第2話「「「「………迷った」」」」
とある樹海の森の中、日の光も届きづらく魔物達が影から牙を剥く危険地帯。
そんな命が危ないところを、町民のような服装にたいした装備も付けてない四人の少年が、一列に並び暢気な声で喋りながら進んでいた。
「ひっとよ~、ひっとよ~、ひっとみっごろ~」
先頭で草木をかき分け、奇妙な歌を口ずさんでいるのはパワード。
真ん中分けの赤髪と活発に開く赤い眼が印象的。体型は小太りだが、自分の慎重よりも高い木槌を片手で振り回しているお陰で逞しく感じられる。
目先にある高く茂った草木を槌で均して、どんどん進む道を通りやすくしていた。
「パワード、そっちの木の間進んでくれ。 …あっ、その岩砕いて。 ラッキー、魔石発見!」
列の二番目で指示を出しているのはリイダ。
セミショートの青髪と透き通った水色の眼の清閑な顔つき。身体はバランス良く引き締まり、左腰に少し古びた銅製の片手小剣を携えている。
道を進みながら使えそうなものを見つけては、手に持った革袋に入れていた。
「…変だな。魔物の気配がしない…」
三番目にいるのはサブ。
毛先が栗のように尖った緑の短髪にツリ上がり気味の緑の三白眼。身体は細みだが、背筋を真っ直ぐ伸ばし姿勢はしっかりしている。
左手に精巧な蔦模様の入った木製の弓、右手には矢を一本持ち、周りを見渡して警戒していた。
──グゥゥー…──「‥腹へった」
そして最後尾にいるのがコウテツ。
丸坊主の黒髪に黒い眼、ぽっちゃり太っちょ体型。持っているのは背中に背負った荷袋一つだけで武器らしい物は身につけてない。
汗もかかずに常の無表情で黙々と歩いていたが、限界にきていた空腹で音と声が漏れた。
「テッつあ~ん、それを言っちゃーおしまいよぉ…」
それにパワードが力無く返す。
この樹海に入り早一週間。手持ちの食糧はすぐに食いつくし、今まで魔物を狩って凌いでいたがここ二日ほどは全く遭遇せず、もう水しか口にしてない。
軽口を言う程度に心持ち余裕がある四人だったが、実際には体力が限界に近かった。
「全然引っかからん…」
ずっと周囲に視線を巡らせ魔物の気配を探っていたサブは、辺りから何も感じられなかったので警戒を解き弓矢を腰のバッグホルダーに戻した。
「なんで出ないんだあ? オレも腹へったーーっ!!」
「あんだけ狩りまくってりゃ、避けるか…。 ついてるし」
魔物との戦闘で真っ先に飛び込み、服のあちこちに返り血をつけたままのパワードを見て、呆れた顔をするリイダ。
この森で遭遇したのは今のところ草食の魔物が数種。血の臭いに怯えたのか勝てない相手と判断したのか、後からはまるで寄ってこなくなった。
暫くの戦闘不足と空腹で気落ちしたパワードは、槌を振る勢いが減ってきている。
「本当に村なんてあるのか?」
「街で聞いたんだよ。 間違いない!」
サブの問いに振り返って、力強く拳を握るリイダ。
先日立ち寄った町で、それぞれ別行動をしていた四人。
パワードは路銀の小遣い稼ぎに町の外で魔物狩り。サブは食糧や備品の買い出しのため露店に行き、コウテツはこの町での拠点となるお手頃価格な安宿探しへ。
そしてリイダは町中を歩き回って情報収集をしていた。
そこである耳寄りな話を聞き、善は急げと別行動の途中だった三人を強引に引っ張り回し森に突入。今に至る。
「だからって、ろくな準備もなく突っ込むなよ…。道あってんだろうな?」
「大丈夫大丈夫まっすぐ進んでるから。 この森突っ切ると早いんだよ。 迂回する道もあるらしいけど」
「いやふざけんな」
安全かつ普通に街道が通っていた事を聞き、だったらそっち選べよとサブがリイダに突っかかりつつも、パワードが均した茂みを歩幅をあわせて先へ進んでいく一行。
ふと、何気なく辺りを見渡したコウテツがサブの背中をつつく。
「? どうした?」
「‥あれ、見覚えが」
コウテツが指差した方向に目を向けると、今四人が通ってるのと同じように草木を均した道があった。
「……あれ…俺も見たような…」
「ん? あったっけ?」
「…いやあの岩、ついさっきお前が壊したやつじゃ…」
その道は少しの間を空けて今進んでいる道と平行に並んでいて、先ほどリイダの指示でパワードが砕いた岩が転がっていた。
「待て待て、あれ数分前のやつだろ!後ろの! なんで横に!?」
「知らねえよっ! 確かめてくりゃいいだろ!?」
「絶対ヤダね!!!」
「なんでだッっ!!?」
「まっすぐ進んでたよなー? テッつあん」
「‥さあ? 知らん」
リイダとサブがまた言い争ってる間、パワードとコウテツはのんびり周囲を眺めていた。
その後、息を切らせた二人の口論が終わり、とりあえず見なかった事にして前進を始める四人。
ーー数時間後。
「「「「………迷った」」」」
着々と均した道を作り続け、いつのまにか同じところを何度も交差して通っていた事に数十回目で気づき、足を止めた。
──クスクスッ、クスクスッ──
たゆたう風の流れに沿って何処からか、鈴の音が転がるような笑い声が微かに響いていた。