第6話「ガルバムー」
森の中の道を進むこと三十分、メオナが後少しで村に着くと伝えた。
「えっ?道に迷わないとこんな近いの?」
「うっそぉ~~ん」
「俺らの苦労はいったい…」
「…!看板がある」
視界に見える少し先、木々が開けた場所の道の側面に、同じ大きさの立て看板がいくつも乱雑に置かれている。
【ヨーレヨ村、この先まっすぐ!】
【移住大歓迎!】
【危険!!森の主、出没注意!】
【妖精にはエサを与えてください】
【はぐれ盗賊を見かけたら、食べ物を分けてあげてね】
「看板多っ!」
「森の主。‥あの猪か!」
「エサ与えんのかい」
「…はぐれ盗賊」
「いろいろと詳しい事は村長に聞くと良いよ」
斯くして、迷いまくって猪に負けた森を抜けたリイダ達一行は、メオナの案内によりヨーレヨ村にたどり着いた。
村の外周には魔物避けなのか木板で出来た小さな柵があり、その中に木造の小屋が点々と並んでいる。
村長の家は他の小屋の1,5倍程度で村の中心近くにあった。
「フォッフォッフォッ。こんな所の村によく来たのぅ子ども達。ワシはこのヨーレヨ村の村長、ポルガじゃ。宜しゅうのう」
そう挨拶した村長のポルガ。少し小柄で片手には杖を持っている。髪は一本もないが眉と口元の白い毛がモサモサしていて、口調からは好好爺という印象だ。
メオナは台所の方に行って村長の奥さんの夕食作りを手伝いにいった。
広間のテーブルの席についた四人も順番に挨拶した。
「はじめまして、リイダです。」
「ハザードカイザーmarkーー」ーーゴスッ「いでっ。パワードです。ヨロシク~ね!」
「おい‥、サブです。どうもよろしく」
「…コウテツ。御はじめまして」
途中ふざけようとしたパワードがサブから拳骨を貰った。
「フォッフォッ、元気な子達じゃ。あのグルクルヤの森に入り込むだけはある」
「あの森そんな名前だったのか…」
「クルクルパー!」
「グルクルヤ!‥確か妖精の種族名の一つだったような‥‥」
「さよう。古くから森に住んでおり、森に入ってきた人を迷わせるのが大好きなイタズラ者じゃ。ただそれよりも甘い菓子の方が好きなようで、昔から森に入る時は皆菓子を作り、持って行くのが習慣になっているがのう。」
村長はグルクルヤの森に関する事を幾つか教えてくれた。
妖精は村長が生まれるずっと前から森に住み、魔物と共存している事。
魔物の中にはあの猪【タックルロックボア】のような主と呼ばれるほど強いのが何匹かおり、それぞれに縄張りを作りその中で平穏に暮らしている。勝手に縄張りに入るとキレて襲ってくる事。
更には運悪く森に入った盗賊の一団が妖精のイタズラにより、ここ数年程さ迷い続けており、見かけた村人が食べ物を恵んでいる事など。
「あの猪レベルが他にもいんのか…」
「グー…、グー…」
「‥盗賊、数年も迷ってんのか。つーか寝るなお前ら!!」
「…zzzz話長い」
話にだれたパワードとコウテツが途中睡魔に負けた。
「その盗賊って退治しなくて良いのか?危ないんじゃ……」
「え?別に?たいして強くないから困っとらんからのう。軽くあしらえるし」
「盗賊…、弱いんだ…」
「でもあの盗賊に食べ物分けてるってのは…」
村に来る手前にあった看板の一つに書かれていた文面を、気になったサブが聞いてみた。
「妖精のイタズラとはいえひもじそうにしてるのは可哀想でのう。たまに森であった時は手持ちの食糧を譲っておる」
「だから数年も生きてんのかぁ」
「…がんばるなぁー」
「夕食の用意が出来ましたよぉー」
リイダ達が盗賊の哀れさに感慨に耽っていた間、村長の奥さんが夕食を作り終え、メオナが料理をテーブルに並べ始めた。
四人もそれぞれ指示をもらい、食器を用意するなどの等の手伝いをした後村長、村長の奥さん、メオナを入れた七人皆で食事に礼をして食べ始めた。
「いただきます」
「ウマイ!ウマイぞぉぉ!!」
「美味しいけどこの四つ足の丸焼きは何だ?」
「それガルバムーの丸焼き」
「‥‥材料は?」
「ガルバムー」
「‥‥‥」
ーームグムグムグッガリッゴリッメシッ
「今ホネごといった?ちゃんと噛み砕くんですよ」
「奥さんや、食後のパンケーキはあるかいのう!」
「はいはい、ありますよぉ」
「「村長食べ終わんの早っ!」」
「フォッフォッフォッ。ワシの奥さんのパンケーキは世界一ィィィィィィィ!!!!」
「「「テンっションっも高っ!?」」」
そこそこ盛り上がった食事会だった。
夕食の後、メオナは食器を片付けて村の離れにある自分の家へ帰っていった。
リイダ達はヨーレヨ村に宿屋が無いので、そのまま村長の家に泊めてもらえる事になった。
広間を借りてそこに布団を敷かせてもらう。
しばらく道具整理などをして村長夫婦が寝静まった頃、四人は暗闇の中で毛布をかぶりながら円陣を組んだ。
「シ~ンキ~ングタァーーイム!!!」
リイダの掛け声(寝ている人の邪魔にならない声量)で四人のパーティー会議が始まった。
「いやうるせぇよ」
「ゴメン。さて今回の議題だが……」
「パンケーキ、旨かったデス!!」
「それじゃなくて」
「ガルバムーっていったい…」
「どうでもええわ」
「…パンケーキ食べた村長が筋肉ムキムキ」
「あぁー、あれは凄かったよなぁ。食べ始める前から盛り上がってた気がするが。‥あのジジィ俺のパンケーキも取ろうとしやがって」
「奥さんにすぐしばかれて止まったけどな!」
「ありゃなかったよなー」
「「「「アハハハハッー」」」」
「違う、違う、そうじゃない!!メオナの事だよ!」
ひとしきり笑った(声量小さめ)後、すぐにリイダは話を戻した。
「ハッ!!?」
「パワード‥‥。完全に忘れてたな‥」
「それでどうすんだ?あの人で確定なのか?」
「…慎重にいった方が良いと思う。前回の事もあるし…」
「あんのクソ天使ぃ……」
パワードは額に青筋を浮かべている。
「よし。明日はとりあえず積極的に関わって観察に徹しよう。そこから見定める」
「うわぁ~、まわりくどい」
「まあ、長旅だし。焦る必要は無いもんな」
「…サブに同じ」
「それじゃあ明日も早いしお休み!」
「すみやす!」 「おお、お休み」 「…オヤzzzz…」
議題を早々に終わらせ床についた四人は今までの疲れもあり、十秒程で眠った。
ヨーレヨ村の殆どの人が眠りについた深夜遅く。
「あの子達、役に立つかなー……」
自宅の窓辺に肘をつき、月を眺めていたメオナはそっと呟いた。