅハがどれだけ大切な存在だったのか、というのを真霜は自分で考え、一人で再認します。これがあったからこそ、最後真霜は笑って病院を出ることが出来たんです。

まぁ、最後に急に出てきたのは僕も納得していないところもあるのですが……。自分勝手です。


25話「俄かの焦慮、束の間の帰参。」

まぁ、まぁ、このタイトルはギリセーフでしょう?

またストレートな題ではありますが(;^_^A

束の間の帰参は、その後を予言していますよね。バレバレです。

例によってこの回も7割はアドリブ()になっています。




26話「真霜とナヅハ。」

やってきました。もう縹の空は、この回を書くためだけに考案されたと言っても過言ではありませんでした。

そしてこの回が、何よりも、何よりも、何よりも難しかった。

こんなにまとめられないと思った話は初めてです。

書かなくてはいけないこと、書いておきたいこと、彼女たちが勝手にやること。

この回が一番とっ散らかっていました。

元々この僕は最初と最後を決めてから作品を書きますので、ナヅハをどうするかは絶対に決まっていました。これ以外の結末はあってはならない。(ぶっちゃけますと最初に書いた原案ではナヅハという存在すらなく、椥叉が最後死ぬけど乗り越えたよ、という雑な終わり方でしたが、余りにもひどいので没にしました。)

なので、結末が決まっている以上、好き放題彼女たちのやるようにはさせられない訳です。

ナヅハが一時的にでも現れた理由や、梓とのことで書かなければいけないこともあったので、それを全て書いた上でナヅハが崩れ落ち、真霜が彼女を抱きしめる。そしてナヅハは消えていく。という流れにしなくてはいけなかった、と。

いやいやいや……。事務的になりすぎてなんだか感情がおざなりにされたんですが……?と書き終わってなんとなく思いました。ペースが速い、といいましょうか?

原案は酷いのなんの……阿鼻叫喚、無間地獄、死屍累々、地獄絵図。

梓の死の時とは比べ物にならないくらい書けませんでした。今も納得度は70%くらいです。

まぁ、中身に着目しましょう。

ナヅハは「最後までやりたくなかった」というのは、ナヅハが消える事を恐れたからではありません。真霜が受け入れられないことを恐れていたからです。




梓の死を思い出し、記憶のバランスが崩れ、そのバランスを全て無かったことにするにはナヅハがいなくなることが必須だったんですが、真霜にそれが出来るかどうか……。というのが、ナヅハの心配だったのですが、真霜は全てを飲み込むことが出来ました。梓の幻影を作ってまで自分を鼓舞しましたがね。


「私の本当の望みは、あなたが自分の力で過去を抱き締め、現在(いま)を積み上げて、未来に希望を持つことだった……。」


過去を抱きしめるというのは、忌まわしかったはずの梓の死も、周りとの暗かった関係すらもすべてを受け入れ、それを愛し、未来への糧にする。そして今できることをやり、あきらめることなく、未来への光を見続ける、というのはこの作品の根源的なテーマなのかもしれません。



そして最後、ナヅハが消え去るのは思ったよりあっさりしていましたね。

光になり始めてから引っ張ることなくすぐに消えてしまいました。これは長く言葉を交わすべき場所では無かったからです。ナヅハももう多くは語りません。真霜は泣くばかり。

変なリアリティを心の海というバーチャルで意識するのは違和感があるかもしれませんが、綺麗に長くし過ぎたくなかった……。愛着あるので悲しかったんですがね。

ここでナヅハが、真霜の手を包み込み、額を合わせ最後の言葉を遺しました。

ここがシーンで言えば好みのランキング1位2位を争う部分です。

「私がいなくても、もう笑える。」ここも、第8話からの伏線になります。

立ち止まっても、振り返っても、その場で座り込んでもいいわ。

けれど、最後は必ず自分の足で立ち上がって、自分の道を歩いていきなさい。

自分の人生を生きていきなさい。



ここは、梓と真霜の思いが練りこまれて作られたナヅハ、そして拾玖の思想が全て詰まっているんじゃないでしょうか?真霜が自分の選択が出来る事を悟ったからこそナヅハが言える事でした。

もう、ここの真霜の悲しみを表現しきることは遂に出来ませんでした。


三度目の喪失です。

一度目は母、二度目は梓、三度目はナヅハ。

全て自分を守ってくれた母の役割をしていました。自分を引っ張ってくれたり、自分の背中を押してくれたりする、前や後ろにいる存在でしたが、もう彼女たちはいません。

これからは……おっと、それは次の話のタイトルでお分かりでしょう。








最終話「隣り合わせの二人。」

第一話との対比になります。

背中合わせの一人が、二人になり、隣に。


ナヅハを失ったシーン。

実感こそ無いけれど、涙腺の熱を払おうとするわけです。

一見現実逃避に見えますね、しかし椥叉のとの会話で「見てくれていると思う。」

ということで、完全に乗り切ったことがうかがえます。

ナヅハ自身は言いこそしませんでしたが、彼女は真霜の中の心の海(過去)に溶け、心の空に還って行きました。22話の長ったらしい解説にも書きましたが、


海は「過去」、空は「未来」、地平線は「現在」を指します。

過去の梓の記憶が思い出され、真霜が受け入れたように、ナヅハ自身もまた真霜の中の過去の記憶へと変わり、真霜が先へ進む一つの材料となるわけです。

基本原理は、現在→過去→未来ですね。分かりにくい!

「生を綾なす光の粒に、私の思いを重ねていく。」



椥叉が病室を出る時の声は、勿論……。



敷島について。

敷島が一番輝いたシーンなのでは!?昔から真霜を見ていたからこそ生まれた発言。お茶目さと余裕が増した敷島は結構好きです。この時で30くらいかぁ……。

お茶目さと真面目さを持つのは、いいですよねぇ。

この敷島のシーンは紙に書いた時の原案にはありませんでした。キーボードのおかげです。この後に椥叉がちらっと本音を言うのが自然になってくれました、かわいい。


ボケ。

久しぶりに真霜のアホさを出せました。

余裕のある敷島と、普段に帰ってきた真霜との掛け合い。面白いかどうかは置いておくとして、過去を知っている敷島とああいう風に会話できている、というのがいい所です。

ツッコミに対してのツッコミは彼女の得意技な気がします。

勝手にアホになってくれたので一安心です。



ラストシーン。

ここで気づいた方はいませんでしょうね……。

椥叉が真霜の手を引っ張って外へ行きます。



ここで、20話の梓の夢を思い出していただきたい。


とても小さな子供二人と手を繋いで歩いている夢を。歩いている途中で、梓は突然足が止まり、子供たちと手が離れてしまう。足元を見てみれば、黒い泥のような物が梓の足にまとわりついている。その黒い塊は、徐々に梓の身体を、しかし着実に蝕んでくる。片方の子供は止まってしまった梓を振り返り、座り込んでしまう。しかし、もう片方の子供が彼女の手を取って先へ進んでいく。


これに当てはめる事が出来ます。

ナヅハが言ったように、立ち止まって、振り返り、座り込んだのは真霜です。

そして、もう片方の子供は勿論椥叉であり、手を引っ張ったのも椥叉です。


ナヅハが言った先へ進む、というのは勿論未来へ向かうということですね。最後のシーンでわざわざ病院の外への一歩を踏み出した、と長ったらしく書いたのはそれが理由です。


この樽見河病院とは、

梓と真霜が出会い、梓が死に、ナヅハが生まれ、ナヅハが”死んだ”ところです。

椥叉も何度も入院し、今回は危機を乗り越えました。

つまり、この作品において、病院が過去の象徴として存在しているということであり、そこから一歩踏み出す、というのに意味があります。

二人で手を取って一緒に過去から未来へと歩いていく。


遥か遠くまで深い青に染まり始めた空は、並んで歩く二人を真っ直ぐに見下ろしていた。


そしてこの文。物すっごい深い事はありません。空であることが大事なだけです。

梓は死んでいますが、二人をいつまでも見ていると言いました。

それはきっと現実の空からでしょう。天国は信じたいものです。

ナヅハも死に、真霜の心の空から二人を見ています。


現実の空と、心の空の両方から、真霜と椥叉を見下ろす目がある。

縹とは、少し変わった青色であり、「遥か遠く」という意味も持ちます。


ですから、

縹の空から梓とナヅハが、真霜と椥叉を見守っている。


というのがこのタイトルの本当の意味です。





と、言うことで大体の解説が終了しました。全ての話に対して解説をしていたら1万文字を超えてしまいました。脈絡のない書き方になってしまって申し訳ございません。

でも、これを読んだ後に、どこからか生まれたこの「縹の空」という作品が如何なるモノなのか。少しでも分かって頂けると、嬉しいです。

長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。

最後に、この小説を作るきっかけとなった詩を残しておきます。






私の涙は枯れたから

前へと上へと進んでいこう

あなたがいなくても笑えるから

奏でた想いを抱きしめよう

私が踏み出す小さな一歩を

いつかは消えゆくその記憶を

心に刻んでいたいから



これですべてが終わりました。

縹の空のすべての要素が終わりました。

彼女たちには、彼女たちの人生を歩んでいってほしいと思います。では。

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