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異世界召喚シリーズ

異世界に召還されて『摩獣100匹倒したら元の世界に返してやる』と言われたが、俺は蕎麦屋なので帰れない

異世界ラッパーと同じ世界です

まだ深夜とも呼べる時間帯。

いつものように自分の店の仕込みに入ろうと店に入ったと思ったら、そこは森だった。


森だ。ここは新橋駅前のチェーン店の蕎麦屋の筈だ。


俺は若くして店長を任されている。

チェーン店とは言え、ここは手打ち蕎麦だ。

朝からやることは多い。

誰よりも早く店に来て、少しでもこの店を良くしようと努力していたのだが。


だが、森だ。

振り向くと柔和な笑顔の女性がいた。


「あの」

声をかけると

『聞こえますかー?』

「わ!」

脳に直接響く声


『突然申し訳ありません。私は召還者。この世界に魔獣という強力な魔物がいます。駆除に手を貸して頂きたいのです』


「ま、待ってくれ。魔獣?召還?」

混乱するが

『幸いお身体を見るに戦士系だと思われます。念のためですが、魔法のやり方を教えますね』

「ちょっと待て!説明が足りない!戦士?魔法???」



その女を見たのはそれっきりだ。

一方的に使命を喋り、「魔法」という力の使い方を喋り、いなくなった。


『魔獣100匹倒せば、自動的に元の世界に戻れます』

だそうだ。

死んだ訳ではないのは安心した。


しかし夢にしては長すぎる。


そう、あれから五年が過ぎていた。


魔獣を倒す?

頭がおかしいのか、あの女は。


初めにあった魔獣は、ライオンと蛇みたいな生き物の頭を持ち、炎を吐いてきた。


あんなもん勝てるか。

こっちは蕎麦屋だ。

多少は筋肉に自信があろうが関係無い。

勝てないもんは、勝てない。

もう一度戦おうとする気力すら奪った。


後から聞いたら、あれでも弱いそうだ。

だから、無理。


俺は当面の問題である「生活すること」に集中する事にした。


なにしろ、金も無ければ、なにもない。

異世界の言葉も分からないから交渉もできない。

いきなり飢え死しそうになった。


それを救ったのが魔法だった。

攻撃魔法なんて使えなかった。

だが、小さな炎は出せた。

そして、なにより、手から蕎麦粉が出せた。


意味が分かるだろうか?

手から蕎麦粉が出たのだ。


お腹がすいた。

蕎麦粉があれば蕎麦作るのに。

と思ったら、手から出てきたのだ。


この魔法はなんでも産み出せる訳ではない。

だが、蕎麦粉や小麦粉、砂糖、塩などは無尽蔵に生み出せた。


そして言語。

元々蕎麦屋に勤める前は、大学で留学もしていたし、幼少のころから両親の手伝いで海外によく行っていた。

身振り手振りのコミュニケーションなら自信がある。


いくら食糧が生み出せるとは言え、魔獣が闊歩する世界を一人で彷徨いたら死ぬだけである。


死んだらどうなるかは分からない。

意外と元の世界に戻れるかもしれない。


だが、そうでなかったら?

死んだら終わりだったら?

その恐怖には勝てなかった。



そして、俺は人里を求めて山を下り、そこそこ大きな街に流れ着いた。


そこでの生活をするに当たって、とにかく情報収集をした。


言葉は通用しない。

しかしボディーランゲージで

『これに価値はあるのか?』

と生み出した素材を、捕まえた商人に片っ端から見せた。


予想通り、塩は喜ばれたが、塩は国の管轄であり、勝手に売買してはいけないそうだ。

がっかりしたが、ある素材を見せたら絶叫された。


「&%$##'!!!! +$&"&!!!」


なにを言ってるか分からなかったが、滅茶苦茶貴重なのはわかった。


その素材を持ち、笑顔で交渉。

どこまでお互いコミュニケーションが通用したのかは知らないが、最後は笑顔で抱き合っていた。


その素材とは「茶」

茶葉である。

貴族が嗜む、超高級品らしい。


所謂「緑茶」の一種で、自分で煎じて飲んだら煎茶に近い味がした。


その茶葉を、その商人に専属契約として提供。

その代わり、その商人は俺に家と、教師を派遣してくれた。


教師。

その世界のことを教えてくれる人。

お爺ちゃんだったが、おかけで短期間で言語をマスターし、世界の事も知り得た。


あの最初にいた山は滅茶苦茶危ない場所だったらしい。

判断を間違えれば死んでいた。

なんて場所に召還しやかったんだ。

あの女。



それから、商人から貰ったお金で店を構える事にした。


そう店だ。


俺は蕎麦屋である。

チェーン店だろうが関係無い。

自分は蕎麦屋だと誇りを持って働いていた。

だから、これが夢だろうが妄想だろうが


蕎麦で食っていくしかないのである。



もちろん、この世界に蕎麦なんか無い。

いきなり蕎麦なんか出しても、受け入れられないだろう。


だから俺はアイデアを絞った。


酒だ。



俺は酒も生み出せる。

そして、この世界にも酒はあるが、非常に品質が悪い。


それもそうだ。

酒は保管も大事になるが、この世界では保管技術が発達していない。


作りたては美味しくても、街に届く頃には酷いものだ。


だから、作りたての酒の味を提供すれば流行る。

そう確信した。


酒にはツマミがいる。

そこに蕎麦を出すのだ。


幸い俺の出す酒はなんでも作れた。

そこで日本酒系を出した。

蕎麦には抜群に会う。


毎日呑んでる俺が言うのだ。間違い無い。



そして、店をオープンした。


最初から混雑というわけではなかったが、予想を超える人に来てもらえた。


料金を少し安くしたのが良かったのだろう。

なにしろ酒は無尽蔵に生み出せる。


そして、大評判になった。


いきなり蕎麦が受け入れられた訳ではない。

とにかく「食べ辛い」と言われた。


貴族はともかく、庶民は手掴みで食事をとるのだ。


箸の使い方を教えるのも大変なので、フォークみたいなものを作って提供した。


また、庶民は手掴みで食事をすることからもわかるように、あまりアツアツの料理を食べる文化がない。


これも困ってしまった。


しかし、水を足してぬるめで提供など、工夫を重ねていった。

そして、五年。

蕎麦は受け入れられた。


「へい!らっしゃい!」

言語を教わった教師がお爺ちゃんだったせいか、俺の言葉使いは古臭いとよく笑われる。


だが、それは蕎麦屋としてはむしろ誇りだ。

直す気はなかった。


「よお!相変わらず元気だな!」

「最初は酒かい!?」

「おう!まずは酒飲まねえとな!」


この世界は仕事前に酒、仕事中に酒、終われば当然酒


酒浸りである。


もちろん理由はある。

新鮮な飲める水なんて貴重なのだ。

酒にすれば、かなり長持ちする。

自然と酒の方が安くて手に入りやすい。


うちは安い上に旨いのだ。

人は大勢来る。


「食事はなににするかい!?」

「おお、そうだ。ソバの前に、あれが欲しいな!キカの実の揚げ物」

「へい!キカの揚げ物一丁!」

キカの実とは、俺の世界では銀杏みたいな味の食べ物だ。


油も手から出たので、これを天ぷらにしたら受けた。

色々天ぷらも挑戦したのだが、とにかく獣肉に対する忌避が強く、肉系は全滅だった。


基本は植物の揚げ物だ。

そして


「こんにちわー♪」複数の女性が来る

「おお!別嬪さんがきたな!嬉しいねー!」

お客さん達が騒ぐ。


彼女達はハーフエルフだ。

街に住む、エルフとの混血

この人達も常連だ。

理由は


「はい。果実酒です」

「えへへ。これが無いと1日が越せないんですよ♪」

果実酒。

俺は酒ならなんでも生み出せた。

果実酒もメニューに並べたら、女性が殺到したのだ。

曰わく


「果実酒なんて高級品が飲めるなんて信じられない」と


女性も酒を飲むが、あまり身体に合わない。

果実酒は合うようだ。


だが、森に行かないと果実は手に入らない。

しかし、森はエルフの領域。

人間はもちろん、ハーフエルフも入れない。

なのに果実酒がある。


最初は森のエルフが、密輸を疑がって襲撃をしてきたりしたが、魔法での精製と理解してもらい、今では友好的に過ごしている。


「ごしゅじーん♪お酒のみほーだいにしてくれたら、結婚してあげるってはなしはどーなったー♪」

僅か三杯でベロベロになったハーフエルフのお客さんが、たわごとを言ってくる。


「店の在庫全部枯らしそうだからお断りします」

酔っ払いの言うことなど聞くだけ疲れるだけだ


滅茶苦茶美人だし、正直ドキドキするが、酒の冗談を真に受けるほど愚かなことはない。


しかし、楽しい。

そう。この蕎麦屋は楽しかった。


「はい、蕎麦でますよ!」

みなに蕎麦を配る。


俺はどこに行こうが蕎麦屋だ。


例えこの異世界でもやることは変わらない。


蕎麦をうち、生きていく。



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召還者『あれ? そう言えば私が召還したうちの一人がまだ任務達成してませんね? なにやってるんだろ?』

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