第5話「…寄れよむ、ら、ガハッ」
「私はメオナ。この近くの村の者よ」
少女はそう名乗った。腰まで届く金髪を後ろで一纏めにしたポニーテールと、どこか慈愛を感じさせる桃色の瞳が特徴的な美少女だ。
焦げ茶色で飾り気の無い村民の服装をしているが、出る所は出て、締まる所は締まっていてスタイルも良い。
(……まさか、こんな所で出会えるとは…)
リイダはメオナとの唐突な出会いに、驚きで目を見開いている。
メオナはリイダ達の弱っている状態を見て何か思案すると、バスケットの中からクッキーを出した。
「…良かったらお菓子食べる?全部はダメだけど、たくさんあるから」
「「「「頂きます!!!!」」」」
メオナの提案に四人は飛ぶように跳ね起き、横一列に綺麗に正座した。
メオナは若干引いた顔をしたが、すぐに手のひらに溢れるくらいのお菓子を分けてくれた。
「…うぅ、…二日ぶりの食べ物ぉ…」
「‥ウマイ!!」
「甘さが染みるぅ~」
ーーガッガッガッガッガリッ(あめ玉噛んだ)
四人はお菓子を数十秒で食べ終わり、リイダが魔法で少量の水を出して喉を潤し一息ついた。
それをじっと見ていたメオナはタイミング良く質問を始める。
「それでキミ達、こんな森の中で何してるの?」
「とある村を探して」
「妖精にメチャクチャ道を迷わされた」
「そして猪に負けた」
「…うっ!ゴッホ、ガハッ!(気管に水入った)」
隅にせき込むコウテツと背中をさするパワードを放置して話は進む。
「妖精が?…ふーん、そっか…。とある村って私が住んでるヨーレヨ村かな。」
「名前は知らないけど、たぶんそこ。反対側?の町から村の話を聞いて行ってみようと思ったんだ」
「キミ達は冒険者かな?あまりそんな風には見えないけど…」
「ああ。冒険者だよ。三ヶ月前に始めたばっかりだけど」
「へぇー、まだ小さそうなのによく旅に出る決断したもんだ。親か誰かに止められなかったの?」
「母親が一人と先生みたいのが四人位いたけど、その母親達に蹴り落とされる感じで旅に出された。」
「蹴り落とっ?…」
メオナの質問に対してリイダが次々と答えていっていた。他三名は少し蚊帳の外。
「しかしヨーレヨって…」
「…よ、寄れよむ、ら、ガハッ」
「テッつぁん、無理すんな」
「ーーじゃあとりあえず村に行ってみる?此処よりは安全だし」
大体話を聞き終えて何か納得したように頷いたメオナは、ヨーレヨ村への道を指差し案内を申し出てくれた。
それを聞いた四人は直ぐ様疲れた体を吹っ飛ばし、荷物を整え敬礼した。
「「「「よろしくお願いします!!!!」」」」
「……うん、よろしく…」
またメオナには引かれながらも、リイダ達はヨーレヨ村へと進み始めた。
ーーーーーーーーーー
只今、ヨーレヨ村のメオナを先頭にリイダ達は森の中を真っ直ぐ進んでいた。
その所々で、メオナはクッキーやあめ玉を一つずつ周辺の草むらに蒔いていた。
「…さっきから何してんの?」
リイダは「せっかくの食糧なのに…」と思いながら聞いた。
「妖精はね、イタズラ好き以上にお菓子が好きなのよ。だからこうしてお菓子をあげることで、イタズラをしないようにしてもらってるの」
「そんな裏技が!?」
「マジでっ!?」
「マジで。まあ、この森の妖精の独特なのかそうじゃないのかは分かんないけど」
ヨーレヨ村では森に入る時、必ず妖精用のお菓子を持っていく事を習慣にしているらしい。
「ゲンキンな妖精だな」
「…サブ、上」
ーーヒュ~~、ドスッ!
「っだああぁぁぁぁぁーーー!!」
急にトゲトゲの物体が落下して、サブの脳天に刺さった。
「妖精は人の言葉をある程度理解してるから、悪口は言わない方が良いよ」
「いや先に言ええぇぇ!!」
「毬栗だな」
「栗かぁー!」
「…栗ご飯」
「「「賛成ー!!!」」」
「‥‥お前ら。‥後+α」
五人は和やかに進んでいく。
道中、メオナから少し距離を取り、リイダ達は声を潜めて話していた。
「町で聞いた、たまに来る美人はメオナで間違いないな」
「おぉ、めっちゃキレイだもんな。決定だな!」
「いや待て。見た目だけで決めるのは良くないだろ。あの時のようなのは御免だぞ」
「…仕掛けるか?」
「なんでだ!!」
「‥ほう。‥やるかい?」
「いやヤメい!」
四人のひそひそ話は小さく白熱していって、5分ほど続いた。
(…狙いは私か。…なんだろ?)
そして全部聞かれてた。