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騎士と魔女の誓約  作者: 泉伊織
学院の殺人鬼
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闇夜のプロローグ

読んでもらえたら嬉しいです。



 一陣の風で揺れる木々が僕の恐怖心を煽る。

 視線を上に向ければ静かに光を発する天体。

 今宵は満月。恐ろしく寒い夜だ。

 不意に強烈な眠気が襲ってくるも眠ることなど出来ない。今ここで目を閉じればケモノに食われて僕は死ぬ。

 遠からず僕は死ぬだろうけども、ここでケモノどもに喰われて死ぬのは何か違うと直感のようなものが言う。

 背中に大きな切り傷を負いながら僕は歩く。

 父も母も殺され婚約者にも裏切られ今の僕に居場所はない。


「それでも死にたくない」


 そんな言葉が漏れる。

 いまの僕は地獄のような場所に立っていて、死ぬ方が救いなんじゃないかと思えるような世界で生きているけど、自分がなくなるというのが嫌で足掻いている。

 覚束ない足取りで歩いていると木の根に足を引っ掛けてドサッと転ぶ。

 その音を聞いたケモノたちは野生で研ぎ澄まされた五感全てを使って僕の居場所を探し当てると、ガウガウと吠えながらケモノたちが走る。

 朧げな意識の中でしまったと思い、走り出す。

 森の中を走るにくく、背中の傷で更に走るのが遅くなっていた。追いつかれるのも時間の問題だと思いながらもこの絶望的な状況ではどうすることも出来ず、ただ走るのみだった。

 無我夢中で五分ほど走っていると大きな湖がある場所まで来ていた。

 夜空に散りばめられた星々と満月が反射した湖はとても美しかった。


「ガウガウッ、ガウガウッ!!」


 どうやら僕がこの景色に見惚れていたうちに十匹ほどのケモノは追いついたらしい。

 見た目は犬のようなフォルムをしているが、その獰猛さは犬なんかとは比べるまでもない。

 すぐそこに危険は迫っていたが不思議と心は凪のように落ち着いていた。

 星と月に見られながら死ぬならいいかもしれない寂しいのは嫌だから。

 ただボーッと湖と夜空を見ながら終わりが来るのを待っていると、人がきた。


「よかった。まだ生きていた」


 それはこちらのセリフだった。普通壁の外に人はいないものだ。

 よく見るとどうやら女性のようだ。

 鮮やかな赤色の長髪の女性。背は高く、成人男性と同じくらいで手足はすらっと細く長い。ついでに胸も大きかった。

 そんな魅力的な女性は軽量な紅の鎧に身を包んでいた。

 ケモノたちは赤髪の女性が現れてからというもの女性を警戒していて、吠えるのではなくグルルと唸っていた。


「絶体絶命という状況かしら」


 そう言って赤髪の女性は足元から頭のてっぺんまで不躾なほど見ている。

 何やら思案している様子だったが、すぐに引き締まった顔になる。


「大丈夫よ。私が助けるわ」

「あっ、ああ」


 ただただ意味がわからなかったが、無意識のうちに頷いていた。

 彼女は剣をケモノに向けると目にも留まらぬ速さで十匹全てのケモノを切り刻んだ。

 美しさと強さを兼ね備えた動きに目を見張る。

 戦闘というか一方的な虐殺を終え、僕のところまで来ると目線を僕に合わせて屈む。


「名前を聞いてもいいかしら」

「………………ユゼル・セイブルトゥリパです」

「聞いてた通りね」


 僕が名を名乗ると赤髪の女性はふっと笑う。

 何が何だかよく分からなかったが、そんなことはどうでもいい。

 僕は死なないのか、そう思ったら全身から力が抜けて倒れそうになったところを赤髪の女性は抱き止める。

 人の肌の感触と腕の中の暖かさを思い出し涙を浮かべる。


「ううッ、ああ〜〜」

「偉いわ、よく頑張って生き延びたわ。えらい。ただ、いまの君の名前で生きていくと色々と大変なのよ。だから君にはこれから生きていくため名前を変えてもらうわ。ごめんなさい」

「どうでもいい、もうひとりぼっちは嫌だ。寂しいのは嫌なんだ」

「わかった。名前はあんたが名付けて欲しい」

「私でいいの?」

「うん」

「そうね〜。………じゃあアイトにしようかしら」

「アイト」


 そう僕は口で転がす。


「そう。アイト・フローラルハートよ」


 その日その夜、名の知れない赤髪の女性に出会って変わった。













読んでいただきありがとうございます。

次話も読んでもらえたら嬉しいです。

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