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7. 気まずい月曜の朝

 月曜日の朝になり、学校にいくのは気が重かった。

 駅のホームで電車を待っていると、後ろから声をかけられた。


「千明~、おは~」


 この間延びした声はたぶん莉子だろうなと思いながら振り向くと、予想通り莉子が立っていた。

 隣に立つ莉子はふにゃりとした笑顔を浮かべていて、朝に弱いこの子はいつもこんな感じだった。

 ときどき遅れて来ることがあり、そんなときは莉子を急がせて学校までダッシュで登校するハメになっていた。

 

 おはようと挨拶を返しながら、昨日のことを話そうか迷っていると先に莉子の方から話しかけてきた。


「昨日はごめんね、用事がはいって一緒に遊べなくて」


「いや、別にいいよ。たまには修平と二人で遊ぶのも楽しかったよ」


「楽しかったならよかった~、どんなところいってきたの?」


 それから、私と修平とのやりとりとかを話していたが、結局莉子と一緒にいた男の人については聞けずじまいだった。

 教室に着くと、ホームルームが始まる10分前でクラスメイトたちも揃っていた。

 他の男子たちと談笑していた修平が入ってきた私達に気づいて挨拶をしてきた。


「莉子に千明、おっす」


「うん、おはよう。あのさ、修平、昨日は勝手に帰っちゃってごめんね」


「いや、いいよ、用事があるならしょうがないだろ」


 ためらいがちに昨日のことを謝ったが、修平は気にした様子もなく、また男子たちと話し始めた。


「莉子ー、おはよー、ちょっと聞いてよ」


「なになにー」


 クラスにいた女子が莉子に話しかけていた。莉子は誰とでも打ち解けやすく、人の輪の中心にいることが多かった。

 莉子が女子たちとわいわいと話すのを横目に、自分の席に座っていると授業が始まった。



 放課後になり、カバンを肩にかけて莉子に声をかけた。


「莉子、帰ろ」


「千明、ごめんね。誘われちゃったから、今日は一緒に帰れそうもないや」


 謝る莉子に気にしないでといいながら手をヒラヒラと振った。

 今日も一人で帰ることになりそうだと思いながら、カバンを持ち直した。


「どこいく~?」


「とりあえず、ファミレスいって詳しい話しようか~」


 数人の女子たちと一緒に莉子が教室から出て行くのを寂しさを感じながらも、他の帰宅部と思われる生徒たちに混じって駅に向かった。


 駅のホームで電車を待つ間、スマホをいじりながら時間を潰していた。

 本を開いて読むこともあったが、あまり気が乗らず適当にニュースサイトをながめていると、芸能人の不倫疑惑の記事が見えたが特に興味もなかったので飛ばした。


「もしもし、これから会社にもどるところです。はい、はい、かしこまりました」


 スマホの画面を眺めていると、不意に若い男性の声が耳に入ってきた。

 どこかで聞いた覚えのある声だと思いながら顔を向けると、そこには莉子と一緒にいたあの男性がいた。

 今日はネクタイをきっちり締めたスーツ姿で、手には革製のバッグを持ち、だれかと通話中の最中のようだった。


 横目で男性のことを見ていると電車がやってきた。

 どうやら彼が乗る予定の電車だったようで、スマホをしまうと乗り込んでいった。


 数瞬迷ったが、私はその後をつけるように、同じ電車に乗った。

 なにやってるんだ、私は……。特になにか話をつけようというわけでもないのに、なんとなく追いかけてしまった。


 男性から離れた場所で様子をうかがっていると、シートに座った彼は難しい顔をしながら手帳にカリカリと書き付けていた。

 やがて、次の駅に到着するアナウンスが流れると、男性は慌てたように立ち上がり、ドアに向かっていった。


「あ……」


 男性の尻ポケットから何かが零れ落ちたのが見えたが、彼は気づくことなく電車から降りてしまった。

 私はシートに置き去りにされた黒い革製の財布を拾い上げて、男性の後をおって急いで電車から降りた。

 ホームの人ごみの中で、男性を見つけて追いつこうとするがカツカツと早足で進んでいく背中になかなか追いつけなかった。


「あの、そこのスーツ姿の男性の方!!」


 しょうがなく大声で呼びかけることにしたが、近くにいた数人のサラリーマンの人たちが振り向いただけだった。

 名前もしらず、これといった特徴もないためどうやって呼びかけていいかわからず、足を止めてくれそうもなかった。


「最近、女子高生と付き合い始めて、駅前の喫茶店でパンケーキを一緒にたべて、ゲーセンでぬいぐるみをプレゼントしたサラリーマンの方!!」


 私の声を聞きぎょっとしたように、先を歩いていた男性が振り返った。

 周りにいたひとたちも何事かと興味のありそうな顔つきで、私の方を見ていた。


「ちょ、ちょっと、君!!」


 男性は慌てて私の手を取ると、人が通らないスペースに引っ張っていった。


「えっと、君は?」


「すいません、なんて呼び止めれば分からなかったので。これ、落としましたよ」


 困惑する男性の前に拾った財布を差し出すと、彼は自分の後ろポケットを確認した。


「確かにないな。ありがとう、拾ってくれて。だけど、なんでボクのことを知ってたんだい?」


 男性は財布の中を見て、自分の物だと確認した後、不審げな顔をした。


「この前偶然、友達とあなたがデートしているのを見かけたものでして」


「そうだったのか、君は中里さんの友達だったんだね」


 男性は莉子の名前を口にした。やっぱりこのひとで間違いないのだろう。


「莉子は男性の人とお付き合いしたこととかないので、相手のひとがどんな方なのか気になってしまって。すいません、疑ってるわけではないのですが」


「そっか、まあ、気持ちは分かるよ。女子高生とサラリーマンが付き合ってるとか、傍目からみるとなにかありそうって思ってしまうだろうね」


 男性はきまずそうにした後、懐から名刺を取り出し、裏面に何かを書いた。


「これ、ボクの名刺。今は会社にもどらないといけないから、聞きたいことがあったら裏面に書いた番号に連絡してもらってもいいかな」


 受け取った名刺を見た後、私も自分の携帯番号を教えた。


「二階堂さん、ですか。私は井上千明といいます。すいません、急いでいるときに引きとめてしまって」


「いや、中里さんに心配してくれるいい友達がいるってわかってよかったよ」


 それから、お互いに挨拶をすると、二階堂さんは足早に離れていった。

 手元に残った名刺を丁寧に財布の中にしまいながら、声をかけてみたはいいけど、具体的に何をすればいいかわからなかった。

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