神の代行者
「シルバ様こんにちは!!本日も祈りに来ました!!」
「こんにちは、アモシ。こんにちはって事は今はお昼なんだね?」
「はい!!」
アモシという少年と青年が、一面が樹と緑に覆われた樹海のような場所で会話をしている。シルバの後ろには巨大な樹が佇んでいて、樹には白いギザギザの神が垂れ下がった太いロープが巻かれている。樹の元には神具と呼ばれる道具が複数置いてあり、彼は神具の手入れをしていた。
少年の見た目は8歳程の身長で、藁で編まれた黄緑色服と黒い布を使用した袖部分が短いズボンを履いている。ズボンと服の袖からは茶色の肌を覗かせており、瞳の色は明るい茶色で、髪は黒で短い。
「やっぱりお昼か。お腹が減ったからそんな気はしてたよ。ここにいると、えーっと、時間って言うんだっけ?その感覚がわからなくなるよ」
「僕もお腹がペコペコです!でも食べる前にシルバ様に祈って来なさいってお母さんに言われました!」
「祈られてもお腹はたくさんにならないんだけどなぁ」
困ったように笑いながら、シルバと呼ばれている青年は頬をかく。見た目は10代中盤辺りで、彼の服装は少年とは大きく異なり、白い布をふんだんに使った物を着て、頭には髪を隠すように白い帽子のようなものを被っている。帽子の前から薄い布が垂れ下がっており、彼から少年は見えるが、少年からシルバの目は見えないようになっている。
「では祈りを捧げます!」
少年は片膝をつき、合わせた手を顔に近づけて目を瞑り、祝詞を唱える。
「神の世行者ぞ。我の祈りを遥か高き地におはする神のがり捧ぐ。いかでかこの地の者等に慈悲深き恩恵と繁栄を与へ給へ。」
シルバは木と紙で作られた神具を、少年の頭上に紙を垂らすように持つと、
「そなたの祈り、確かに聞きやりき。然せば我は偉大なる神の世行者としてこの地に祝福を与ふ」
と唱え、祓うように神具を振り、太いロープが巻かれている木の元に神具を置いた。
「ありがとうございました!ご飯食べてきます!」
シルバの返事を聞かない内に走って行ってしまった。
「元気だな、うん。いい事だよね」
少年の後ろ姿を見送りながら、大きい石に座る。
「この部屋も外の様子が分かればもっといいんだけどな。明るいのか暗いのかもわからないし」
樹海のような見た目ではあるが、れっきとした部屋であり、アモシが向かった先には唯一の出入り口がある。
太い根が中央にある樹から部屋中に這っていて、何処からかわからないが、水も流れている。シルバ以外の生物はおらず、部屋の中に加工されたものは部屋の壁と神具、天井以外ない。
彼はここで神の代行者として生活しており、この部屋からは基本的に出てはいけないという「常識」を守っている。神の代行者は、神様が遥か遠く高い地に行くための道しるべとして使用するとされている樹を管理している。樹に向かい神への祈りを日々捧げ、住む土地の繁栄の願いと、代行者としての役割に従事することができることに感謝を込めて樹を守る使いである。
「彼にも大きな幸があらんことを。僕も役割をしっかりと果たさないとね。」
静かに目を閉じ、アモシの幸せを願うと同時に自分の立場を再確認する。彼は祈りを捧げる人が来るたびに確認することが「常識」と考えている。
すると、彼の腹からぐううと可愛らしい音が響いた。
「お腹減ったな・・・ご飯はまだだろうか」
樹に向かってぼやくが、樹は佇んでいるだけだった。