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後宮青月妃伝 ―IF―  作者: ヴィルヘルミナ


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◇ 華蝶の簪

 石畳で覆われた街道を馬車が走っている。帝都までは馬車で十日かかるらしい。


 狭い馬車の中は段差がなく、ちょうどシングルサイズの布団が敷ける程の広さしかない。村から出た時は布だけが床に敷かれていて、最初の町へと到着した翌日には分厚い敷物と座布団が沢山持ち込まれた。重ねた座布団のお陰で、多少の振動があっても気にならない。


 最初は、まるで棺桶を運ぶ車のようだと思った。今は綺麗な色の座布団のお陰で明るい印象。


 私は過剰と言ってもいい程、丁重に扱われている。兵隊長レイシンは侍女を同行してこなかったことを謝罪し、宿泊の為に立ち寄る町々で女性を雇って私の世話を担当させる。


 雇われた女性たちは、必ずと言っていいくらい精悍なレイシンに興味を持つ。私にいろいろと聞いてきても、何も知らないので答えようがない。帝都まで私の侍女としてついて行きたいと言う女性もいたけれど、レイシンは絶対に認めなかった。



 ある日、馬車の不具合で宿のある町までたどり着けずに森の中で野宿になった。私は馬車の中、兵士たちは外で火を焚き、交代で眠る。


 深夜に目が覚めると、静かな森の中で囁く男たちの声が聞こえてきた。

『兵隊長、村から連れ出して殺すという話だったのではないのですか?』

『皇后の証である〝華蝶(かちょう)の簪〟をお持ちの方だとは聞いていなかった。万が一にも傷付ければ、自分だけでなく子々孫々まで呪われるぞ。お前は苦しんで死にたいのか?』


『あの蝶の簪はそれ程の力を持つ物なのですか?』

『ああ。初代皇帝が神から与えられた剣で国を統一したという話は知っているだろう? それには続きがある。その剣が〝華蝶の簪〟に変化して初代の青月妃を護ったという話だ』


『あの簪を奪ってしまえばただの女になるのではないのですか?』

『〝華蝶の簪〟は皇帝が正式な儀式で取り上げない限り、必ず青月妃の元に戻ると言われている。王宮に送り届けて指示を仰ごう』


 男たちの話題が別の話に移った。窓の隙間から入る月の光の中、そっと手を伸ばして小箱の中に入れていた簪を取り出す。


 濃い紫水晶で作られた蝶は、とても繊細な細工。薄い羽根には鱗粉まで表現するような細かい彫刻が施され、細い脚で花の蕾に捕まっている。一度床に落としてしまったことがあるけれど、割れることも欠けることもなかった。この簪が不思議な力で出来ているというのなら納得できる。


 リョウメイは私の身を護る為に贈ってくれたのだろうか。そして私と結婚する為に。


 目を閉じて、明るい笑顔で私の頭を撫でるリョウメイの姿を思い浮かべる。元の世界に帰りたいと泣く私を、いつも優しく抱きしめてくれた。


 村に馴染めるようにと二人で畑仕事をして、竹で籠を編んだ。朝から晩まで一緒に働くことが楽しくて、嬉しかった。最初は異世界人に対して警戒していた村人たちが受け入れてくれたのもリョウメイのおかげだと思う。


 少し時間ができると、この世界の綺麗な場所を見せたいと言って、あちこちへ馬で連れて行ってくれた。色とりどりの花畑、森と山の緑を映す湖。

 赤と緑の月が常に輝く青空の下、美しくて心が震えるような景色を二人で見て回った。


 元の世界に帰らないで自分のお嫁さんになって欲しいと、顔を真っ赤にして告白された日を思い出す。あの日、私は元の世界への未練を捨てることができた。この世界でリョウメイと生きようと誓った。


 早くリョウメイに会いたい。約束を守ってくれてありがとうと言いたい。

 〝華蝶の簪〟を枕元に置いて、私は目を閉じた。



 帝都はとても賑やかな場所だった。日本の平安京と同じで碁盤の目のように道が走り、荷馬車や馬、大勢の人々が歩いている。元の世界の雑踏を思い出して懐かしくさえ思う。


 中央には広い道がまっすぐに王宮へと伸びている。正面の門を通過する際に少々時間がかかったものの、王宮へと入ることができた。


 馬車から降りると裏口のような場所だった。木造の瓦屋根の地味な建物で、黒い漆塗りの幾何学模様の格子が窓を飾っている。開け放たれた両開きの扉の中は、石畳の廊下が続いていた。


 兵隊長と兵士たちにお礼を言うと恐縮されてしまった。簪の威力と皇帝の権威に、内心怯む。


「ご案内致します」

 低い落ち着いた声がして、クリーム色の布を頭に被った女性が私の前を歩いて行く。同じクリーム色の服は古代中国の深衣(しんい)に似ている。フードのようになった布が顔半分を隠していて、表情が掴めない。服と淡い口紅で女性だと思うけれど、やたらと背が高い。リョウメイと同じ百八十五センチくらいか、それ以上かもしれない。


 この異世界の人々は背が高い。成人の男性は百八十センチを超え、女性は百七十センチを超える。それでも女性が男性の背丈を超すことは珍しい。


 元の世界では平均だった百五十八センチの私は、子供扱いされることが多い。出会った当時、百八十センチを超えていたリョウメイと同じ十七歳とは信じてもらえず、大人と認められるまで随分時間がかかった。


 右に曲がって、左に曲がって……戻ることができるようにと指を折りながら覚えようとするのに、廊下を何度も何度も曲がるので、指では足りなくなった。同じような風景が何度も繰り返され、戻る道がわからなくなった頃、ようやく大きな扉に行きついた。


「こちらは宰相の執務室です」

 女性は優美な動作で扉をゆっくりと開いた。

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