第4話「アァァァデルヴァイトオォォォォーー!!!!」(掛け声。特に意味はない)
「パワード足場を崩せ!サブ、レベル確認!」
「アァァァデルヴァイトオォォォォーー!!!!」(掛け声。特に意味はない)
リイダの指示で先攻したパワードが、奇声と共に槌を振り上げ地面に叩きつけた。衝撃が地面を割り砕き、猪の進行を止める。
リイダは崩れた足場を滑るように駆けていき、足を止めた猪に一気に近づいて上段から斬りかかった。
猪は斬撃を牙で容易く受け止め軌道を反らす。リイダは更に連続で斬りかかるが、それも全て受け流された。
「コイツ強っ!」
サブは離れた位置で眼に魔力を集中させ、魔法を発動した。
「〝魔法眼【力量計測眼】〟!」
【力量計測眼】は視認した対象の力を闘気として捉え、強さを計る魔法。
闘気の放出量で体力(物理的身体能力の合計値)を、その放出された闘気の色や濃度で魔力(魔法を行使できる魔力量、又は所持総量)を表している。
それをサブは今までの経験と憶測を元に、大体の強さを勘で導きだす。
「体力280、魔力50、合計レベル330位! 俺達より強いぞ!」
「けど勝てないレベルじゃ、ないっ!」
リイダは更に剣撃を鋭くして猪の注意を引き続ける。その隙にサブは猪の側面に回り込み、横っ腹目掛けて矢を射ち放った。
「〝ウィンドアローーっ〟!」
風に変換した魔力を纏った矢は勢いよく空を切り、猪に向かう。だが当たる瞬間、猪は身を翻すような動きで後方へと避けた。
「バックステップっ!?」
猪はそのままリイダから距離を取ろうと後ろへ走る。しかし周りはパワードが地道に地面を掘り起こして作った亀裂だらけで、逃げ道を塞いでいた。
「二日ぶりの肉ぅっ、逃がすかああああ!! ズンドラアアアハアーーーーッ!!!!」
またしても奇声を上げてパワードは槌を横薙ぎに振るう。地面を抉りながらの一撃、しかし猪はそれも軽やかにジャンプして躱した。
「当たんねえぇぇぇ!?」
「はっっやっ!!」
巨体に似合わず素早い身のこなしの猪は、パワードが勢い余って崩した岩場の隙間から亀裂の外に飛び出し、まだ耕されてない安全な平地へと躍り出た。
「ああっ!? しまったああーーー!」
「無駄なゴリ押しすんなぁっーー!!」
「追えーーー!」
三人も猪を追いかけ平地へ飛び出す。
その頃コウテツは、そこかしこの草を結び付け輪っか状にしていた。これであわよくば足をとられて転びますようにと、丹精込めてトラップを量産していく。
そこを丁度猪が駆けていき、健脚でトラップを破壊していった。
そして後から追いかけてきたリイダが寸前で気づき飛び越えて避け、足元を気にしてなかったパワードが引っかかり顔面から地面にダイブした。
「アベシィッ!!!」
「‥よし、かかった!」
「味方がなぁーーっ!!」
サブがコウテツの横を通り抜け様ツッコミを入れる。
「…っがっふ! 誰だっ!!こんな所にトラップを仕込んだのはっ!!」
「‥サブです」
「いや擦りつけんなぁ!!!」
「お前ら遊んでんなあーっ! 後ろおぉっ!!」
隙を見せたサブ目掛けて、旋回して戻ってきた猪が突進してくる。
「うおぉぉっ!?トっ〝トリプルアローーっ〟!!」
咄嗟にも魔力で強化した矢を連続で三本放ったが、猪は速度を緩めず全て牙で弾いてきた。
「マジで!?っうおわぁ!!」
ギリギリのところでサブは猪の突進を横に飛んで躱す。
次に猪はすぐ側にいたコウテツを標的にした。
迫る突進を回避しようとしたが、後退した先に自分が作ったトラップがあり、それに足を取られ派手にすっ転んだ。
「…いでっ、ぶがぁぁっーーーーー!!!」
猪の突進を真正面からもろに喰らい、コウテツは天高く舞い上がり星となった。
─コウテツ、戦線離脱─
「テッつああああぁぁぁぁぁんんん!!!!」
「自業自得じゃねーかっ!!」
「まあ、大丈夫だろ…」
パワードが咆哮を挙げ、サブはひきつった顔でツッコミ、リイダはいつもの事だと淡々と語った。
「おのれぇぇ!‥よくもテッつぁんおお!貴様は絶対に許さんぞおーー!」
「木の上に退避してる奴に説得力無ぇっ! てかいつ登った…」
いつの間にか近場の木々をかけ登り、天辺付近に到達していたパワード。
「これが俺の怒りだあぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫ぶと同時に持っていた槌を投げ捨て、真下にいた猪目掛けダイブ。落下速度に全体重を乗せた渾身の体当たりは見事猪に命中…したかに見えた瞬間、するりとすり抜けてその先の地面に頭から膝下までズッポリめり込ませた。
─パワード、自滅─
「残像っ!?」
「攻撃前にそんな大声だすなあーーっ!!」
残像を作る速さでパワードの攻撃を避けた猪は、また次の標的にとサブへ視線を向ける。
「っ! これ以上やれると思うなよ!!」
サブは矢に残った魔力を全て注ぎ込み、強力な一撃を放とうと構えた。
「あっ、サブ上──」
そこへパワードが投げ捨てた槌が丁度落ちてきてサブの脳天に直撃。そのままゆっくりと地面に倒れ伏した。
─サブ、同士討ち─
残るはリイダと猪の一対一。
「………ふっ。 ……行くぞ!!」
一人残ったリイダは全身に気合いを込めると、真正面から堂々と斬りかかる。猪はその攻撃もあっさり横に避けた。
「チイィィィッ!!」
しかし避けられる事を予想していたリイダは直ぐ様、回転斬りを繰り出す。
だが猪は更に先を読んでいて、地を蹴り挙げ高く飛んでかわした後、リイダに頭突きをかまして吹っ飛ばした。
「うおわあああーーーーーっ!!!」
そして後方にあった木に叩きつけられたリイダは、意識を失ってその場で崩れ落ちた。
─リイダ、戦闘不能─
パーティは全滅した。
戦い終えた猪は怒りが静まったのか森の奥へと歩いていく。途中─ペッ─と地面に唾をはいて、その姿を森の暗闇の中へ消し去っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時暫くして、森の中を一人の少女が悠然と歩いていた。
腰まで届く金髪のポニーテールに桃色の瞳。凛とした姿勢はしなやかで、動きに無駄がない。
片腕には手編みのバスケットを携え、道を進みながら時折その中からクッキーやアメ玉を取り出してその辺の草むらに放り投げていた。
「…この辺りかな」
少女は独りごちると迷いのない歩みで視界の開けた平地にたどり着く。其処には三人の少年が、各々物格好な体勢で倒れていた。
「子供……? この子達が…」
少女は危なげない足取りで戦いで荒れた地を進んでいき、倒れたリイダ達に近づいて傷具合を確かめはじめる。
その気配と甘いお菓子の匂いに意識を取り戻したリイダが、少女の柔らかく整った顔を見てうっすらと頬を染めた。
「…め、女神…?」
「違う」
少女はスパっと否定した。