第7話「ウコケケックエエエエエェェェッ!!!(やらせはせんぞおおおぉぉぉぉ!!!)」
朝。
日の光が登り、辺り一面を照らし始めている。
そんな中を一羽の鶏が、胸を張って堂々と歩いていた。
(俺の名はマイケル。種族はウォークコッコ。野良だ…)
グルクルヤの森に生息する鶏型の魔物で、よくヨーレヨ村に来る一羽だ。
(俺はここの人間達を支配している。俺が一鳴きすれば人間達は恐怖ですぐに目を覚まし、俺への貢ぎ物を作るために地を耕すのだ)
ヨーレヨ村には特産になる物は特に無く、また作るきも村人には無かったのか、村の大半は毎日の食べ物の事を考え、畑の大幅な拡張がされていた。
その為朝は早く、朝が弱い村人には鶏が重宝され、大量に採れた作物から残り物を分けてあげていたのだ。
(さて、今日はどの場所から人間どもを怯えさせてやろうか…。そういえばあの離れには行った事が無いな)
鶏は村の離れにある、人が一人か二人入れる程度の小さな小屋を見つけ、近くに立て掛けられていた丸太や木の枝を伝い器用に登っていった。
屋根に着くと周りを見渡し村の中心を見定めると、姿勢を正し足の爪を屋根に食い込ませ、空気を吸い込んで肺を限界まで膨らませると、一気に吐き出した。
「コオオオォケコッッッコオオオオオオオオオォォォォォォーー(ひれ伏せ人間どもよおおおぉぉぉぉーー)」
「獲ったどおおおおおおおおおおおおお!!!」
「コケエエエエエエエエエエ!!?(何事おおおおおおおおお!!?)」
突如出現したパワードは、鶏の背後から瞬時に接近すると片手で両足を掴み上げ、逆さまに吊るした。
「ふははははははははぁ!!油断したなニワトリィィ!朝飯ゲエエェェットオ!!」
実は朝、たまたま朝早くに起きたパワードは、ふと外に目を向け鶏を見かけた。
直感的に「朝ごはんに良いな」と思ったパワードは気付かれないように後をつけ、鳴き声を上げて油断した隙をついて飛びかかったのだ。
「コケッココ、ココ、コケッコオオオオアァァ!!(ええい離せ、離さんか、脆弱なる人間がああぁぁ!!)」
「はっはあああ!無駄無駄ぁ!イタッ、イタイッ、目はやめてぇっ!!」
鶏は逆さ宙吊りの状態で反撃を繰り出してきた。
鋭利なクチバシで執拗に突き立ててくる鶏。パワードはもう片方の手で防いでいたが、徐々に防御をすり抜け顔にダメージを受けていく。
パワードは防御を捨て、手のひらに魔力を集中させていった。
「ウコケケックエエエエエェェェッ!!!(やらせはせんぞおおおぉぉぉぉ!!!)」
「焼き鳥にしてくれるおおわあああああぁぁぁ!!!」
「うるせええええええええええっ!!!!」
唐突に現れたリイダがパワードにドロップキックをかまして突き落とした。
「あああああぁぁぁぁぁーーぐげっ!!」
「ギョゲッ!!」
パワードは地面にめり込み、鶏はその下敷きになった。
リイダはゆっくり屋根から下りてくるとその光景を胡乱げな目で眺める。
「朝から何騒いでんだ?」
「うぐぅ…、そっちこそなぜここにぃ…」
「朝練だよ、朝練。森の方で瞑想してたっつーのに騒がしくしおってーー」
「……何してんの君達?」
この騒がしさにいい加減起きた小屋の住人であるメオナが、玄関前に出てきた。
そのメオナの格好は寝起きだった為か、寝間着の襟元や裾がはだけて乱れており、淫靡な印象がとても強かった。
「「ありがとうございます!!!!!」」
「…何が?」
欲望に忠実な少年達の礼は、綺麗な90度だったという。
「‥‥コッ、ケェェッ‥、コオォ‥‥(おのれぇ、例え俺が果てようとも、第二、第三の俺が必ずや貴様らを滅ぼすであろう)」
後日、そして次の日も来た鶏は、パワードに捕獲され食卓に並ぶ事なった。
鶏を捕まえ、メオナが調理してくれる事になったので、コウテツとサブも小屋に呼ばれた。
「…にーくにく。チキン、チキン」
「‥‥いや、食って良いのかそれ?‥誰か飼ってるやつなんじゃ」
「大丈夫よ。野生に生息してるのを餌付けして、肥えさせてから食べるってな事を、皆してるから」
「あ、風習なんだ…」
「…いただきまーす」
「まだ出来とらんよ?」
「五人もいると狭いな、ここ」
「うっさい。仕込み手伝いなさい!」
「「「「はーい!」」」」
皆で仲良く鶏を捌いた。