9. なんだか世話のかかる人みたいだ
昨日の晩に莉子について話がしたいとあの人にメールを送ったが、もしかしたら迷惑だっただろうか。
朝のホームのいつもの場所で莉子を待っていると、ブラウスの胸ポケットに入れていたスマホが鳴った。
だれからだろうかと思いながら、画面をみると二階堂さんからのメールが来ていた
『空きそうな時間が作れたら連絡をしたいと思います。待たせてしまって申し訳ない』
メールの内容はシンプルだった。
修平もこんな感じで、『わかった』とか『了解』とだけ返してくるし、男の人はみんなこんな感じなのかだろうか。
「おっはよー」
「あっ、うん、おはよ」
メールを見ていると急に後ろから莉子が声をかけてきて、思わずへんな声がでてしまった。
「ごめん、驚かせちゃった? なにか考え事でもしてたの」
莉子に黙って二階堂さんのことを調べていることがどこか後ろめたくて、握っていたスマホを背中に隠した。
「そろそろ、期末試験だなって思ってさ」
「そうだねー、点数が悪いと夏休みの間補修いかないといけないからがんばらないと。夏休みは目一杯遊びたいからね!!」
「がんばってね。高校入ってしょっぱなから赤点とかとらないでよ」
「だ、だいじょうぶだよ。それをいうなら修平だってやばいんじゃない。あいつ、無理してこの学校に入ったんだから、いつも授業難しいとかぼやいてるじゃん」
修平は最初は別の高校を志望していたが、莉子と私が今の高校を選ぶと聞いて、いきなり志望先を変更して合格するために猛勉強を始めた。
やっぱり、莉子と一緒にいたいんだろうなと応援するために勉強を教えたりすることがあった。
結局、部活のスポーツ推薦で入ることができて、勉強を教えるのも途中で終わりになった。
「それじゃ、また、勉強会でも開く?」
「お願いしますよ、千明せんせー。修平にも教えておくね。修平よろこぶぞー」
前に教えてたときは、頭がパンクしそうだっていってへばっていた気がしたけど大丈夫なのだろうか。
今日は特に走ったりせずに、他の生徒たちの波に乗るように登校することができた。
夏に走ったりした後なんか、汗をかいたまま教室に入ることになるので、においとかが気になってしかたなかった。
「よっ」
「おはよーさーん」
教室に入ると、莉子と修平は気軽な感じで挨拶を交わし、わたしもおはようと修平に挨拶した。
「ね、ね、修平、今度の期末試験に向けて勉強会開こうよ」
「期末試験なんて一ヶ月先じゃねえか。ちょっと気が早いんじゃないのか」
「早いにこしたことはないでしょ。それにさぁ」
莉子が私の方をちらりと見た後、修平に何かを耳打ちした。
「そ、そうだな。よしやろう!!」
なぜか、修平が頬を赤くしながらこちらをチラチラと見てきた。その横で、莉子がなにかを企むように口を手で隠しながら笑っていた。
「修平は部活があるから、平日は無理だろうから土曜日にする?」
「ああ、土曜の午後からなら空いてるぞ」
「場所は、またうちでいいかな。どうせ誰もいないだろうし」
以前、勉強を教えていたときも修平のうちに行こうとしたのだが、何故かいやがるので結局うちでやることになっていた。
「あんたら3人、ほんと仲いいよね~」
勉強会について話していたところで、横で聞いていたのかクラスメイトの女子が話しかけてきた。さらに、他の男子がからかうように修平に話しかけた。
「修平もうらやましいよな。女子の家に遊びにいくとか、しかも中里と井上といっしょだろ」
「ば~か、そんなんじゃねえよ。こいつらとは、その、ただの幼馴染だ」
「ほーん、さいですかぁ。修平君の本命はどっちなのかなぁ」
男子はニヤニヤと笑いながら修平を見つめ、修平はどこか恥ずかしそうに口元をへの字に曲げた。それから、修平が私の方にチラリと視線をおくってきて目が合い、修平はなにかいいたそうな顔をした。
「だー、くそ!! お前のせいで変な空気になっただろうが」
修平は視線をそらすと、からかってきた男子にヘッドロックを決めた。
「ギブギブ!! 悪かったって」
絡み合う二人を見ながら、クラスメイトたちがはやしたてていると担任の先生がやってきて、みんなは席についていった。
放課後、私は一人で駅のホームで帰りの電車を待っていた。
莉子は用事があるといって、学校に残っていった。
「今日も一人か。まあいいか……、なれてるし」
なんとなく周りを行きかうひとびとの姿を見ていた。
同じ学校の人、スーツをきたサラリーマン、小学生ぐらいの小さな子もいた。
向かいのホームに目を向けると、一人の男性が目に入った。
「あれは、二階堂さん?」
ベンチに座って顔を伏せているが背格好がこの前みた姿と同じだった。
座ったまま微動だにせずに、じっとしている姿が不自然だった。向かいのホームに電車が到着するアナウンスが流れたが彼は動こうともせずに、まだジッとしていた。
不安になり、私は向かいのホームまで移動した。
「あの……」
ベンチに座る彼に声をかけるが、やはり反応がなかった。
「大丈夫、ですか?」
恐る恐る肩をゆすってみると、ぐらりと体が傾むいた。
慌てて地面に激突する前に彼の体を受け止めた。すると、丁度彼の顔が私の顔の横にきて、スースーという規則正しい息の音が聞こえてきた。
「寝息? 二階堂さん、おきてください」
彼の耳元でささやくと、ようやく彼の目が開いた。
「む……、あれ?」
彼はまだ寝ぼけているようで、状況がつかめず辺りをキョロキョロと見回した。
そして、自分のすぐ側にいる私の存在に気がついた。
「えっと、きみは、たしか……」
「あの、すいません。そろそろ体を起こしてもらえると助かるのですが」
私の力では彼を元の体勢に戻せずいまだに抱きとめた状態を維持している状態だった。そろそろ、腕と足がきつくなってきているのを感じていた。
「ごめんごめん、とりあえずお礼をいっておくよ」
ようやく状況がつかめたのか、二階堂さんは立ち上がってくれた。
私も立ち上がりスカートの裾の乱れを直した。
「いえ、ただの私の早とちりです。呼んでも動かないものだから具合でも悪いのかと思って」
「あー、そうだったのか。ちょっと疲れてて、電車待っている間にベンチ座ったら、そのまま寝込んじゃったみたいだね」
「はぁ、ちゃんと寝てくださいっていいたいところですが、仕事大変なんですね」
「まあ、そこそこにね」
そういいながら、彼は腕時計をチラリとみてゲッと声をあげた後天を仰いだ。
「やっばいなぁ、いつのまにか30分もたってるよ。早く会社にもどらないと」
二階堂さんは慌てた様子だったが、ホームに設置された電光掲示板をみると次の電車の到着は10分後であった。
「まだ電車はきませんよ。とりあえず、座ってましょうよ」
「あー、うん、そうだね」
二階堂さんはガックリ肩を落としながら私の横に座った。
「あー、そうだ。丁度時間もできたことだし、メールで書かれていたことでも話そうか」
「えっと、ほんとに大丈夫ですか? 会社に連絡をいれたりとかしなくて」
彼のことが心配になってきたが、大丈夫だいじょーぶといわれたのでためらいながらも切り出すことにした。
「莉子のことなんですけど、本気、なんですよね?」
「もちろんだ」
さっきまでは少し眠そうな顔をしていたが、私の質問に対してははっきりと答えてきた。
「そう、ですか」
確定か。莉子も二階堂さんのことが好きで、彼も同じように莉子のことを思っている。
修平になんていえばいいんだろうか考えると、思わずため息がでてしまった。
しかし、そのため息を別の意味にとられてしまったのか、二階堂さんは困ったような顔をした。
「やっぱり、ボクみたいな年上のサラリーマンが付き合うってのは不安に感じるかな」
「いえ、そうじゃなくて、こっちの問題です。それに、あの莉子と付き合うあなたの方がちょっと心配です」
「そうなの? もしかしてすごい趣味を隠してるとか?」
それから、莉子のことについてあれやこれやと過去の体験談を交えて話した。
「……キミも結構苦労してきたんだな」
「まあ、それなりに……」
苦笑する二階堂さんの顔を見ながら、私も苦笑がもれてしまった。
そこに次の電車が到着するアナウンスが流れた。
「そろそろ次の電車がくるみたいだ。ありがとう、色々話がきけてよかったよ」
「いえ、私もいきなり失礼なことをきいてしまってすいません。それと、今度は電車内で寝過ごしたりしないでくださいよ」
「あー、うん、がんばるよ」
彼は少し恥ずかしそうに頬を指でかき、電車が到着した。
「莉子のことでなにか相談があったらいつでもどうぞ!!」
電車に乗っていく二階堂さんの背中に言葉を投げると、ありがとうと笑顔と一緒に言葉を投げ返してきた。
「はあ、いいひと、なんだろうね」
過ぎていく電車を見送りながら、ぽつりとつぶやいた。
ちょっと抜けてる感じでなんだか放っておけなくて、応援するような言葉をかけてしまった。
修平のことを考えるなら、莉子と別れてくれたほうがいいのかもしれないっていうのに……。




