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騎士と魔女の誓約  作者: 泉伊織
学院の殺人鬼
11/20

生徒会勧誘

 日が昇りだいぶ時間が経ち温かくなってきた。

 俺は校門の前で欠伸を噛み締めながら、人を待っていた。

 校門では多くの生徒が種々な衣装を身に付けた生徒たちが出入りしている。

 しかし、俺の待ち人は一向に来ない。

 懐中時計を取り出し見る。


「九時二十分」


 仕事柄、集合場所に着いたのは約束の十分前、つまり計三十分待たされている。


「というか、来るのか?」


 イタズラされてない?

 もしかして陰から覗き見て「あいつ本当に来てるよ」って、悪口言ってるんじゃないか。

 ちょっとした被害妄想に陥っていると、ちょうどグレイスは来た。


「待たせたわ」


 おせぇよ、と言おうと思ったが寸前で止まる。

 言ったら言ったで倍になって返ってきそうだ。


「気にするな、待ってない」

「あ、そう」


 相手にされない、悪気のない様子でムカつく。

 イラッとしたが我慢我慢と自分に言い聞かせる。


「さ、行きましょう」


 学院に入っていくグレイスはの背を追いかけ隣に並ぶ。


「あー大丈夫かしら」


 頭に手を乗っけていう。

 急な事だったからか心配の色を込めて尋ねる。


「どうしたんだ?どこか具合が悪くいのか?」

「は?身体いたって健康よ」

「じゃあ、なんなんだよ」

「私は美少女よね」

「はぁ?」


 なんだ?藪から棒に、意味わからん。

 確かに実際容姿は整っているが。


「多分だけど、私みたいな美少女は皆んな入って欲しがるでしょ。いろんな所から勧誘が来て、断るだけで日が暮れそう」


 すごい自信だな。

 そこまで言えるんだったら無敵だな。


「でも、お前みたいな強引な女はモテないと思うぞ。

 あと、グレイスはそんなキャラだったか?」

「はいダメね。女って言う時点でダメ。

 それに私好きな人いるから、その人から愛されればいいの。

 そんな事より早く行きましょ」


 グレイスには、愛する人ができていたのか、その突然の事実に一瞬だけ目の前がふらつく。

 しかし、今の自分の名前を思い出して踏ん張る。

 アイト・フローラルハート。

 この名前が、この感情を殺してくれる。


「待って、最初はどこに行くんだ?」


 行く場所が決まっているかのように、迷いのない足取り。

 心の中で感情が物言わぬ死体へと成り下がった頃には自然に訊いていた。


「まずは、歴史研究会ね。

 私好きなものは後に取っておくタイプなの」


 いたずらっ子のような笑顔をする。


「ははは」


 不覚にも笑ってしまった。

 なんだか負けた気分だ。


 ##########


「ーーーこの国が魔女の呪いを受ける以前、魔王と呼ばれる存在が大陸の君臨し、二十の邪悪なる存在を生み出した。

 魔王とその二十の配下たちはその圧倒的な個の力で、大陸に住む人類を蹂躙し続けた。

 魔王やその配下たちに何千何万の戦士や兵士が挑むも歯が立たず、人が虫ケラのように叩き潰される日々に人々は絶望し、祈った。

『救ってくれ』『この最悪の未来を変えてくれ』と。

 果たしてその祈りは届いたのか、本当に現れた。

 勇者が。

 勇者は魔王の配下を倒しながら大陸を旅する中で三人の仲間を手に入れた。

 後に勇者パーティと呼ばれる四人は魔王の住む城へ行き魔王を倒し、魔王の脅威から人々は怯えることはなくなったのだ。

 魔王との戦いを終えた勇者は我が国アレスドラ王国で幸せに暮らした。

 そして、その勇者の子孫がこの国の人間なら誰もが知ってるあのレイ・ユーリアス!」

「あはは…………………はぁ」


 なんだか早口で長々と大仰に身振り手振りで解説する歴史研究会のメンバーの人に苦笑いする。

 ここは四号館の一室。

 四号館は研究会の研究室が集約されている棟なのだ。

 それにしても、なかなかしっかりと活動している感じだ。

 研究室の壁には研究成果をまとめた紙が所狭しと貼られていた。

 凄いなと感心しているとーー


「行くわよ」


 腕を引っ張られて退室する。

 元々歴史にあまり興味のないグレイスだ。

 あんな早口で聞き取りずらい話を聞かされても面白くはなかったのだろう。

 ズンズンと進む。

 その後、俺たちはスイーツ研究会、小説研究会、テーブルゲーム研究会などの人気な所からスカイウォーク研究会や写真研究会などのニッチな所などを見て回った。

 一旦休憩で、グレイスはトイレに俺は無言で廊下の端にあるベンチに、コーヒーを片手に一息していた。

 頭を空っぽに人の流れを見ていると見知った顔の人物と目が合う。

 その人物は遠くの方で手を振ると、俺たちのところまで小走りする。

 眼帯で視界は遮られているはずなのに、見事に人の波を掻い潜っている。


「お〜〜い、お〜〜、ああ、あれ?」


 が、途中で足が絡まり体勢を崩す。

 セルーナ先輩は、そのまま俺の鳩尾にダイブ。


「うっっあああ、あっつい!!」


 しかも手に持っていた熱々のコーヒが俺の顔面に直撃する。


「ああ、ごめん。大丈夫アイト君」


 セルーナ先輩は頭をさすりながら俺を心配してくれる。


「えっ、あっはい」

「全然ダメそう!

 そうだ、来て」

「えっ、あの待ってる人がいるんですけど」

「いいから、いいから。少しだけ」


 セルーナ先輩に強く腕を引っ張られ椅子から立ち上がり連れていかれる。

 もしかして、セルーナ先輩も結構強引?

 流れるままに身を任せていると生徒会室にたどり着いた。

 生徒会室は作りや家具の配置は普通の部屋だった。

 だが、至る所にある傷や埃から確かな歴史の重みを感じる。


「アイト君、そこ座って」


 セルーナ先輩が指差した上質そうな皮のソファーに座る。


「これで冷やして」

「ありがとうございます」


 氷が詰められた袋を渡され、コーヒーがかかった腕を重点的に冷やしていると、セルーナ先輩は布を片手に俺の隣に座ると横からコーヒーがかかった太ももなどを拭く。


「ちょっ、セルーナ先輩!何してるんすか、恥ずかしいんですけど」

「だって、シミになったら大変でしょ」

「そうですけど、俺が拭きますからやめて下さい」

「動かないで、じっとして」


 セルーナ先輩は可愛くも睨みを効かせる。

 俺はセルーナ先輩に強く言われて引き下がる。


「分かりました。それならお願いします」


 羞恥心を堪えて投げやりに言う。


「偉い偉い」


 子供扱いする様に頭を撫でられそうだったので、それは流石に避けさせてもらった。

 ………………。

 ………………。

 シミ拭きもそれほど時間のかかるものではない、数分で終わった。

 俺は持っていた氷を手近な机に置き立ち上がる。


「セルーナ先輩、ありがとうございます。それでは、俺はこれで」


 お礼を述べ、部屋を出ようとする。

 置いてきたグレイスのことが心配だ。

 グレイスからしたら戻ってきたら、何も言わずに勝手にいなくなっているのだ。

 むかついているだろう。

 早く戻らくなくては。

 そう思い、少し速めに歩き出すとーー


「ああ、少し待って」


 セルーナ先輩に引き止められる。

 どうしたんだろうと、疑問に思いながら立ち止まる。

 早く戻るに越したことはないが、セルーナ先輩をシカトして行くのも違う。

 そもそも、今更数分遅れたところで怒られるの変わらないだろう。


「どうしたんですか?」

「アイト君、生徒会に興味ない?」

「………生徒会ですか」


 生徒会。

 ラフォールの生徒を纏め導く組織でありラフォールの生徒なら憧れる存在。

 生徒会の役員は生徒会長自ら指名される限り、なる事は不可能。

 イベント事などの運営を任せられる代わりに、生徒の個人的な情報を得ることが出来る。

 いまのところは、存在感のない生徒をしているが、生徒会に入ってスクールカーストで高い地位を確立して、捜査をより有利に運ばせるという選択肢もある。

 正直かなり美味しい誘いだ。


「……………」


 頭の中でうんうん悩んでいると先輩は微笑みながらーー


「答えはいま出さなくてもいいわ。二週間後の壁外実習が終わったら、答えを教えてちょうだい」

「すみません」

「謝る必要ないわ。それだけ真剣って事だものね。

 それに、生徒会に誘って、二つ返事でオーケーしなかったのは初めてで、何か新鮮」

「それは誇っていいのか微妙です」

「それもそうね。でも、私の初めては誇ってもいいかもね」


 妖艶に笑む。

 目から本気具合を伺う事は出来ないが、恐らく揶揄ってるのだろう。

 その笑みにみとれるが、すぐに正気に戻る。


「………。それじゃあ、俺もう行きます。人を待たせてるんで」

「分かったわ。楽しんでね、一年生」

「はい!」


 セルーナ先輩が笑いながら手を振る。

 俺は手を振りかえしながら、生徒会室を退室すると全速力で元いた場所に戻る。

 もしかしたら、まだトイレにいるかなと淡い期待をしていたが、当然というべきかグレイスはいて、しっかりと怒っていた。

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