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ブザービーター  作者: 松 タリオ
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第1ピリオド

冴えないバスケ部の大学生タカシには、いっちょまえに同棲する彼女いる。

その彼女は女子バスケのエース。

なぜ彼女はタカシと付き合っているのか…

かつてタカシにも栄光の時があった。

それを取り戻す気の無いタカシと、取り戻させたい彼女やその周りの仲間たち。

しかしその思惑にも徐々にズレが…



「それじゃ、私、1限目から講義あるから、先に学校行くね。

朝ごはんは目玉焼きとサラダ作ってるから、あとはパンをトーストして食べて。

あ、あと洗濯だけお願い!絶対だよ!

干す時は、シワはちゃんと伸ばしてから干してといてね!」


玄関でスニーカーを履きながら、リサは、部屋の奥でまだベッドの中にいるタカシに向かって朝の伝達事項を大声で伝えると、タカシの反応を確認することなく、玄関を出て行った。


タカシが少し前から起きて寝たふりをしていたからいいようなものの、ほんとに寝てたら今の“指示”はちゃんと伝わっただろうか。

それとも、タカシは寝たふりしてて本当は起きてるって確信があったのか。

まあリサの洞察力なら、起きてるのはバレていたのかもしれない。


“めんどくせえな”


リサが出かけてからも、タカシはしばらくベッドの中でスマホを弄っていたが、自分の講義も2限目からあることを思い出し、慌てて起き上がった。


リビングのテーブルの上には、リサがタカシのために作った朝食が、きちんとラップした状態で置かれていた。

もう冷めてしまった目玉焼きを、トーストした食パンにのせ、マヨネーズとケチャップをかけて、牛乳と一緒に口にねじ込む。

テーブルに置かれたサラダは、タカシの嫌いなセロリが入っていた。

タカシがセロリが食べられないと知ってるはずなのに、リサはワザと入れている。

リサがセロリ好きなのだから仕方ない。


“同棲生活は妥協の連続だ”


そんなことを考えながら、タカシはサラダを冷蔵庫にしまう。


食事を済ませ、歯磨きをしていると、リサから洗濯しておくよう言われていたことを思い出した。

洗濯機を覗くと、洗うべき衣類と洗剤は既にセットしてあった。

後はタカシが今まで寝巻き代わりに着ていたTシャツとハーフパンツを投入し、蓋をしてスイッチを押せばいいだけだ。



「ありゃ…」


スイッチを押したあと、何となくポケットの中のスマホで時間を確認すると、ベッドでウダウダし過ぎたせいで、2限目に出席するには、もうあまり時間がないことに気づく。


“彼女の言いつけを守って洗濯してたから、授業出られませんでした…”

そんな言い訳が頭をよぎるが、

“流石にそれは冴えんなぁ”

とすぐ苦笑いし、洗濯機のスイッチを一度切る。

ピッピッと設定を変更し、今度は時短モードで再スタートさせた。

これで20分近くは時間短縮になるはずだ。


『お急ぎ』モードで洗濯することを何故かリサは極端に嫌うが、バレなきゃいいだろう。

でも、なんで時々バレるんだろう?




洗濯機の横でぼーっとしながら、明るい日差しの差し込むベランダ越しに外を見ると、爽やかな青空が広がっているのが、カーテンの隙間から見える。

こんな日は講義を聞いているより、公園でぼーっと日向ぼっこをしていたい気分になる。


“やっぱサボろうかな”

いつものクセでそんな考えも頭に浮かぶが、過去サボりすぎて、あまり単位に余裕がないのも事実だ。

出れる講義には出ておいた方がいいと、思い直す。

しばし葛藤を繰り返し、最終的には2限に行くことにしたのだが、今度は、行くなら行くで早く出てコンビニに行きたいと思い始めた。


“こんなことなら、あの時ちゃんと起きとけばよかった…”





この部屋は元々タカシの部屋だった。

一つ年下の彼女、リサのほうがむしろ同棲に積極的で、半ば強引に転がり込んできた感じだ。

仕送りしてくれている親の手前、今でも一応リサのアパートは借りたままになっているが、リサの部屋は大学から少々遠く、部屋も狭い。


「部屋遠いなら、ウチにくれば?」


半ば冗談で、タカシは言った。

いや、本人は冗談のはずだった。

そうは言っても、ここも狭いし。


「ホント?じゃ時々泊まらせて?」


そう言うとリサは少しホッとしたような笑顔を見せた。よほど大学に通うのがめんどくさがったんだろう。

そして最初は、リサも週に一、二回ほど泊まる程度だったのが、今では完全に同棲状態で、リサの生活の拠点はこの部屋になってしまった。

リサが自分の部屋に帰るのは週に一度、しかも夜遅くに帰って朝早く大学行く前にタカシの部屋に戻ってくる程度だ。


タカシも、この生活が嫌な訳ではない。

たまに自分の時間が欲しいと思うこともあるが、しばらくこうして一緒にいると、もはやリサがこの部屋にいることが当たり前のように感じられ、ストレスは自分で上手く発散するようにしていた。




ようやく洗濯が終わった。

カゴに取り出し、自分の洗濯物をベランダに、リサのものは部屋の中に干す。

干し方もリサに教わった通り、リサの下着類は外からも見えないように、タオルの陰に隠すように干す。


おそらく二人は、一般の大学生より洗濯物は多い。

普段の衣類に加え、Tシャツや練習用の短パン、ソックス、タオル等々。

それが二人分。暑い時期になるとさらにそれが2セット3セットになることもある。

洗濯物を干し終わり時計を見ると、もう学校に行く時間になっていた。



テキスト類の入ったデイバックを肩にかけ、スポーツバックに今日使うTシャツやソックスなど一式を詰め込み、タカシは大学に向かった。




まだ5月だというのに、今日も暑い一日になりそうだ。

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