第1話『さあ始めよう、僕らの物語を』
嘗て、この世界を滅ぼそうと大規模な軍勢が異世界から侵攻してきた。
それらは突如世界間の壁を打ち砕き、この世界のあらゆる地に出現すると、数多の命を狩り始めた。
緑豊かだった森林は燃やし尽くされ、そびえ立っていた山々は跡形もなく吹き飛び、後には更地だけが残った。
其処に棲んでいた人々の大半も自然と共に滅び、僅かに生き残った人は異世界へと連れ拐われてしまう。
終わりの見えない蹂躙に命を枯らし衰退していく世界。
しかしそんななかでも諦めず、世界を守るために闘う者達がいた。
ある者は世界を駆け回り生き残った人々を纏め上げ、一国に防衛拠点を築き。
またある者は万の敵勢に単身で挑み、命を懸けて全てを討ち果たす偉業を成し遂げ。
そしてまたある者は、運命を切り開く力を持った勇者達を呼び起こし、この絶望的な状況を覆すため動き始めた。
勇者達が様々な試練を乗り越え、来る時に備え隠されていた封印を全て解き放った時、天に輝く月から降り注いだ光と共に、今は亡き古の英雄達が降臨する。
英雄達の参戦により劣勢だった戦況は瞬く間に覆り、敵の軍勢は怒涛の勢いで殲滅され自らの世界へと撤退していった。
こうして長きに渡って続いた争乱が終わり、世界に平和が訪れた。
役目を終えた英雄達は光の粒子となって元の場所に還っていき、勇者達は連れ拐われた人々を救いだすため異世界へ旅立つ事を決意する。
途中、侵攻の影響で地脈が乱れていたせいで、鬼神が目覚めて暴れまわったり邪竜がそれに呼応して更に暴れまわったり、他にも様々な問題が連鎖して起こったりしたが、勇者達はなるべく解決して異世界へと旅立っていった。
それから数百年後。
昔あった惨劇の傷跡など欠片も残らないほど元の緑を再生した世界で、新たに生まれた命が各地で好き勝手に暮らしていた。
溢れるほど増えた人が沢山の国を作り、大量の魔物が世界中を我が物顔で跋扈し、もて余す力を持った者が次々と魔王を名乗り、それに並び立つように自称勇者も乱立するという混沌とした時代。
今ここに、夢と希望とノリとマイペースを携えた少年達が、自由気ままに未知だらけの冒険へ旅立とうとしていた。
『さあ始めよう、僕らの物語を』
「という感じで出発ゴーーーーッ!!!」
「ヒューヒュー! カッコつけてるぅーー!!」
「いやお前、一人称俺だろ!」
「‥細かいこと気にすんなよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある森林の奥深く、小高い崖の上にポツンと一つの砦が先程まで建っていた。
今は見るも無惨に瓦解しており、瓦礫の下に埋もれた盗賊達の呻き声が夕日に照らされるその様は、地獄絵図といっていい。
それらを背景に直ぐ側で、一人の少女と四人の少年が揃って立ち並んでいた。
少女は今までに起こった事を頭の中で整理していた為、少年達の突飛な行動には反応できずただ呆然としている。
少年達は少女の前で整列し、腰を90度曲げ片腕を少女のいる方向に真っ直ぐ伸ばし握手を求めるような形にすると、声を揃えて高らかに宣言した。
「「「「お嫁に来てください!!!!」」」」
「……………ハイ??」